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歪んだ世界の中で

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第十五話 幸せの中でその十四

「これ以外の何でも。僕達にとっては」
「ラッキーアイテムなんだね」
「うん。けれどアイスもね」
「ラッキーアイテムなんだ」
「そのうちの一つだよ」 
 二人にとってはそうだとだ。希望は千春に話した。そうしてだ。
 そうした話をして二人でそのアイスを食べる。これもだった。
 優しい味だった。家庭的な。その家庭的なアイスを食べながらだ。千春は言った。
「冷たいけれど暖かいね」
「そうだよね。冷たくて甘いけれど」
「それと一緒に暖かくてね」
「美味しいよね」
「アイスが暖かいなんて不思議だよね」 
 確かに矛盾していた。アイスは冷たいからこそ美味しいからだ。 
 だが今食べているアイスは暖かいとだ。二人は言うのだった。
「こんなことってはじめてだよ」
「僕もだよ。ここのアイスは美味しいって思ってたけれど」
「暖かいって感じたことなかったのね」
「アイスは冷たいものだからね」
 文字通りだ。アイスだから当然のことだ。
「だから。一度もね」
「けれど今は違うよね」
「うん、暖かいね」
 目を細めさせてだ。希望はそのアイスを食べながら言っていく。
「とてもね」
「そうだよね。それにね」
「それに?」
「このアイスって。奇麗だよね」 
 暖かいだけでなくだ。そうだともいうのだ。
「白くてきらきらとしてて」
「このお店のアイスって奇麗だったの」
「奇麗だったのかな」
 最初からだ。そうだったというのだ。
「けれどずっとそのことには気付かなくて」
「美味しい、冷たいことだけが見えて感じられてたのね」
「うん。他のことは全くね」
 気付かなかったというのだ。希望は。
「ただそれだけのものだったよ」
「見えてわかるようになったんだ」
「不思議だよね。千春ちゃんといるようになって」
「わかったの?」
「他のことと同じでね」
 そうだというのだ。
「わかるようになったよ」
「千春は何もしてないけれど」
「いや、影響を受けてなんだよ」
「千春から?」
「うん、だからね。心が穏やかになったし前よりも豊かになったんだと思うよ」 
 自分で自分自身を分析しての言葉だった。
「そのせいだよ」
「そうなの」
「アイスって奇麗なんだね」
 このことをだ。希望はまた言った。
「そうなんだね」
「そうね。奇麗で食べても美味しくて」
「アイスクリームっていい食べものだよね」
「そうね。じゃあその奇麗で美味しいものを食べてから」
「うん、それからね」
「アクセサリー買いに行こう」
 千春はにこりとした笑顔で希望に行った。
「そのお店に行こうね」
「いいお店だよ」
 そのアクセサリーショップのことをだ。希望はここで千春に話した。
「凄くね」
「そんなにいいお店なのね。千春ここの商店街はこれまで殆ど来たことなかったけれど」
「あっ、なかったんだ」
「うん、なかったの」
 こう話す。希望に対して。
「長い間ね」
「長い間って?」
「そうなの。ずっと昔は行ったことがあったけれど」
「ずっと昔って?」
「ずっと昔はずっと昔だよ」
 希望にはわからない返答だった。これは。
「千春が今よりずっと小さい時にね。何度か来たことあったけれど」
「小さい時には来たんだ」
「その時の商店街はこんなのじゃなかったよ」
「どんな感じだったの?」
「どのお店ももっともっと古くてね」
 千春は彼女の記憶のことを話す。 
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