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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第九十二話

 さて、関ヶ原の戦いが終わり、消滅した九州やバグっていた世界は正常に戻り、今後のことを皆できちんと話し合った。
西軍の総大将であった石田三成が天下を獲る気はなく、もう家康が好きにすれば良いのではないか、
などと言い出したこともあって、家康さんが天下を獲る事になってしまった。

 まぁ、誰が獲っても話がややこしくなりそうだし、家康なら上手く纏めてくれんだろ、という
アニキの後押しもあって、家康さんは晴れて天下人となった。

 何だかあんな戦を起こしてたのが馬鹿みたいに思えるほどの呆気ない幕引きに、一番驚いていたのは家康さんだったけどね。
ちなみに家康さんは間違ったことをしたと、本多忠勝に尻叩きをされていたのが印象的でした。

 これで徳川幕府が誕生して、時代は戦国時代から江戸時代に突入するわけだけども、
日本を作っている構成員の顔ぶれが史実と全然違うのは言うまでもなく、戦こそ無くなったけれど政宗様は相変わらずレッツパーリィで、
仕事ほったらかして幸村君と戦いに甲斐に行っちゃう始末だし、それでキレて政宗様の後を追って小十郎が連れ戻しに行くのもいつもの流れだった。

 本当、平和な世の中になったもんだ。ゲームの世界としては成立しないくらいにさ。

 で、肝心の私がどうなったのかっていうと……

 「小夜! お前なんて恰好してやがんだ!! いい加減女の恰好しろよ!!」

 「だって、どのタイミングで小十郎と変わるか分からないんですもん。
良いんですか? 小十郎がバッチリ化粧して、女物の着物着て簪なんか挿してても」

 そう、身体を失ってしまった私は、小十郎と共有して身体を使っている。
元々私は小十郎を改変したデータを使ってたわけだから、魂を納める器としては互換性があるんだって。
松永が相当怒って神様を火あぶりにしてたけど、納めてしまった魂を無理に引き剥がすと小十郎の身体に影響が出るからと最終的に諦めてくれた。
まぁ、バグが起こらないように処置はするとは言ってたけど……どんな仕組みになってんのかは私には分からない。
ってなわけで、大体一日置きに交代しながらこの身体を使っている。
データを改変しながら元の小十郎と私との姿を入れ替えてるもんで、一日に何度もそれをやると結構な負荷がかかるのだとか。
だから、負担が然程かからない最短の時間である一日置きに交代で、と二人で決めて入れ替わり立ち代りでやってんだけど……
この身体が変わる瞬間ってのがどうにもまだ上手くコントロール出来なくて、
戻ろうとしてもその半日後に効果が出たり、思ってすぐに切り替わったりと安定しないわけだ。
だから、私は小十郎の服を着るようになって、あの無駄に腰の細さが強調される羽織なんかも着てたりする。
流石にでかいから着られてるみたいになってるけどもね。

 結局こんな状態ということもあって、幸村君の妾にはなれず、かといって政宗様の正室なんかにはなれるわけもなく、
二人ともきちんと嫁を取って夜は嫁とパーリィに励んでるわけだ。
でも、やっぱり私を諦めることは出来ないみたいで、そなたを攫って行きたいと熱烈に幸村君にアタックされ
、政宗様には腕に抱かれて甘く囁かれたりとかしてたりする。

 ……けどお前ら分かってる? この身体、小十郎のものなのよ?
記憶も共有してるから、全部小十郎に筒抜けなのよ? you see?

 小十郎と言えばあの戦いの後小十郎もしっかりと身を固めて、夕ちゃんとの間に男の子を設けた。
名前は左衛門、後に“鬼の小十郎”と呼ばれる二代目小十郎の誕生だ。
で、この子が生まれる前に小十郎が政宗様に子が出来る前にうんたらと余計なことを悩んでるのを気付いてたから、
頭の中で説教をして政宗様に全部チクッてやりました。
姉にも報告して、政宗様と姉を挟んでの大説教会は記憶に新しい。

 アニキも鶴姫ちゃんを掻っ攫うのに成功して、石田を連れてちょっと世界を見てくると行って出掛けたし、
四国はアニキが親戚から養子に取ったっていうアニキとそんなに歳が変わらない信親さんが代わりに治めてる。
戦が無くなった以上、毛利が攻めてくることもなくなったからと気兼ねなく外に出て行くことを決めたみたい。
慶次は商人に転向した雑賀衆に永久就職することになったらしくて、孫市さんにこき使われながら生活する日々を楽しんでるのだとか。
この前野菜を貰いに奥州へ遊びに来たまつさんがそんなことを話してくれたな。

 松永は私達の様子を見に、なんて言いながら六爪を奪おうとあれやこれやと定期的に攻めて来るし……
あ、佐助はかすがに告白して壮絶な振られ方をしたらしい。
そりゃ、散々なこと吹き込んだもん、それにあの子謙信様LOVEなんでしょ?
なら私が何も言わなくても勝ち目ないよ。
で、今は武田の嫁さん貰った幸村君が正式に後継者として武田を継いでいて、佐助は忍ではなくて武士になり幸村君の右腕になった。
俺様すっかり武士になっちゃったよ~、なんてこの前政宗様を迎えに行った時に言っててさ、
給料上がって良かったじゃん、なんて言ったんだけどどうもその辺は変化がないようで遠い目をしてた。
ついでに、佐助を振ったかすがは軍神と仲良くやってるらしい。
信玄公は元気に幸村君と殴り合いしながら隠居生活を送ってるとか。

 家康さんは将軍が板についてきて、奥州に視察と言いながら遊びに来た時はすっかり凛々しくなってた。
上様、なんて言うと止めてくれなんて言って人懐っこく笑っているのは、やっぱり家康さんだと思う。
身分に関係なく気さくに誰とでも話をしてくれるんだけどさ、時折目を細めて石田のことを話す家康さんは笑っていても何処か寂しそうだった。
いくら利用しようと敵対関係になったとはいえ、元は同じところにいたんだもんね。
二人の間柄がどういうものかも私には分からないけど、いろいろ思うところはあるんだろう。

 皆、不幸になることもなく穏やかに過ごしている。誰もが泰平の世を喜んでいた。

 ゲームの世界なのに未来があるってのも変な感じだけど、でもまぁ、過去があるんだから未来だってあるはずだよね。



 こんな感じで穏やかに歳月が過ぎ、そしてとうとうこの世界を離れる日が来た。



 六十を前に、小十郎が体調を崩し床に臥せる日々が続いた。
体調不良を訴えて倒れたのが三ヶ月くらい前の話で、そこから急速に体調が悪化している。
史実の小十郎が死んだのも、確か六十になる前だったような気がする。
だから、周りが何も言わなくてももう後が無いってのは何となく予想がついていた。

 連日見舞いに訪れる政宗様は、小十郎には気丈にもいろんな話をして、お前がいなくなると仕事が進まなくなるからと笑っていた。
けれど、私の前になると本当に悲しそうな顔をしてまだ逝かないでくれと縋るから、
そのギャップにいけないとは思いつつ笑ってしまったりもした。
記憶を共有しているって話は野暮だからと隠していたんだけど、
私に見せるこんな政宗様を小十郎も見ていて、何ともいえない気持ちになっているのを知っている。

 そして最後の日、いつものように縋る政宗様に私は穏やかに話をする。

 「人は、必ず死ぬもんです。これも仕方が無いことですよ……
政宗様、私や小十郎がいなくなっても嘆いて立ち止まらないで下さい。
いろんなことがあったけど、私はこの世界に生まれて来られて良かったと思ってるんですから。
……“私”としては家庭は持てなかったけど、小十郎がその分幸せをくれた……
子供達も私を小十郎と同様に親と慕ってくれたし、夕も私を家族として受け入れてくれた……もう十分です。
十分幸せを貰いました」

 「馬鹿野郎! 何でそんな諦めたようなこと言うんだよ、俺はまだ、お前に女としての幸せをくれてやってねぇぞ!!」

 分かってないな、何十年もそうやって思ってくれただけで私は十分なんだ。
そういう気持ちが長く続くと知っただけで、もう十分なんだから。
ずっと想い続けてくれた貴方には酷だったかもしれないけれど。

 揺らいでいく意識と抗えない眠気に、私は自分の死を悟る。

 「……そろそろ私とはお別れみたいです。
……小十郎に代わりますから、こんなに早く死ぬなんて不忠者め! くらい言ってやって下さいな」

 「おい、馬鹿、待て」

 慌てる政宗様に、私は軽く笑う。

 政宗様、貴方には分からないかもしれないけれど……独りで死んでいくわけじゃないっていうのが、嬉しくて堪らないんです。
そんなこと言ったら、きっと怒るかもしれないけど。
人間は独りで生まれて独りで死ぬ、そういうものだと誰かが言ってたけども、
私と小十郎は同じ身体を共有して一緒に死んでいくのだから寂しくは無いし、怖くも無い。

 政宗様、長い間ありがとうございました。
最初の頃はこんなヤンキーになって最悪だし、小十郎をヤクザにしやがってと思ってたけど、
今は無双の貴方じゃなくてBASARAの貴方に仕えられて良かったと思っています。
貴方からもたくさん幸せを貰いました。
でも、伝えると調子に乗るし言ってやるのも悔しいからそんなことは口が裂けても言いません。
そうそう、手篭めにされそうになったのは良い思い出にはなってませんからね。勘違いしないように。

 「……じゃ、おやすみなさい。政宗様……あー、私らいなくなったからって、狂ったように色に走らないように……
あと、箍が外れたように人に迷惑かけないで下さいよ……もういい歳してるんですからね……?」

 「最期の最後にそんな心配かよ!! ったく、変な心配ばっかりしやがって……安心しろよ。
んなことしねぇから。……Good night、小夜」

 政宗様の優しい口付けを受けて、安心して私は目を閉じた。
完全に意識が落ちる瞬間、私の頬に触れた暖かい雫が何だったのかは……考えないことにしてあげた。 
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