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天才というもの

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第二章

「私優勝してないから」
「じゃあ本当の天才は」
「その娘でしょうね」
「上には上がいるの」
「そう思うわ、世界大会でもああした娘が出るのよ」
「そうなのね」
「だから私から見たら碧流ちゃんは」
 章江の方から話した。
「本物よ」
「本物の天才だっていうの」
「そうよ」 
 まさにというのだ。
「そう思えるわ」
「そうなのね」
「ええ、だから芸大にもね」
 東大以上に入学が難しいと言われるこの大学にもというのだ。
「合格したのよ」
「そう言う、けれどね」
「けれど?」
「私も天才じゃないわよ。子供の頃から絵が好きで」 
 それでというのだ。
「いつも描いてるだけで」
「それでなの」
「それだけだから」
「好きこそって言うしいつもやっているから」
「それでなの」
「そう思うけれど、私は」
「いや、これがね」
 碧流は章江に真顔で話した。
「一緒に合格した人で凄い人いるのよ」
「碧流ちゃんよりも」
「丁度今その人の絵が近所の画廊に飾られてるんだけれど」
「碧流ちゃんの絵より凄いの」
「私の絵って別にピカソとかマグリットとかルノアールみたいなのじゃないじゃない」
「写実的っていうの?」
「アバンギャルドじゃないけれど」
 そうした芸術性ではないがというのだ。
「絵一つ一つに時間もかけるけれど」
「その人の絵は違うの」
「何なら明日その画廊行って見てみる?」
「それじゃあね」
 章江は碧流の言葉に頷いた、そうしてだった。
 お祝いをした次の日に二人でその画廊に行った、すると。
 何かわからない、ピカソにマグリットを合わせたかの様なそれでいて座や佳奈色使いと派手なタッチの絵が何十も並べられていた。しかも。
 そうした絵をそのまま再現した様な彫刻もあった、章江はそういったものを見て碧流に対して尋ねた。
「あの」
「わかる?」
「わからないわ」 
 返事は一言だった。
「私には」
「私もよ。ただこの人子供の頃からね」
「こんな風なの」
「六歳の絵見たけれど」
「こんなので」
「それがどんどん凄くなって」
 それでというのだ。
「今じゃね」
「こうなのね」
「書道もやってるけれど」
 見れば毛筆のそれもあった、その字は。
 堂々としており実に見事なものだった、ただ。
 畳二枚分の和紙に叩きつける様に書いていた、その絵を共に見つつだった。
 碧流は唸りつつだ、章江に言った。 
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