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動物の労働者

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第一章

                動物の労働者
 アメリカのノースカロライナ州ウエストポイントのある自動車修理工場に自分の車を持って来た弁護士のスティーブン=キッシンジャー、資格眼鏡とグレーの目の真面目そうな顔とブラウンのセットした髪のユダヤ系の彼は。
 店の受け付けの場所にちょこんと黄色い羽毛で大きな赤い鶏冠の鶏がいるのを見て店員に問うた。
「コケッ」
「この鶏は何かな」
「うちのスタッフです」
 スタッフは笑顔で答えた、左胸の名札にはジョー=ガロとある。くすんだ金髪でうっすらと顎鬚を生やしていて青い目をしている大柄な男だった。つなぎの作業服が似合っている。
「アールといいます」
「ペットじゃないのかい」
「はい、実は一年位前に店の前にいて」
 それでというのだ。
「それが毎日で。餌もやりますと」
「それで居ついたんだ」
「そうなんです、店が旧家に入ってそれが終わっても店の前にいて」
 それでというのだ。
「店の中に入れても普通にいるんで」
「それでかい」
「うちのスタッフにしました」
「そうなのか」
「夜は近くの木の上や倉庫で寝ていて」
 そしてというのだ。
「仕事の時間になるとすぐに僕達のところに来てココッと挨拶をして」
「働くのかい?」
「店の中を隅から隅まで見ておかしなところがあるとそこで鳴きます」
「それで異常を知らせてくれるのか」
「はい、そして」
 それでというのだ。
「店の中にいる虫もです」
「鶏だから食べるんだね」
「そうです」
 こうキッシンジャーに話した。
「いいスタッフですよ、勤勉な」
「成程、これは面白い」
 キッシンジャーはここまで聞いて笑顔で言った。
「それならここに車を修理してもらおう」
「そうしてくれますか」
「この子を見てその話を聞いて気に入ったよ」
 心の琴線に触れたのだ。
「ではね」
「それでは車をですね」
「持って来るよ」
 こう言って実際にだった。
 キッシンジャーはこの店に自分の車を預けて修理してもらった、すると車は新品の様によくなった。その車に乗って。
 彼は仕事先、依頼のあった別の自動車工場に行った、そこでだった。
 仕事の話をした、仕事の話は順調に進み。
 一段落してまた来る時を打ち合わせてから帰る時に修理現場でだった。
「キキイッ」
「あれはアライグマですね」
「はい、実はうちにずっと住んでいて」
 工場の経営者であるルチオ=アルベッティが答えた。禿げ上がった頭で口髭を生やしたブラウンの目のプロレスラーの様な体格の男だ。 
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