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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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体勢万全

土曜日、朝、第一アリーナ

 今日、ISの使用許可がようやく下りたため人の少ない朝方を狙って第一アリーナを借りました。
 それにしても訓練機を借りるのに書類を十枚前後書かなきゃいけないだなんて、使わせたくないのかと疑ってしまいます。
 いえ、でも入学一週間も経たずに新入生にISを貸し出すのは代表候補生以外は特例中の特例でしょうし、しょうがないと言えばしょうがないのでしょう。

 まあそれは置いておいて、目の前には日本の第2世代型IS『打鉄』が用意されています。
 『打鉄』は日本の2世代型純国産のISです。1m60cmの近接ブレードを主武装とし、安定した性能を誇るガード型のIS。見た目的には灰色の武者鎧といったら分かりやすいでしょうか。
 その特性から初心者にも使いやすく、現にこのIS学園でも訓練機として使用されています。

 その『打鉄』を一夏さんが触りつつ、へーとか、ほーとか言いながら周りを回りながら見ています。
 
「くっ、私の方に許可は出なかったのに……」

「仕方ないですよ。この時期に一夏さんの許可が出ただけでも異例だそうですし、試合でもない箒さんの許可は流石に無理だったという事でしょう」

「うう……」

 明らかに肩を落としている箒さんには同情するしかありません。
 私の機体は両親や企業の人から他の人に触らせるなって言われていますこればっかりはどうしようもないです。

「おーいカルラ! こっちは準備いいぞ!」

「あ、はい!」

 いつの間にか一夏さんは『打鉄』を身に着けて立っていました。
 初期動作は昨日教えておいたので身に着けるまでは簡単に出来たみたいですね。

「で、これからどうするんだ?」

「はい、一夏さんのISはどんな型か分かりませんので、変な癖がつかない程度に基礎の動きを練習しましょう」

「専用機ってそんなに違うのか?」

「ピンキリはありますが、一つのものに特化したものや、あらゆる状況に対応できるものなどありますし」

「そうか、じゃあカルラに任せるよ。よろしく頼む」

 一夏さんは起動が今回で二回目。しかも連続稼働時間は30分程度ということらしかったので、本来は歩行からやってほしかったんですけど……実戦も近いことだし、試しに飛行をやってもらいましょう。
 はっきり言ってPICのあるISにおいて歩行は戦闘時に役には立ちませんからね。

 飛行はIS起動の初めての人はほとんど出来ないのですが、なんと一夏さんは危なげながらも見事に飛行して見せました。
 しかも1時間程度飛んでいるとその危なげな部分をドンドン修正してしまうのですから正直これは反則だと思います。
 私なんてしっかり飛べるようになるまで一週間はかかったのに……

『うひょおおおおおお! これ楽しいなあ!』

 空を飛んでいる一夏さんから通信が入ります。そこには心底楽しそうにISの飛行を楽しむ青年が映っていました。
 箒さんは一夏さんが飛んで行った方の空を見上げています。肉眼では既に目に見えないほどの高さまで上がっているはずなので実際に見えているかは微妙なところですが……

『よおし! お? あれ? うわあああああああああああ!』

「一夏さん!?」

「一夏!」

 叫び声で今まで空を見ていた箒さんもモニターに飛びついてきました。一夏さんが激しくきりもみしています。
 速度を全く落とさないまま一夏さんはアリーナの地面に『ドォン!』と激しい音と共に激突しました。
 墜落、正にその言葉が相応しい堕ち方です。

「一夏!」

 箒さんが激しく土煙の立つ激突地に走っていきました。私もその後に続いてそこに向かいます。
 煙が晴れるとISと一夏さんが見えてきました。
 良かった。どうやら傷らしい傷はないみたいですね。絶対防御機能があるので当たり前といえば当たり前なのだけど……全く心臓に悪い。

「おおう……死ぬか思った」

「ふん! いきなりで変なことをしようとするからだ、馬鹿者め!」

 箒さんは一夏さんが無事なのを確認するとさも当然だという風に腕を組んでそっぽを向きました。

「ちなみに何をしようとしたんですか?」

「いや、前に動画で見た飛び方を試してみようかと……」

「それは無茶ですよ……」

「そんなことだろうと思った」

 ISは飛行機ではないし、素人がそんな動画に上がるようなISの行動をいきなり取れるわけないじゃないですか。
 飛行機もほとんど乗ったことないですけどね、私。

「いやー、出来そうな気はしたんだけどなあ」

「慣れたときが一番危ないんですよ? 自転車とかと同じです」

「だな、気をつけないと」

 その後はさっきよりは慎重にISを動かしていました。こちらの指示にもしっかり従っていたし、これならどんな専用機でも初期動作はほぼ上手くいくでしょう。

「一夏さんの攻撃方法はやはり近接戦闘ということになりますかね?」

「だな。あいつに射撃の云々があるとは思えん」

 箒さんは空を自由に飛びまわるISを見ながらそう答えてくれました。
 そもそも箒さんとの訓練と言うの名のしごきでは剣道しかしていないので近接戦闘を主とするしか選択肢がないのですけどね。

「で、どうしましょう?」

「ん? 何がだ?」

「オルコットさん対策を立てるのに私がいるのはいいとして、私の対策を立てるのに私が一緒にいるべきかどうか、ですよ」

「む……」


 そう、一夏さんは構わないと言ってくれましたが対戦する相手ISの対策と言うのは必須です。特に一夏さんは超をつけてもいいほどの初心者。仮にも代表候補生の私やオルコットさん相手には奇襲奇策の類が必須となります。
 でもそれに私が関わるとその作戦は瓦解します。なにせその内容を敵となる人が知ってしまうとそれは奇襲でも奇策でもなんでも無いから。
 オルコットさん対策には私も付き合いますけどね。

「ちなみに……」

 今私はISの頭部のみを部分展開して一夏さんとの連絡を取っています。つまり頭の周りは情報の塊。空中に画面を映し出して箒さんにも見えるようにしています。
 その画面を指で弾いて変更すると出てきたのは大量の文章。全てセシリア・オルコット専用機、『ブルー・ティアーズ』の情報が映し出されています。
 ISは慣れてくるとこういう風に部分的に展開できるのですごい便利ですね。

 ISは条約により開発したその技術を全て他国に晒すという条件の代わりに、ISの稼動状態を映した動画というのは極端に少なく、それこそ内通者でもいないと他国ISの実際の稼動状況は見られることは滅多にありません。
 そのため、戦ったことの無い機体情報はほとんどが文章でのみの理解が必要となります。

「オルコットさんの機体、『ブルー・ティアーズ』は『BT兵器』のデータをサンプリングするために開発された機体であるため、試作機という意味合いが強いみたいです」

「『BT兵器』?」

「簡単に言えばオールレンジ攻撃が可能な小型飛翔体、らしいです。私も文章のみではそこまでしか分かりませんが……この機体の武装はそこまで多くありません。主武装のレーザーライフルと近接用のショートブレード、それに今言った『BT兵器』。これが相手の全武装です」

「なるほど。ということは中遠距離タイプだな」

 箒さんの言うとおり。近接武器はショートブレードのみということは完全に射撃メインの機体ということですね。

「はい。なので一夏さんはこのまま箒さんとの剣道で基礎を磨いて、接近戦主体で行ってもらうのが一番良いかと。問題はどんな動きをするか分からない『BT兵器』の存在ですが……これは私が可能な限り引き出します。私が負けたとしてもオルコットさんの手の内は全て晒して見せますよ」

「そ、そうか……」

「なので私が負けたときは箒さんが一夏さんと対策を考えてくださいね」

 もちろん負ける気はありませんけど。

「随分一夏に肩入れするのだな……」

「へ?」

 その声に画面から顔を上げると箒さんがこちらをジト目で見ていました。
 擬音で現せばそれこそ「ジィ~」っていうのが一番合いますけど……どうやら誤解を生んでいるようです。
 私は一夏さんを恋愛感情で見ているわけじゃないんですよ?

「あの人はこの学園で最初の友達ですから。それにもし箒さんが一夏さんの立場でも私は同じことをしているでしょう」

「う、む……そうか、そうなのだな。うむ、それならいい。うん」

 それを聞いて箒さんは少し頬を染めて何度も頷いています。

 ああ、何かこの人すごい可愛いんですけど……
 いえ、その気はないんですけどなんていうか、可愛くありませんか? 私だけですか? そうですか……

「まあ私も負ける気はないので私の対策までは一緒に考えたりはしませんけどね」

「む……」

 途端に少し厳しい目つきでこちらを睨んできたんですけど……さすがにさっきのを見た後だと全然怖くないと言うかむしろもっと可愛いく見えると言うか……
 無性にそのポニーテールを引っ張りたくなりますね。私もサイドテールですからやったらやり返されるのが目に見えているのでやりませんけど。

「では今言ったことは一夏さんに伝えておいてくださいね?」

「うん? カルラも一緒にいるんだから言えばいいじゃないか」

「何言ってるんですか。出来る女をアピールするチャンスですよ?」

「う……うるさい! 余計なお世話だ!」

 ああ、やっぱり可愛い!

 それからさらに一時間ほど、時間としては正午ほどになるまで一夏さんには基礎の基礎を教えます。
 そろそろ時間ですね。

「ではこれくらいで終わりにしましょう」

『え? もう?』

「前に行った通り変な癖がつくと大変ですし、そろそろ次の人の使う時間です」

『そうか、分かった』

 午後からは箒さんが剣道の稽古をつけるというが私は用事があると遠慮しておきました。箒さんは良くも悪くも感情の起伏が激しいようで、二人きりで稽古できるということで今は嬉しそうな顔をしていました。 
 一夏さんと箒さんには次の日も同じ内容を行うようにと伝えておきました。基礎訓練は繰り返しが大事ですし、特に一夏さんはまだ初心者。とにかく経験が足りません。無茶をさせるよりは基礎ですね。
 それに応用は基礎が出来ていれば自分で考えることが出来ますから。日曜日も一夏さんは私に見て欲しいと言ってきましたが丁重にお断りしました。

 日本の都都逸曰く、『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ』。
 箒さんという馬に私もまだまだ殺されたくありません。

 ちなみに用事と言うのは本当。
 何せ……一夏さんたちの後に使うのは私なんですから。

「セット……」

 周囲から複数の模擬戦用の空中攻撃目標が浮いているのがピットから確認できます。

「オープン!」

 ピットから飛び出すと同時に思いました。
 私かオルコットさんが勝つかは分からないですけど、できれば一夏さんとは戦いたくないなあ……なんて考えは甘いのだろうか……と。

 
 

 
後書き
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