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幻想甲虫録

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白羽の子 ー放て、究極奥義ー

ここは命蓮寺。轟天がソウゴの前に立ちはだかる。


轟天「さあ、始めるぞソウゴ!そして然と目に焼きつけよ、小僧!強さとは何か見せてやろう!!」

ソウゴ(マジでやる気満々じゃねぇか!?)


なぜこのような事態になったかというと、それは数分前までに遡る。















アヌビス、マキシムス、マンディブラリスミツノをあっけなく倒してしまったところを見て驚いている霊夢たちに目を向ける轟天。
今度はこちらが勝負を申し込まれると思ったのか身構えていると、あの戦いぶりを見て興奮したコクワガタが轟天に近づいた。


ギルティ「あっ、おい!?迂闊に近寄ったら危ないぞ!?」

コクワガタ「すごいやむしさん!どうやったらむしさんみたいにつよくなれるの!?」

ソウゴ「声かけちゃった!もうダメだ、絶対終わった……もし殺されたら……俺たち絶対…………頭突きだけじゃ済まない!!」

魔理沙「コクワァァァ!!逃げルルォォォ!!」

霊夢「危な―――――」


コクワガタが目を輝かせながら声をかける。霊夢たちは自分より小さいクワガタを見た轟天の機嫌を損ねてしまうと思い、引き離そうと駆けつけた。
しかし轟天、機嫌を損ねるどころかコクワガタを引き離そうと駆けつけた霊夢たちを見て笑い飛ばしたではないか。


轟天「フハハハハ!何もそう警戒することはない。小僧のしたこと程度で怒るほど(オレ)の器は狭く見えるか?」

霊夢「いや………そんなことはないと思うけど………」


不安がるのも無理もない。何しろコクワガタとオオクワガタの大きさはただでさえ違うというのに、轟天は普通のオオクワガタよりさらに大きいのだから。
もし同じオオクワガタであるゲイツが見たら一体どんな反応をするのだろうか。彼のパートナーの正邪の反応も気になるところだ。


轟天「ところで小僧、お前は強くなりたいのか?」

コクワガタ「うん!ぼくもむしさんみたいにつよくなりたい!」


目を輝かせながら質問に答えた。すると轟天は気をよくしたのか、目を細めて笑うと、コクワガタの頭をなでた。


轟天「ハハハ、そうかそうか。なら命蓮寺に来るか?お前を住み込みの弟子とし、(オレ)がビシバシ鍛えてやろう!」


そんな提案に待ったをかけたのは霊夢とギルティだった。


霊夢「あ~……悪いんだけど私たちその子のお守りしなくちゃいけないの」

ギルティ「ホントにごめんな。その提案はいただけねぇ」

轟天「むむ…………それなら仕方がない」


だが戦いを楽しむ轟天にとって、この先自分の相手になるかもしれないこの甲虫をどうにかして命蓮寺へ連れていきたかった。
一体どうすればこの小僧を命蓮寺に連れていけるのか。しばらくの間いろんな考えを張り巡らせていたが、そのうち彼の目に1匹のカブトムシが映った。


轟天「………そういえば貴様は確かソウゴといったな」

ソウゴ「お、俺!?」


自分が声をかけられるなど思いもよらなかったソウゴは自分の名前を呼ばれたことに動揺する。


轟天「ムシキングにして甲虫の魔王を目指す者とあの烏天狗の新聞で知ったが、まさかこんなにも早く会えるとは!」


この時、轟天の頭にこんな考えがひらめいた。ソウゴたちを連れていけばコクワガタも自分についていく、と。
それにソウゴとも戦えて一石二鳥だ。


轟天「ムシキングになると言った貴様の実力、この(オレ)に見せてみよ!」

霊・魔・ソ・ギ「「「「え゛!?」」」」

轟天「無論、お前の意見は求めん!」


そう言って巨大な大顎でソウゴとコクワガタを挟むと、羽を広げる。


ソウゴ「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」

霊夢「嘘でしょ!?」

コクワガタ「うわぁ!たかいたかーい!もっともっとたかくとんでー!」


空高く飛び上がり、今の状況が飲み込めないソウゴと興奮するコクワガタを挟んだまま命蓮寺へ。
霊夢と魔理沙も轟天の後を追うため、ギルティの背中に乗った。


魔理沙「虫には虫、ってな!」

ギルティ「よーし、ちゃんと捕まってろよお前らァ!!」

霊夢「ギャアアアアアア!!!速い速い速い速い速い速すぎるってェェェェェェェェ!!!首ーっ!!!首がーっ!!!首もげちゃうーーーーーーーーっ!!!」

魔理沙「イヤッフゥゥゥゥ!!!お前の背中に乗ってるとマジ最高ォォォォォォ!!!」















そして今に至る。突然すぎてまだ今の状況を飲み込めていないソウゴ。これから始まるソウゴと轟天の対決に目を輝かせているコクワガタ。
霊夢と魔理沙とギルティもそんな彼らを見ていたが、ある女性が姿を現した。


???「あら?あの虫、確か新聞で……」


この寺の住職、『聖白蓮』だ。ソウゴの様子を見て何が起きたのか聖は理解できたようだ。


聖「……また轟天がしでかしたようですね。本当に申し訳ありません。いつも注意しているんですが、なかなか直らなくて………」

霊夢「あのクワガタ轟天っていうんだ」


聖の言葉から察するに、どうやらソウゴのように無理矢理連れてこられた虫が何匹もいるようだ。
しかし、魔理沙とギルティは笑いながらこう言った。


ギルティ「いやいや、大丈夫っすよ!見ての通り俺たちが預かったコクワガタもウズウズしてますし、俺だって参考にしたいと思ってますよ!」

魔理沙「そうそう」

ソウゴ「魔理沙とギルティまで何を言うとんねん!?」

コクワガタ「ねえねえ、むしさん。むしさんとかぶとむしたたかうの?」

ソウゴ「話を聞いて―――――」

轟天「……………」ゴゴゴゴゴゴゴゴ


そうはさせまいと言わんばかりに轟天が睨む。ソウゴは怖じ気づいてしまい、それ以上言葉が出なかった。


霊夢「な、何あいつ!?サポート担当の私もすごい鳥肌が…!」

ソウゴ「くっ…………こうなったら…………やってやる!!やってやるぞぉ!!」

轟天「その言葉を待っていたぞソウゴォ!!」

霊夢「い、言いたいことは山ほどあるけどもういいわ!やっちゃいなさいソウゴ!そいつをぶっ飛ばして次は紅魔館に向かうわよ!」


ついに覚悟を決めたソウゴ。うなずくと同時についに轟天との戦いが幕を開けた。


コクワガタ「むしさん、がんばれー!かぶとむしさんもがんばってー!」

轟天(仮にターンをあいつに譲るとして、まずは何で来るか……ローリングスマッシュか?カワセミハッグか?いかなる技もねじ伏せてみせようぞ)

ソウゴ(たぶんこの虫は小回りが利かないはず……なら、体格差を利用して!)


轟天の予想通り、先手を取ったのはソウゴだった。
ハサミ技を放とうと右に回り込み、挟み込む。しかし。


ソウゴ「な……何だよこれッ……スッゲェ重いッ………!」

ギルティ「おーいソウゴー!もしかして『カワセミハッグ』決めたいのかー!?全然持ち上がってねぇぞー!」


轟天の足が地から離れることはなかった。それどころかソウゴの方がどんどん地に沈んでいくではないか。


轟天「カワセミハッグか!(オレ)の予想通りだったな!ぬぅん!!」


びくともしない巨体を振るう。彼が先ほど倒した3匹の甲虫のようにソウゴは大きく吹き飛ばされる。
背中から地に落ちると同時に激痛が走った。


コクワガタ「うわぁ、すっごーい!もっともっとむしさんのつよさみせてー!」

霊夢「あんたのパートナーっていっつもあんなことしてるのね…どうにかできないの?」

聖「それができれば苦労しないのですが……彼にはいつも手を焼いています。ですが彼をパートナーにして後悔したことは一度も……いや、やはりありますね」

霊夢「えぇ…(困惑)」

聖「それはそうとして、あなたのパートナーは大丈夫ですか?さっきからずっとあの調子ですけど」


目に映るのは轟天の強大な力に翻弄されるソウゴ。それは霊夢も理解していた。
彼女のパートナー、ソウゴの攻撃は轟天にろくにダメージを与えられていなかった。逆に轟天がガードするたびにソウゴがダメージを受けていた。無理もない、体格の差が違いすぎるのだから。


轟天「どうした?今にも倒れそうではないかソウゴォ!」

ソウゴ「うぐ……」

霊夢「ちょっと、しっかりしなさいよソウゴ!正邪の時みたいにボロボロじゃん!」

轟天「その程度でムシキングに、甲虫の魔王になろうとでもいうのか!もしそうならば片腹痛し!!貴様の夢、ここで覚ましてやろう!!」


前足が恐ろしい勢いで振り下ろされた。


魔理沙「ソウゴ危ない!!」

ギルティ「避けろーっ!!」


魔理沙とギルティが叫ぶも、当然間に合うわけがない。振り下ろされた前足がソウゴの頭に直撃した。



ゴワアアアアアアアアン



ソウゴ「!!!」

霊・魔・ギ「「「ソウゴ!!」」」

コクワガタ「かぶとむしさん!」

ソウゴ「ッ………グゥ……ッ…………」


人里でアヌビスに対して使ったダゲキ技、激震。脳が揺れ、視界が波のように揺れる。
だがソウゴは気合いで耐え抜き、自身の最も得意とする技を発動しようと轟天の前から挟み込んだ。


ソウゴ「食らえ……!『トルネードスロー』ォォォォォォォ!!」


全力を出すと同時に轟天の全ての足が宙に浮く。


霊夢「や、やった!持ち上がった!」

コクワガタ「でも……なんかぎこちないね」


なんとか持ち上げたのはいいものの、先ほどのダメージと轟天の重みのせいでどこか不安定な形になってしまっていた。


轟天「甘いわぁ!!」


ソウゴを引き剥がし、何度かどつく。そして大きく発達した左顎でソウゴの脇腹めがけて殴り飛ばした。
吹き飛ばされたソウゴはそのまま大木までまっしぐら。



ズドオオオオオオオオン



ソウゴ「ガ………ゴ………」


激突し、地に倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。


ギルティ「おいおいマジかよ……10メートルか?あいつもスゲェ吹っ飛びやがった………」

霊夢「ちょっと!今のはさすがにまずいんじゃない!?」

コクワガタ「もしかしてあのかぶとむしさん、まけたの?」

魔理沙「ああ…完全に決まったな……」


どこからどう見ても勝負はついた。動かなくなったソウゴを見て轟天もこれ以上の攻撃は不要と判断し、霊夢たちに目を向けた。


轟天「安心しろ、これ以上あいつに手を出す必要はない。聖、ソウゴの治療を頼んだぞ」

聖「全く、あなたという虫は………わかりましたよ。それじゃあ霊夢さんたちも中へ」


轟天に殴り飛ばされ、さらには大木に激突し、気絶したパートナーの姿を見た霊夢に悔しさが込み上げてきた。


霊夢「うう……正邪の時もそうだったけど、ソウゴにあいつらを倒せるほどの力があったら……轟天も倒せるほどの技が使えたら…………ソウゴも鎧丸みたいな究極必殺技が使えたらーっ!!」


悔しさのあまり膝をついて叫ぶ霊夢。そんな彼女に轟天が肩に手を置く。


轟天「博麗の巫女よ。その気持ちは(オレ)もわかる。確かに使えたらこの(オレ)を倒せたかもしれぬが、いくら悔しがってももう後の祭…り?」


轟天の振り向いた先には、信じられない光景が映っていた。
霊夢も轟天の視線に目を向けると、そこには起き上がり、轟天に目を向けながら歩むソウゴの姿があった。


霊夢「へ!?ソウゴが立ってる!?」

轟天「ほほう……まだ立つと言うのかソウゴよ」

ギルティ「あんだけボコられたっていうのに何で!?」

魔理沙「あいつ死に急いでんのか!?」

轟天「その意気やよし!ならば(オレ)も全力をもって貴様を倒そう!」

コクワガタ「まけないで、かぶとむしさん!」


再びたぎる轟天の闘心。今度こそ倒してやるといったような目で轟天を睨みつけるソウゴ。
だがこれ以上はソウゴの命に危険がある。霊夢はソウゴを、聖は轟天を止めようと駆けつけようとした。


霊夢「もうやめてソウゴ!本当に死んじゃうわよ!」

聖「そうですよ轟天、殺しになりますよ!」


だが霊夢と聖よりソウゴと轟天の方が速かった。


ソウゴ「轟天ンンンンンン!!」

轟天「ソウゴォォォォォォ!!」


互いに名を叫び、互いに突撃し、互いに技を出そうとする。


ソウゴ「俺はまだ死ねない!!今度こそあなたを倒す!!」

轟天「全身全霊の『激震』ッ!!その身で受けるがよいッ!!」


前足がソウゴの頭に振り下ろされたその直後、ソウゴが視界から姿を消した。
ソウゴではなく地を殴り、その衝撃で立っていられないほどの激しい揺れが起こる。マンディブラリスミツノにスーパーグリーンアローを決めた時と同じぐらいの衝撃だった。


轟天「何、消えただと!?ソウゴめ、一体どこに行きおった!?」

コクワガタ「あっ、むしさんのしたにいる!」


実際のところ、ソウゴは消えたのではなく、轟天の下に潜り込んでいた。
それも前足が直撃する寸前、轟天をも超える速度で回避していた。


轟天「死んだ技にまだすがるか!」


挟み込まれたところを再び振り払おうとソウゴを吹き飛ばそうとした。
しかしどうしたことか、いくら引き剥がそうとしてもびくともしないではないか。それどころか挟み込む力がどんどん強くなっていた。


轟天「な、なぜだ!?どうしたというのだ!?外れん!それにこの力、どこから来ているというのだ!?」


さすがの轟天も動揺するほどだった。そしてソウゴが羽を広げる時、2匹は竜巻のごとく回転しながら空中へ飛び上がる。


ソウゴ「ウォォォォォォォオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!」

轟天「ぬおおおおおおおお!!離せ!何のつもりだ!何をする気だソウゴ!一体何が起きているというのだ!離せ!離さんかァァァ!!」

ギルティ「ふ、風圧がスゲェ…!」

魔理沙「私たちまで飛ばされるぅ…!」

聖「ソウゴさんがあの轟天を振り回している!?」


動揺しているのは聖も同じだった。まさか強大な力と巨体を持った轟天が持ち上げられるなんて。
この時、霊夢もさっき自分が叫んだ言葉を思い出していた。





霊夢『ソウゴも鎧丸みたいな究極必殺技が使えたらーっ!!』





霊夢「まさかあいつ………私の悔しさに応えて…………!?」

轟天「この技、まさか!ただのトルネードスローじゃないのか!?」

ソウゴ「食らえ轟天!!これが俺の!!怒れる風の力だァァァァ!!『スーパートルネードスロー』ォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

轟天「ぐぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」


天高く投げ飛ばされ、回転しながら宙を舞う轟天。ソウゴも回転しながら着地した時、轟天の巨体が地に落ちる。
再び起こる立っていられないほどの激しい揺れ。


ソウゴ「や……やった………勝った………」

ギルティ「嘘だろ…マジで倒しやがった……」

魔理沙「霊夢の悔しさに応えてスーパートルネードスローを使えるようになるって、おい………」


この場にいる全員が唖然としてしまった。それは聖も同じこと、ソウゴが轟天を倒すなどあり得ない話だった。まるで夢を見ているかのような気分だった。
そんな中、ただ1匹だけ目を輝かせている甲虫がいた。白羽のコクワガタである。


コクワガタ「すごーい!あのむしさんもすごかったけど、かぶとむしさんがかったー!ぼくもいつかあのかっこいいわざつかえるようになるのかなぁ!?」

霊夢「す、すごいじゃんソウゴ!!今のが『究極必殺技』っていうんでしょ!?しかも鎧丸と同じ…!」


我に返った霊夢がソウゴに駆け寄ったその時、どこからともなく現れたこいしとウォズがソウゴの横に立つ。


霊夢「って、こいし!?」

こいし「はいは~い!ソウゴの勝利の祝いは私たちにお任せ!勝利の儀の時間だよ~!」

聖「勝利の儀?」


聖が首をかしげる。それをよそにウォズはソウゴが青太郎を倒した時と同じように威厳のある声で叫んだ。


ウォズ「祝え!全甲虫を凌駕し、時空を超え、過去と未来をしろ示す『甲虫の王者』!その名もソウゴ!!外の世界にて『阿修羅』、『羅刹』の異名を持ち、様々な甲虫たちを倒してきたといわれる最強のオオクワガタ、轟天を打ち倒した瞬間である!!」


またしてもこの場が静まり返ってしまった。それどころかソウゴの様子がおかしい。


ウォズ「……あれ?我が魔王?」

こいし「もしかしてソウゴ………寝てる?」


力を使い果たしたのか、ぐったりと眠っていた。 
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