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ラブレターを奪われて

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第二章

「先輩が恋愛小説好きならな」
「特に武者小路実篤が好きみたいだな」
「だったらな」
「それならか」
「ああ、そうしろ」
「そうするな」
 徹も頷いた、だが。
 ここで窓のところに一匹の白猫が来た、すると。
「ニャア」
「何だこの猫」
「最近うちに遊びに来るんだよ」
「赤い首輪に鈴あるな」
「だから誰かの飼い猫らしいけれどな」
 窓を開けてその猫を部屋に入れつつ述べた。
「こうして俺の部屋にも来て」
「そしてか」
「懐いてくれててな」
 言いつつだ、徹は。
 猫のおやつを出した、そして猫に食べさせてから友人に話した。
「こうして俺がやるおやつも食ってるんだ」
「成程な」
「時々来るんだ、まあ誰かの飼い猫にしても」
「お前も可愛がってるんだな」
「ああ、そうしてるんだよ」
 こう言ってそうしてだった。
 徹は猫の頭を撫でた、すると猫は喉をごろごろと鳴らした。彼も友人も猫を見て温かい笑顔になった。
 その後でだ、徹は実際にだった。
 ラブレター、理恵に対するそれを全身全霊を注ぎ込んで書いた。何度も書きなおし推敲に推敲をしてだった。
 ようやく書き終えた、それで明日にだった。
 理恵に送ろう、そう思った時にだった。
「ニャア」
「なっ!?」
 何とあの白猫がだった。
 たまたま開けていた窓から部屋の中に入って来た、そうして。
 机の上に置いていた書いたばかりで封をしたラブレターを咥えて出て行った、徹はそれに仰天してだった。
 猫を追いかけた、猫はとんでもない速さで駆けていき。
 隣の丁のある家に入った、その家の表札を見ると。
 坂塩とあった、徹はその名字にまさかと思ったが。
 徹は家のチャイムを鳴らしてだ、応対の声に応えた。
「どなたですか?」
「あの、沖っていう者ですが」
 まずは名乗った。
「そちらに入った猫が僕の大切なものを持って行って」
「それで、ですか」
「はい、申し訳ないですが」
 こう言うのだった。
「そちらにそれがあればお渡しして欲しいんです」
「わかりました」
 声は若い徹と同じ年齢位の声だった、その声にもだ。
 徹はまさかと思ったが出て来たのは。
 理恵だった、大きな穏やかな目で楚々とした顔立ちで長い黒髪を後ろで束ねている。一六〇位の背で均整の取れたスタイルだ。
 上はブラウンのセーター下はベージュのスラックスだ。その彼女が出て来てだった。
 徹にだ、笑顔で言ってきた。見ればあの猫を抱いている。 
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