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歪んだ世界の中で

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第十八話 クリスマスの光その六

「お店ごとにね。外でも中でもね」
「そうだね。一杯あるね」
「そういうのも見て楽しもう」
「それじゃあね」
 二人で手を握り合って。そうしてだった。
 希望と千春は商店街の中を歩きはじめた。商店街の中にはクリスマスソングも満ちている。 
 そして何もかもが白や赤で飾られている。その賑やかな中を進みながらだ。
 千春からだ。こんなことを言ってきた。
「お店に入ったらね」
「どうするの?」
「もう席もあるよね」
「予約してるよ」
「あのお店キャンドルあったかな」
 千春はこれを言うのだった。
「蝋燭。あったかな」
「ええと。あったかな」
「若しあったらね」
 どうするかとだ。千春は希望に話した。
「火じゃなかったら」
「火って」
「直接の火はあまり好きじゃないの」
 やや顔を曇らせての言葉だった。
「燃えるから」
「いや、キャンドルの火位だったらね」
「燃えない?」
「大丈夫だよ。それに覆いもするだろうし」
「じゃあ大丈夫かな」
「うん、そうだよ」 
 希望はこう言って千春を安心させた。
「絶対にね」
「だったら火のキャンドルでもね」
「席に飾りたいんだ」
「クリスマスだからね」
 火は怖くてもだ。そうしたいというのだ。
「それじゃあね」
「けれど千春ちゃんって火が嫌いなんだ」
「そうだよ。燃えるから」
「そうだったんだ」 
 話を聞いてだ。少し首を捻った希望だった。
「意外だね」
「意外?」
「千春ちゃん火が嫌いだったんだ」
「あと雷も嫌いだよ」
「音が怖いから?」
「ううん、音は平気だよ」
 雷の音、人が雷に対して最も怯えるそれについてはだ。千春は大丈夫だというのだ。
 それでだ。彼女なりに怖い理由を希望に話したのである。
「あれが落ちたら燃えるから」
「それでなんだ」
「雷も嫌いだよ。打たれていなくなった子見たし」
「いなくなる?」
「そうだよ。雷に打たれたらいなくなるんだよ」
「あっ、そういう考えもあるんだ」
 話を聞いてだ。それで頷いた希望だった。意外といった顔で。
「雷は」
「何処かおかしいの?」
「いや、おかしくはないけれど」
 そのいなくなるという言葉にだ。希望は言うのだった。
「成程ね。死ぬっていうかね」
「いなくなるんだよ」
「そうなるんだね。そういうことだね」
「千春、いなくなりたくないから」
 だからだと。希望に切実な顔になって告げた。彼のその顔を横から見上げて見詰めて。
「だから雷に打たれなくないよ」
「そうだよね。僕もだよ」
「希望もだよね」
「うん、いなくなりたくないよ」
 千春の言葉をだ。そのまま使った言葉だった。
「千春ちゃんと一緒にいたいよ」
「若し千春がいなくなったらどうするの?」
「決まってるじゃない。探すよ」
「探してくれるの?」
「絶対に見つけるから」
 その場合はそうするとだ。希望は笑顔で話す。ただし千春の言葉の意味の中身に、含まれていることには気付かずにだ。彼の考えの中で答えたのである。 
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