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牧師の背中

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第一章

                牧師の背中
 吉村剛毅は牧師である、目は鋭い感じだがとても穏やかな外見と顔立ちでとても優しい性格をしている。
 その彼はいつも人の為に働いて奉仕活動にも積極的である。
「凄くいい人だよな」
「本当にそうよね」
「牧師様だけあって」
「とてもいい人よ」
「あんないい人いないな」
「神様にお仕えしているだけはあるよ」 
 こう話した、だが。
 彼は人までは決して牧師の服を脱がず夏でも長袖であった、そして。
 プールや海、銭湯に誘われても断る。それでだった。
「何かあるのかな」
「いつも長袖だし」
「プールとか行かないから」
「何か秘密があるのかしら」
 牧師を知る者はこのことを不思議に思った。
「身体に痣があるとか」
「傷があるとか」
「それで服ぬがないのかしら」
「人前で肌を見せないのかな」 
 こう考えた、兎角だった。
 牧師は肌を見せようとしなかった、そのうえで牧師として働いていた。
 相変わらず真面目で献身的であり誰もが牧師を信頼し頼りにした、だが。
 ある日川で子供が溺れた、それを見て多くの人達が警察や消防署に通報して助けてもらおうとしたが。
 たまたま近くにいて話を聞いて現場に駆け付けた牧師は言った。
「それでは間に合いません」
「はい、ですが」
「俺達泳げなくて」
「それで」
「私が行きます」 
 牧師はこう言ってだった。
 すぐに牧師の服を脱いで下はシャツだけになった、そのうえで。
 川に飛び込んでだった。
 子供を助けて岸に上がった、しかし川の水で濡れてシャツが透けてしまいその背中もっと言えば肩や腕が見えた。
 そこには入れ墨があった、青を基調としてだった。
 白蛇に雲竜、鳳凰に雷獣それに碇があった、老人の一人がそれを見て言った。
「あれは五人男だぞ」
「五人男って歌舞伎の」
「白波五人男ですか」
「稲瀬川勢揃いの場で五人が着る服だ」
 彼等それぞれがというのだ。 
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