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異生神妖魔学園

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死神と妖精と眠れる少年

チャイムが鳴り、1時間目の授業が始まったその頃、死纏さんは退屈そうに校門の前に立っていた。


死纏さん「………なーんか空から人が落ちてきそうな気がするのは俺だけか?」


青空を見上げながらありもしないことを呟く。長年学園の警備員を務め、まれに不審者を見つけることは死纏さんにとっては当たり前。おかげで最近無気力であることは自分でもよくわかっていた。
そんなありもしないことを想像していたその時。



ドオオオオオオオン



死纏さん「!?」


鳴り響いた轟音と共に地面が揺れた。全く立てないほどの震動を味わった死纏さんはすぐに悟った。これは地震じゃない、隕石ほどではないが何か巨大なものが落ちた音だと。
轟音が聞こえた場所はプール。だがプールは夏にならないと使えない。まさか不審者か?とにかく行かなければいつ何時生徒や教師の身に危険が及びかねない。


死纏さん「……めんどくせぇけど行くしかねぇか。仕事だし」


鎌を携えると、音がしたプールへ。だが音の正体が《《本当に人であること》》に驚くなど全く予想していなかった。










金「よーし、みんなぁ!今日はプール掃除するよぉ!」


一方プールには、学園内の清掃を担当する妖精たちが集まっていた。彼らにはそれぞれ個性があり、明るい性格の者もいれば、泣き虫な性格の者やいたずら好きな性格の者もいる。中にはのんびり屋として茶を飲んでいる者も。
清掃担当といっても、冬の間プールだけは掃除できなかった。学園のプールはビニールを張る屋根つきタイプ。プール納めになると必ずビニールを外さなければならなかったので致し方なし。雪が積もっていた影響でかなり汚れていたので念入りに掃除する必要があった。


青「うー……なんだか嫌な予感がするよぉ……」

黒「心配することはないわ。ここには偉大なりし暗愚の帝王の生まれ変わりのあたしがいるのよ!嫌な予感なんてあたしがぶっ飛ばすわ!」

紫「そもそも騒ぎが起こることなんざいつものことだろ」

灰「………………」

緑「まあそれが平和の証なのかもしれないねぇ」

赤「飲んでる場合!?」

茶「ね、ねえ……とにかく掃除始めよう?」

橙「水浅めに入れといたよ!」

桃「あら、早いわね~」

黄「早く掃除して、いたずらしたい!」

赤「ちょっと、ブンブン回さないで!」

白「それじゃあ早く掃除始めよう!」


妖精たちがデッキブラシを持ち、プールに入ろうとしたその時。



ドオオオオオオオン



プールの真ん中に得体の知れない何かが落ちてきた。轟音と共に地に立てないほどの震動が起こる。
妖精たちはパニックのあまり、辺りを走り回る。中には泣き出す者もいれば、この世の終わりだと叫ぶ者も。
だが金だけは落ちてきたものの正体がわかった。これは隕石ではないと。だが隕石ではないとすれば、これは一体?同じく死纏さんも音が聞こえたプールに駆けつけてきた。


死纏さん「あっ、お前ら!」

金「死纏さん!さっきプール掃除しようとしたらあんなものが!」

青「うわ~ん!!死纏さ~ん!!」

死纏さん「隕石…?じゃなさそうだな………おいテメェら!すぐ警戒態勢に入れ!隕石じゃなくてもいつ何が起きるかわかんねぇぞ!」

金「落ち着いてよ、死纏さん!確かにあれは隕石じゃないけど、よく見て!人っぽいよ!?」


金が指す方向を見るや否や、死纏さんは話を聞かず、人らしきものに鎌を投げつけようとする。


死纏さん「人だとしてもそいつが危険な奴なら排除して輪廻転生させなきゃ意味ねぇだろうが!」

紫「いや、屋上から落ちて死にかけてた変態トカ…いや、学園長すら送ろうとしてたよな!?」

死纏さん「今の学園長が死んだら誰が次を務めるんだって話だよ!」

灰(今ライオンに襲われて死にかけてるんだけど!?)

緑「ん?あれは………紙?」


ところが、ある1枚の紙が宙を舞い、それが死纏さんの足元に落ちた。


死纏さん「ん?何だこれ?」


死纏さんが拾うが、そこに文章が書かれていることに気づくのにあまり時間はかからなかった。
拾った紙には、こう書かれていた。


【眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ眠れ……決して目覚めることのなき眠りにどうかつきたまえ……その眼を開く時に宇宙の理は崩落し、ただただ無に帰すであろう……】


文章を読んだ死纏さんは落ちてきたものと文章を交互に見合わせる。目を凝らすと、そこにいたのは玉座に座ったパジャマ姿の少年………人間で言えば中学3年生ぐらいだろうか。なぜか布団を被せながらスヤスヤと眠っていた。


死纏さん「あいつ宇宙から落ちてきたのか。痛くないのか?だが眠ってるとはいえ、何か危険な能力を持ってるかもしれねぇから警戒しねぇとな」

赤「死纏さん、他にも何かトカゲと人形みたいなのが…」

死纏さん「あ?」

青「ホントですね。寝てる人の従者かな……」

死纏さん「うかつに近づいたら危ねぇぞ。俺が確かめるから離れててくれ」


妖精たちに離れるように促し、警戒しながら近づく死纏さん。少年の足元を覗いてみると、そこにいたのは。


死纏さん「…………トカゲはいいとして、粘土細工ってどういうことだよ」


玉座の下には1匹のトカゲが下敷きになり、玉座の周りには4体の粘土細工が目を回して倒れていた。


死纏さん「うーん……………《《少なくとも敵じゃなさそうだな》》」

妖精全員『!?』

死纏さん「だが宇宙から落ちてきたってことは…」

アルケー「皆さん仲良く揃って楽しそうですね」


振り向くと、先ほどの音と震動で駆けつけてきたアルケーと南原がいた。


死纏さん「校長か。南原まで来てどうしたんだ?」

南原「校長に頼まれて来たんですよ。さっきすごい地震が起きたとか……」

黒「地震ってあれのことですか?」


黒が玉座に座っている少年を指しながら言った。それから妖精たちは先ほどの出来事を説明したが、いくら説明しても南原は信じてくれなかった。


南原「空から人が落ちてくるとかあり得ないですよ。おとぎ話じゃあるまいし」

橙「信じてくださいよ南原先生!ホントに空から降ってきたんですよ!」

南原「信じろって言われても信じられないですよ。私ずっと職員室にいたですよ」

死纏さん「なら近くで確かめてみろ。玉座に変なのいてちょっと引いたから」

南原「いいですよ。私が直接見て、もし何にもなかったら帰るですよ」

アルケー「南原先生、気をつけてくださいね」


口笛を吹きながら少年に近づく南原。しばらく少年と玉座を見合わせていたが、急に顔色が青ざめた。


南原「………………」


真っ青な顔で無言で死纏さんとアルケーに近づく。妖精たちも様子がおかしい南原に心配している。


アルケー「どうしました?顔が青いですよ」

南原「………私、あの子の正体知ってるですよ。もし話したら大変なことになるかもしれないので黙っておくですよ」

金「南原先生?」

死纏さん「おい、南原?」

南原「……………………」


南原は黙ったまま職員室へ戻っていった。
死纏さんもアルケーも妖精たちも顔を見合わせる。


アルケー「…………」

死纏さん「あいつ、全てを知ってるような顔だったよな………いや、待てよ?南原の種族はトルネンブラ………てことはあいつも…………」


死纏さんが言葉を続けようとした途端、1体の粘土細工が死纏さんのローブを引っ張った。
まるでそれ以上言うなと警告しているようにも見える。


死纏さん「うげっ!!な、何だこいつ!?粘土細工なのに動いてやがる!!」

灰「き、金……なんか怖いよ………」

金「だ、大丈夫だよ……大丈夫……(ホントにそう信じたい……)」

紫(敵じゃなさそうって言ってたんだけどなぁ………)

アルケー「そんなに驚かなくても大丈夫ですよ死纏さん。この粘土細工、『私たちの話を聞いてくれ』って伝えたがってるんですよ?それに………この子以外にも仲間がいますし」

死纏さん「こいつに仲間?なあ校長、どっかおかしくなったのか?」

アルケー「失礼ですね。私はいつでも正常です。座ってる子をよく見なさいな」


ローブを引っ張った粘土細工以外の3体はすでに目を覚ましており、玉座の下敷きになったトカゲは手当てを受けていた。
そのうち1体が最初から所持しているであろうスケッチブックに何か書いている。書き終わると、自分たちの前に来てほしいと言うように手を動かして促す。


死纏さん「今気づいたけど、あの寝てる奴背中に触手生えてんじゃねぇか…まあ、敵じゃなさそうだったし、行ってみるとするかね」





粘土細工の筆談によると、常に玉座に座って眠っている少年の名は『浅井冬睡』、粘土細工とトカゲは青の言っていた通り彼の従者らしい。トカゲは浅井が座っている玉座を運ぶ足役。4体の粘土細工は子守、筆談及び感情表現、他の2体は生活補助を担当している。
常にまぶたを閉じているので浅井の目の色はわからないが、宇宙から落ちてきたため、アルケーが言うに「きっと宇宙のように神秘的に煌めいているんでしょうね」とのこと。一方で浅井が敵ではないと知った妖精たちはすでに安心していた。


死纏さん「食事とかどうしてるんだ?いつもお前らが食わせてるのか?」


筆談役は再びスケッチブックに言葉を表す。五感が機能している者もおり、食事は生活補助役が食べさせているのでなんとか大丈夫とのこと。
だが彼らは年中無休。1日中浅井の世話をしなければならないので、休息できる時間がほとんどないんだとか。いや、できるといえば疲れた体を癒すためにコーヒーを飲むことぐらいである。給料や休日をくれと言いたいが、彼らはアルケーや死纏さんみたくしゃべれないので苦情のくの字も出ない。
だが従者たちが死ねば浅井も生活できないので、彼の目が覚めるまで必死に世話を務めなければならない。例え体調不良でも、ケガをしていても。眠り続ける浅井を支えられるのは彼らしかいないのだ。


死纏さん「何だそのブラックすぎる仕事。寝るだけで生きられるとかその時点でスゲェよ」

アルケー「フフ…浅井冬睡さんでしたっけ?あなた、見たところ転校生のようですね?」

浅井「……スゥー」


微笑みながら浅井に聞くアルケーに筆談役は慌ててスケッチブックに言葉を書く。


【なぜわかった?】

アルケー「私の勘がそう言ってるんですよ♪」

浅井「む……んん……」

【そうです、私が異生神妖魔学園に転校することになった浅井冬睡です】

死纏さん(俺たちの言葉は通じるのか……てかその時点でおかしくね?普通声かけられたら起きるだろ)

【浅井様に言葉は通じても決して目を覚ましません】

死纏さん(こいつさりげなく心読みやがった!?)


一方、アルケーたちの会話を聞いていた妖精たちは。


緑「僕たちの存在………」

灰「すっかり空気…」

黄「だね」


完全に存在を忘れられていた。そして掃除することすらも忘れていた。










その頃、住む場所を燃やされ、EVOLUTION SPACEに居候している貴利矢は。


貴利矢「さっきの音、学園からだったよな……こりゃ誰かやって来たみてぇだなぁ。空から落ちてきたってことは、確か種族は…………ダメだ、全然わかんねぇ。まるで塗り潰されてる感じだ」


真相を突き止めるべく学園に行く準備をしていた。 
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