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健康なせいで

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第一章

               健康なせいで
 中川里穂はアイドル志望である、だから八条芸能のオーディションにもアイドル部門で受けた。それまで歌もダンスもそして笑顔も可愛さの演出も必死に練習してきた。 
 その努力が報われてオーディションは合格したが。
 社長の八条義立、痩せた顔で黒髪の上の部分を伸ばし黒いサングラスをかけたスーツの彼は里穂に言った。
「君はこれから我が事務所のタレントだ」
「宜しくお願いします」
 里穂は彼に笑顔で応えた、胸までの癖のある黒髪で左右を小さなテールにしている、明るい派手な感じの顔で目が大きくピンクの唇が可愛らしい。髪にあるヘアバンドは銀で黒髪を際立たせている。背は一五三程だが色白でスタイルも均整が取れていて脚も奇麗だ。
 礼儀作法もよく声も明るい、ここで彼女はこれから自分のアイドル人生がはじまったと内心喜びに震えていた。
 だが八条は彼女に笑顔で言った。
「君の履歴書も経歴も読ませてもらったよ」
「そうですか」
「そして歌もダンスも見せてもらった」
 オーディションの時にというのだ。
「実にいい、特にね」
「特にといいますと」
「あれだけ歌って踊って息切れ一つしていないね」
「毎日練習してました」
 そして体力が必要なのがわかっているのでランニングやサーキットトレーニングにストレッチも欠かしていない、食事や睡眠にも気をつけている。
「そうしていました」
「それで大きな病気もだね」
「ずっと風邪をひいたことがありません」
「まるで鉄人だね、うちの事務所はいいタレントが来てくれた」
 まさにというのだ。
「本当に」
「有り難うございます」
「君の仕事はマネージャーと話をして決めていくけれど」
「どんなお仕事でもします」
「何でもだね」
「はい、本当に」
「言っておくけれどうちはホワイトだからブラックなことはしないしさせないから」
 八条はこのことは断った。
「そのことは安心するんだ」
「わかりました」
 歌やダンス、アイドルの仕事がはじまったと思った。
 グラビアもサイン会も頑張って必ずトップアイドルになると誓った、だが。
 八条はマネージャーの神谷雄太郎と傍に置いて笑顔で言った。
「初仕事は奈良県に行ってくれるか」
「奈良県ですか、古都ですね」
 里穂は笑顔で応えた。
「そこでサイン会ですか、それか東大地とかでイベントですか」
「いや、行くのは奈良市じゃない」
 八条は里穂に明るい声で答えた。
「和歌山県との境に行ってくれるか」
「和歌山県ですか」
「そこに何でも一本だたらという妖怪が出て来るらしい」
「妖怪ですか」
「その山に入ってくれるか、その妖怪は冬に出るそうだが入るのは夏だ」
「妖怪は出ないんですか」
「しかしどんな山でどんな言い伝えがあって何があるか」
 そうしたことをというのだ。
「レポーターで行ってもらう」
「あの、歌とかサイン会は」 
 里穂は八条に目を瞬かせて問うた。
「しないんですか?」
「しない」
 返事は一言だった。
「今はな」
「それで初仕事は」
「その山に行ってもらう、当然スタッフ達も一緒だから安全だぞ」
 それはしっかりしていた。 
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