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自分にも懐いた犬

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第二章

「すぐに連れて来るからな。そこでいろ」
「じっとしてないと駄目か」
「そうだ、ガンツもだ」
 犬にも声をかけた。
「そこにいるんだ、いいな」
「ワン」
 ガンツは父の言うことだけ聞いて懐いていたので素直に頷いてだった。
 こう言ってだ、父は息子の自転車を借りてだった。
 すぐに医者を呼びに行った、それで息子は待っていたが。
 父が医者を連れて戻って来ると咄嗟のことでそこにいる様に告げていたガンツがじっとしていたのだが。
 怪我をしている息子の傍でそうしていた、父はその光景に驚いた。
「ガンツがお父さん以外に懐いているのか」
「ずっと傍にいるんだよ」 
 道の端で座って大人しくしている息子が答えた。
「父ちゃんが行ってからな」
「そうなのか」
「いや、全然懐いていないと思ったら」
 息子は父に犬を見つつ話した。
「これで結構な」
「懐いてるんだな」
「家族と思ってな」
 そうしてというのだ。
「本当にな」
「そうなんだな」
「ああ、じゃあ病院だよな」
「ここで少し診てもらってな」
 こうして診てもらったが。
 頭から血を流していても大した怪我ではなくてだった。
 彼は無事だった、そしてガンツはこの時から彼にも母にも愛想がよくなり彼が大学を卒業するまで生きたが。
 結婚して就職して子供が出来てだ、英は息子にすっかり薄くなった頭を撫でながら家にいる茶色の雄の柴犬を見て自分の中学生の頃そっくりだが茶髪の中二の息子一樹に話した。
「お父さんが中学生の頃にも犬飼っていたがな」
「カズマみたいな犬か?」
「ワン」
 息子はその犬と遊びながら父に応えた。
「こんないい子か」
「いや、不愛想で最初は祖父ちゃんにしか懐かなかったんだよ」
「誰にも愛想あるんじゃなかったんだな」
「カズマと違ってな」
 家族でいつも賢く愛嬌があると話している犬を見つつ話した。
「そうだったんだ、けれどいい子だった」
「不愛想でもか」
「ああ、不愛想でもな」 
 それでもというのだ。
「いい子だった、じゃあ今からその子のこと話していいか」
「ああ、どんな子だったんだよ」
「最初は捨て犬でな」 
 このことから話した、英は息子にガンツのことをとても楽しく話した。不愛想だったが家族思いだったその犬のことを。


自分にも懐いた犬   完


                 2022・11・25 
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