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入れ墨というもの

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第二章

「ちょっと入れるだけでも何十万やからな」
「えっ、何十万もかいな」
「そや、それも全身やとな」
「何百万かいな」
「凝ったもんやと一千万いくかもな」
「そんなにかかるんかいな」
「入れ墨って入れるのにめっちゃ手間がかかるんや」
 入れ墨職人として生きてきての言葉である。
「そうやさかいな」
「一千万もかいな」
「かかるわ、それで全身痛いで」
「痛いのはわかってる、それはわしの気合と心意気見せるもんで」
 それでというのだ。
「覚悟のうえや」
「そうか、しかしお金がな」
「一千万かいな」
「そや、しかも残るで」
 その入れた入れ墨はというのだ。
「ずっとな、肌も壊れて冷たくなるし」
「それはわしも聞いたわ」
「お風呂屋さんでも言われるで」
「最近入るなって店も出てるな」
「そや、最近はな」
 昭和五十年代のことだ、この頃からそうした話が出て来たのだ。
「そうなってるで、消すことも出来るけどな」
「出来るんかいな」
「けどこれにも手間がかかってな」
 入れ墨を消すにもというのだ。
「やっぱりお金もや」
「めっちゃかかるんかいな」
「そや、不良でもな」
 高坂の外見からこのことはすぐにわかった。
「後々残るさかいな」
「あかんか」
「そやで、そもそもあんたお金どれだけある」
「アルバイトしてな、言っとくがわし喧嘩はするがな」
 ここで高坂は自分の不良としてのポリシーも話した。
「煙草と酒はやってもシンナー、万引き、カツアゲ、リンチとかはや」
「せんか」
「弱い者いじめもな、ヤキ入れもせん、怒って殴ってもその時は一発や」
「筋は通してるか」
「わしなりにな」
「それなら一千万持って来るんやな」
 職人は自分のポリシーを話した高坂を見据えて返した、太った顔の中の目は小さいが確かな光を放っている。
「それからや」
「決めろって言うんやな」
「察しがいいな、ええな」
「今は金もないしな」
「どっちみちあかんやろ、そやからな」
「一千万やな」
「持って来てからまた話そうな」
 こう言うのだった、そしてだった。
 高坂もそれならと頷いた、それからはというと。
 高坂は高校を卒業すると家で毎日朝から晩まで父や店の他の職人達について熱心に教わった。するとだった。 
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