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歪んだ世界の中で

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最終話 再会その五

「これまで。見させてもらいました」
「そうなんですか」
「本当に。貴方は一日たりともでしたね」
 休まず千春の下に行っていた。そのことを言うのだった。
「あそこまでされた方ははじめて見ました」
「いえ、僕は」
「言葉では何とでも言えます」
 穏やかな声でだ。姫は上城の謙遜に返した。
「何とでも言えます。ですが行動はです」
「そうもいかないっていうんですね」
「はい」
 まさにそうだというのだ。
「その通りです」
「僕はただ」
「その想いを見せてもらいました」 
 千春へのだ。その想いをだというのだ。
「そしてその想いはです」
「千春ちゃんはまさか」
「まだです」
 それが実るのはだ。まだだというのだ。
「あの娘はまだ起き上がりません。ですが」
「千春ちゃんは必ずなんですね」
「その日までお願いします」
「薬をあげればいいんですね」
「そうして下さい。そうすれば」
 その時にこそだというのだ。
「あの娘は戻って来ます」
「絶対にですよね」
「私も嘘は言いません」
 希望と同じくだ。そうだというのだ。
「ですから」
「このままですね」
「はい、続けて下さい」
 こう言うのだった。希望に対して。
「このまま」
「わかりました。それじゃあ」
「そしてです」
 姫は穏やかな声で希望にさらに言う。
「それはもうすぐです」
「もうすぐですか」
「夢野さんの力は戻りつつあります」
 つまりだ。また立ち上がれるようになっているというのだ。
「次第にですが」
「そうですか。じゃあ」
「希望はです」
 姫もだ。彼の名前であるそれを言葉として出した。
「人を。私達も」
「決してですね」
「はい、裏切りません」
 そういうものだというのだ。
「何があろうともです」
「それが希望なんですね」
「貴方の名前にもなっているものです」
「そうですか。何か」
「何か?」
「あっという間でした」
 そうだったというのだ。そこに至るまでに。
「気付いたらって感じです」
「そうなのですか」
「不思議ですよね。毎日山まで行って」
 冬の厳しい寒さのだ。神戸の山をだ。
 しかも晴れのばかりではない。只でさえ山の天候は変わりやすいのにだ。
 今年は何時になく寒く風も強かった。尚且つだ。
 吹雪もあった。だがその中をだったのだ。
 希望は毎日山を登り千春に薬をあげ続けた。それは辛い筈だった。だがそれでもだとだ。希望は夢の中で実感しながらだ。姫達に話したのだ。
「長かった筈なのに」
「一つの季節だけですからね」
「それは短くはないですよね」
「はい、長いです」
 苦難を歩むにはだ。そうだというのだ。
「それは確かです」
「ですが」
 それでもだとだ。希望は言うのだった。
「あっという間に感じます」
「それはです」
 何故そう思えているのかをだ。姫はその彼に答えた。 
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