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第一章

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 ジャコモ=プッチーニは歌劇トゥーランドットを作曲していた、だがその中で彼は喉頭癌に蝕まれていき。
 遂に作曲もようやく終わるという時に世を去った、彼を知る者は誰もがこのことを残念に思った。
「あと少しだったらしいのに」
「それで神に召されるとは」
「無念だったろうな」
「残りの作曲は弟子の人がしてくれるらしいが」
「しかし本人が作曲を終わらせられなかったことは」
「何と残念なことだ」
「マエストロも無念だっただろう」
 こう思うのだった、しかし何はともあれ作曲の残された部分最後のクライマックスと結末の部分までが為されてだった。
 上演されることが決まった、その上演には。
「ドゥーチェもか」
「ベニト=ムッソリーニも聴くのか」
「それはまた凄いな」
「ああ、本当にな」
 ファシスト党を率いて事実上イタリアの独裁者になっている彼も歌劇場に来て初演を観ると聞いてだった。
 多くの者は首を傾げさせて言った。
「初演の指揮はやっぱりあの人か」
「アルトゥーロ=トスカニーニか」
「あの人しかいないと思ったら」
「やっぱりあの人だったな」
「あの作品の初演に相応しい」
「というかあの人しかいない」
「初演の指揮は安心出来るな」
 トスカニーニならとだ、誰もが思った。
「いい初演になるぞ」
「これは歴史に残る初演になるぞ」
「マエストロの作品は蝶々夫人は大失敗だったが」
 これには色々理由があってだ、それ以降は公表だった。
「しかし今回は違うな」
「トスカも西部の娘も好評だった」
「そしてトゥーランドットもだ」
「マエストロ=プッチーニも天国で喜んでくれるな」
「最高の初演だったとな」
「しかしな」 
 ここでこうも言われた。
「けれどマエストロ=トスカニーニは」
「ああ、ドゥーチェと仲が悪いな」
「最初はファシスト党を応援していたけれどな」
「それがスカラ座のことでな」 
 トスカニーニ自身の運営にというのだ。
「マエストロがドゥーチェに協力してくれと言って」
「ドゥーチェが断ったからだったな」
「マエストロも短気だしな」
「それで意固地だから」
「それで仲が悪くなったな」
「マエストロが一方的に嫌ってるな」
 こう言う者もいた。
「そんなマエストロが初演か」
「ドゥーチェと喧嘩しないか?」
「マエストロは退かない人だ」
「我が強いのは練習中だけじゃない」
 オーケストラの練習中すぐに癇癪を起こして指揮棒を折ったりものを投げたりすることも有名である。
「まさかドゥーチェと言い合うか?」
「まあドゥーチェはそこまでしないだろうがな」
「伊達にこの国を指導している訳じゃない」
「だからな」
「それはないか」
「しかし揉めごとは起こして欲しくないな」
「それだけは思うな」
 こうした話もされた、この初演はイタリアの国家的イベントとさえなっていて余計に注目された。それでだった。
 多くの者が注目した、そしてここで。
 ムッソリーニが初演に臨席するとなってだ、上演の前にファシスト党の党歌である青春の歌当時は国家にさえなっていたそれがムッソリーニが臨席する時に演奏されることが決まったが。
 その決定を聞いてトスカニーニは怒って言った。 
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