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矢の一念

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第二章

「あれは凄いというものではない」
「だからですか」
「旦那様もそう言われますか」
「李将軍の足下にも及ばない」
「その様にですね」
「私などほんの若輩、能無しに過ぎない」 
 こう言って李広を常に褒め称えた、その中でだった。
 皇帝が催した狩が行われた、それには衛青だけでなく李広も参加していたが。
 皇帝は李広に直接声をかけた。
「将軍、この度の狩では虎もいる」
「ではその虎をですか」
「そなたの矢で狩ってくれるか」
 李広、髭はすっかり白くなり顔には皺が多くある彼に言った、身体つきは見事だが老いは一目瞭然だった。
「そうしてくれるか」
「帝がそう言われるなら」
 李広は畏まって応えた。
「是非共」
「そうしてくれるな」
「はい」
 礼を尽くして再び応えた。
「そうさせてもらいます」
「寅が出たならな」
「そうさせてもらいます」
 厳かな声での返事だった、かくしてだった。
 狩がはじまり多くの者がその腕前を披露し多くの獲物を手に入れていった。衛青もそうしていったが。
 李広は評判通りにであった。
「凄いな」
「流石李将軍だ」
「狙いは外されぬ」
「馬に乗って走られたうえで飛ぶ鳥を落とされるとは」
「まさに神技だ」
「お歳を召されても腕は落ちておられぬな」
「むしろより凄くなっておられる」 
 誰もが李広のその弓の腕に唸った。
「天下一の弓の腕だ」
「そう言うしかない」
「これまであそこまでの弓の腕の方がおられたか」
「おられぬな」
「とてもな」
 李広を見て口々に言う、だが李広はそうした声を意に介さず。
 馬を駆りその背で弓を使い続けていた、そこでだった。
 彼の傍にいて馬を駆っていた者が前を見て言った。
「あそこにいるのは」
「虎だな」
 李広もそれを見て言った。
「間違いない」
「今にもこちらに来そうですね」
「襲われる前に射抜く」 
 李広は確かな声で述べた。
「そうする」
「射抜かれますか」
「そうする、ここは任せるのだ」
「それでは」
 供の者は李広ならやってくれると確信していた、だからこそだった。
 彼が虎を射抜くのを見ることにした、李広は弓を構え矢を引いた、そうしてその矢を放つとだった。 
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