歪んだ世界の中で

「今日も行くよ」
「そうですか。あの人のところに」
「行くよ。そしてね」
「そしてですね」
「僕達はまた絶対に会えるから」
　こう言うのだった。確信と共に。
「何時になるかはわからないけれどね」
「いえ、その何時かは」
「何時かはって？」
「近いかも知れませんよ」
　目を細めさせてだ。真人はこう自分の前の席にいる希望に話した。
「案外」
「近いかな」
「遠井君の心が伝わっていれば」
「僕の？」
「はい、遠井君の心があの人に伝わっていれば」
「千春ちゃんはすぐに戻ってきてくれるんだね」
「僕も見させてもらいました」
　目を細めさせてだ。真人は希望に話した。
「遠井君の心を」
「僕は損な凄いことしてるかな」
「していますよ」
　目を細めさせての言葉だった。
「誰もできないようなことを」
「だといいけれどね」
「このままです。もうすぐです」
　真人は温かい声で希望に言う。その彼に。
「遠井君の願いが適うのは」
「そう言ってくれるとね」
「嬉しいですか？」
「有り難うね」
　真人のそれは励ましだと思った。だが、だった。
　真人はだ。こう彼に言うのだった。
「いえ、これは励ましではないですよ」
「えっ、違うんだ」
「願いは必ず適いますし。それに」
「それに？」
「見ていますから」
　主語のない言葉だった。まずは。
「人も色々なものも」
「色々なもの」
　こう言われて希望は姫路城の彼等を思い出した。姫と妖怪達を。
　このことは真人にも話している。それで真人も言ったのである。
「その姫路城の人達も」
「じゃあ」
「そうです。皆遠井君の心に何かを感じていますよ」
「けれど。その人達の助けとかは借りないから」
「あくまで遠井君だけで、ですね」
「そういうことだからね。千春ちゃんはね」
　彼がだ。毎日向かいだというのだ。
「助けるからね」
「そうした心だからです」
「僕は千春ちゃんを助けられるのかな」
「必ず。それも近いうちに」
「何年、いや何十年も」
　彼はだ。覚悟していたのだ。
「かかるって思ったけれど」
「何十年かかることも何ヶ月にすることもできますよ」
「心でなんだ」
「そうです。そう思って頑張ることで」
　短くすることができるというのだ。
「今の遠井君の様に」
「ううん、そうなんだ」
「そうです。それで今日もですよね」
「うん、今日もね」
　この返事は決まっていた。彼の中で。
「行って来るよ」
「本当に頑張っていますね」
「だって。千春ちゃんの為だから」
　千春が助かるなら、それならだというのだ。