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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第八十一話

 いよいよやって来た西軍本陣。そこでは石田と家康さんの壮絶な戦いが繰り広げられている。

 「家康!! 貴様だけは……貴様だけは許さない!! イィエェヤァスゥゥウウウウ!!」

 「三成、ワシは全てを受け止めよう! お前の思いも、何もかも!!」

 しばらくこんな様子を観察していても良かったんだけど、家康の近くに一人でお市がいるのを見つけて慌ててお市を私達の方へと引っ張った。
それに気付いた家康さんが間合いを取って大連合軍と化した私達を見る。
流石にこの展開は予想が出来なかったのか、家康さんが驚愕の表情で連合軍を見ていた。
そしてそれに気付いた石田もまた、私達を見て驚愕の表情を浮かべている。

 「どういうことだ……これは」

 「貴様ら……何をしている!! 何故戦わない!!」

 石田の声に動く西軍は誰もいない。そりゃそうだ、西軍も東軍もほとんどの人間が私らに寝返ってるんだから。

 「くだらない茶番を終わらせに来たのよ。
……何が天下を二分した戦よ! 子供の喧嘩なら人に迷惑のかからないところでやれ!!」

 「くだらないだと? 子供の喧嘩だと……!? この私の憎しみを、茶番と言うのか、貴様ぁあああ!!!」

 神速、その速さで私に切りかかってきた石田を、小十郎と政宗様が止める。

 「茶番よ。くだらないし子供の喧嘩。アンタのその憎しみ、理解は出来るけど共感は出来ない。
……アンタは豊臣秀吉にとって何だったの」

 「私は、秀吉様の左腕だった!! あの方の側で戦い、あの方の為に生きることこそが私の全てだった!!」

 「左腕、ねぇ……。小田原で初めて会った時、アンタは狂信的な部下だと思ったわ。
熱狂的に主を崇め、その為に命を捧げる……けど、忠臣ではなかったってことね」

 私と言葉を交わす度に激昂していく石田に、ただ眉間に皺を寄せる。

 「何ぃいいい!?」

 二人を払いのけようとするものの、石田は思うように動くことが出来ない。
家康さんとの戦いでダメージを食らっているせいか、それとも二人の力量が上がっているのか……どちらもだと思うけどね。

 「この戦いで勝利して家康さんの首を獲った後どうするの。
家康の首さえ獲れればいい? ふざけんじゃないわよ! 力を誇示したっていう豊臣秀吉だって、日本の将来を見据えて動いていたわ!
アンタはどうなのよ。ただ復讐が果たせればそれでいい、それだけじゃない!!」

 「煩い!! お前に何が」

 「分かるわよ。私だって仕える立場の人間だもの。……私も政宗様を誰かに殺されたら許せないと思う。
けれど、戦場で散ったのならば話は別。憎みはするけどそれは政宗様が覚悟を決めて、その上で負けたものと見做して考えるわ。
主の後を追って死ぬのも忠義、だけど志半ばで散った主の無念を晴らすのもまた忠義!
アンタはどちらも捨てて自分の復讐を取った! 今のその姿を自分の主に胸を張って見せられるの!?
答えろ、豊臣の左腕、石田三成!!」

 私の言葉に反論することも出来ず、石田はふらふらと二人から離れ、その場に膝を突く。
誰も石田に突きつけなかった現実、これをはっきりと私は目の前に突きつけた。
ショックは大きいだろう……でも、こうでもしないと、間違ったまま突き進んで、間違ったまま終わってしまう。

 無論、現実を突きつけるのは石田だけじゃない。
この戦、何も石田だけが悪者なんじゃない。ここにも悪党と呼べる人間がいるのだから。

 「それにアンタも、ちょっとやり口が汚いんじゃないのかしら。徳川家康」

 「……何を言っている」

 眉を顰めている家康さんに、私は静かに村正を抜く。

 「絆の力で日本を統べる、なんて耳障りの良いことを言っておきながら……どうしてこういう事態になってるのかしら。
……アンタ、本当は知ってたんじゃない? 石田三成がどういう理由で戦を起こそうとしてるのか。
そしてその復讐心を操って大戦に発展させようとしている人物がいることも。
何もかも知った上で東軍を集めたんじゃない?」

 家康は私の問いに何も答えようとはしない。
沈黙は肯定……そう捉えても良さそうだわ。

 「そもそも出だしからおかしかったのよ。
絆の力で、と言いながら石田の絆を最初に絶っておいて、そのフォローもせずに大戦に発展させた。
完全に、とは言わなくても怨恨を残さないように動くことは出来たはずだし、その後の対応次第じゃこんな戦も起こらなかったはずよ。
なのにアンタは何もせずにこの事態を起こした……考えてみればおかしいことだらけなのよ。
豊臣が倒れてすぐ、同盟を根回ししてたでしょ。それも西軍が出来上がる前から」

 私が甲斐にいた時点では、既に強固な軍を作っていると聞いた。
短い間に戦況は大きく変わるとはいっても、日本を二分出来るくらいの大連合軍を作るには少し時間が早すぎる。
しかも分かっていたかのように手際も良いときた。
関ヶ原に来る前の小十郎の反応を見る限りでは、あの段階では西軍はそれほどの勢力にはなっていなかったのではないのかと予想出来る。
大体豊臣はトップが討たれてガタガタになっていたはずだ、西軍を作るどころの話でもなかっただろうに。
だから、大軍を所有する徳川単体の力でもどうにか出来るほどの勢力だったはずだ。豊臣は。
なのに西軍に対抗するための勢力を作ろうした。

 「ちょっと待ってくれよ、小夜さん。それじゃまるで」

 慶次が最後の言葉を飲み込む。
誰もが厳しい顔をして家康を見つめており、家康もまた何も言わずにただ厳しい顔をして私達を見ていた。

 「……この戦、故意に起こしたんでしょ。自分が天下人だって世に知らしめる為に」

 しばらく沈黙が流れた後、家康は声を上げて笑い始めた。
可笑しくて笑っている、そういうんじゃなくて、何だろう……笑うしかないって感じに笑ってる。

 「まさか小夜殿に暴かれるとはな……。
流石に魔王復活に関しては範疇外ではあったが、確かに戦が起こるように見越して動いた。
それは事実だ」

 控えて見ているホンダムは何も言わず、ただ家康の様子を見ている。

 「本多忠勝は何も言わなかったの? 側近だったんでしょ?」

 「止められたさ。けど、最終的には何も言わずに従ってくれた……ワシの思うとおりにしろとな」

 なるほどね。結局止め切れなかったわけだ。ホンダムは。

 「うちの小十郎は、政宗様が間違ったことをすれば刀を向けて止めに入る。
腹切る覚悟で諌めに入ったのも尋常じゃないくらいよ。私だって小十郎で修正が効かない時は、命懸けで止めに入るわ。
立花さんは主が間違った道に進んでいることを案じて、横っ面を叩いて道を正そうとした。
佐助だって幸村君が間違えれば指示に逆らう……はず?」

 「そこは自信持って言ってよ! 俺だって死ぬ覚悟で止めてるんだからさ!!」

 だって知らないもん、そっちの主従関係。いっつも覗かれてるってイメージしかないしさぁ。

 「主が道を外そうとしたら、止めるのが家臣の役目。
何でもやることに従って着いて行けばいいってわけじゃないの。
……戦国最強、これでいいの? こんな戦いを終えて主が天下獲って、素直に喜べる?」

 ホンダムは私の問いに何も答えない。音一つ発しない。けれど、確実に葛藤しているのは分かった。
表情も何も無いけれど、それでも揺らいでいるのは。

 「……小夜殿、ならばどうする。お前が天下を獲るか。ワシと三成、そしてお前の三つ巴で」

 「そんな面倒なこと嫌よ。天下なんか、きっちり治められる奴が治めればいい。
獲りたきゃ勝手に獲ればいい。けどね……悪い子にはお仕置きをしなきゃならない。これは、大人の務めよ」

 ゆっくりと村正を構えた私の身体から、青い雷が纏わりつくようにして現れる。
重力の力を操っていた私に雷の力があるだなんて、と皆が揃って驚いた顔をしている。

 婆娑羅の力は一人に一つ、二つ力があるだなんて前例が無い。

 「……小十郎の力、借りるわよ」

 構える私を石田が見て、石田もまた迷ったまま構えを取った。

 「ちょっと待ったぁ!!」

 割って入って来たのは毒で伸びていたアニキだ。
どうやら解毒剤が効いて具合が良くなったみたいで、この決戦の場に飛び込んで来たわけだ。

 「おい、小夜! 家康は俺に任せな! 石田はお前がやれ。……俺には、家康と戦う権利がある。だろ?」

 にっ、と笑ったアニキに私は苦笑する。私の言ったこと、海賊達から聞いたみたいね。
それを信じてるのかどうかは分からないけど……まぁ、アニキなら家康の真意を知っても受け止めてくれそうな気がするけどね。

 じゃあ……家康さんは友達のアニキにお任せするとして、石田を相手にしますか。

 「竜の右目、片倉景継……御相手仕る!」

 そう叫んだ後、どちらからともなく動いて激しく剣を交えていた。 
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