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MOONDREAMER:第二章~

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第四章 ダークサイドオブ嫦娥
  第17話 月の罪人:後編

 遂に始まった勇美と嫦娥の戦い。そこで勇美は相手の達観した態度に思わず感心する程であったのだった。
 そんな勇美に対して、今度は嫦娥から質問が来る事となる。
「それにしてもあなたもさすがですよ。私の『エスパースパーダ』の超能力による攻撃に動じないなんて」
「あ、それですね。幸いにも、私の友達に正真正銘の超能力と主な力とする人がいるんですよ。その人と戦った事があったお陰ですね~」
 そう言って勇美は、自分と同じ幻想郷の外の生まれの、幻想郷に関わるのは珍しい人間の友達の事を想起しながら言うのだった。
「成る程……いいお友達をお持ちになりましたね」
「まあね。やっぱり外の文化を知る人とは何かと気が合いますね」
 勇美はそう結論付けるのだった。その条件の中では一名ばかり彼女が苦手とする存在がいるのだったが、あくまでそのアプローチが苦手なのであって、話自体は馴染む所なのであった。
 それはさておき、今しがた勇美は『嫦娥』という存在についてある程度の考察を済ませた所であった。
 それは、彼女が『武人』的な人物であるだろうという事である。そう思うのは彼女が超能力を使う際に、わざわざ刀の形に現出させて行ったからというものである。
 これも、勇美の友人の超能力を垣間見た経験から察する事なのであった。その友人は超能力を使う際に、オカルトグッズや(法律に片足突っ込んでしまっている)自作の銃を用いて行っていたのである。断じて近接武器のような類は一切使わなかったのだ。
 その事が、勇美に嫦娥が武器の扱いに長け、肉弾戦が得意な人ではないかという読みへと導く所なのであった。
 まだ、相手の出方をそこから決めてしまうのは話が早いが、その可能性を考慮してここから先戦うのは好ましいかも知れない。その思いを胸に勇美は再び嫦娥に向き直る。
 こうして、今は勇美が一歩相手にリードした状態で、勝負は仕切り直しとなるのだった。
「では、次に行かせてもらいますよ」
 嫦娥はそう言うと、再び懐からスペルカードを取り出して宣言する。
「【霊符「麒麟の長角槍」】」
 そして、再び嫦娥の前に得物が現出した。
 それは、荘厳な様相をした槍であった。まさに有角の霊獣・麒麟の角を模したかのような代物である。
 その立派な武器を嫦娥は、自らの両手でもて余す事なく握りしめたのであった。
 その後は、彼女のやる事は決まってくるだろう。
「いざ、参ります」
 そう勇猛果敢な態度を見せる嫦娥は、さながら薙刀を手にする気丈な武士の奥方のようであった。
 一気に踏み込みを見せ、嫦娥は無駄のない動きで勇美との距離を縮めて突きを繰り出して来たのだ。
「槍の攻撃かあ。初めて見るなあ」
 そうぼやきながらも勇美はその月を今まで鍛えてきたその身を翻して避けたのである。
 そして、こんな事も思っていた。命蓮寺にも槍の使い手がいたっけ、それも二人も……と。
 そう言えばあそこの人達と自分は余り関わった事がないと思い返し、今のような時の為に一度手合わせ願っておくべきかと勇美は考えるのだった。
 しかし、そこで勇美は一番肝心な者の事を思い出すのだった。紅魔館の主にして勇みのかけがえのない親友、レミリア・スカーレットの事を忘れてはいけないだろう。
 こうして勇美は槍の名手と手合わせした事を想起し、その思いを胸に勇美は目の前の敵の槍捌きへと意識を集中するのだった。
 そして、嫦娥の突きの第二波がやってきた。これも勇美は寸での所でかわす。
 事なきを得た勇美であったが、やはり彼女は思うのであった。──やはりこの人は手練れの武人だと。
 格闘技や武術の知識には疎い勇美であったが、それでもそういう人妖達とこれまで戦ってきたのだ。故に勇美は肌でそれを感じ取る事が出来るのであった。
 だから、このまままともに敵の手練れた攻撃に向き合っていてはこちらが疲弊してしまうだろうと。
 ならば、自分がすべき事は一つである。それに、彼女には今思う所があるのであった。
 そうと決まれば、勇美の次の行動は決まっているのだった。
 勇美がそう考えている間にも、敵の槍捌きによる突きが繰り出されてきたのである。その一撃に目を光らせながら勇美は行動に出る。
「【蛇符「雁字搦めのメタルテンタクル」】」
 その瞬間、勇美の手には機械の触手が形成され、それが執拗に嫦娥の槍へと巻き付いたのであった。
 これは、蛇神『ナーガ』の力を取り込んだマックスの姿だった。
「なっ!?」
 驚く嫦娥を尻目に、勇美は触手の力に委ねてその槍を奪い取り、そしてその勢いのまま宙へと放り投げたのであった。
 その後は予想通りと言うべきか、嫦娥の手を離れた得物はその形を保てなくなって雲散してしまったのである。
「これで、今回の武器も無効化しましたよ」
「やりますね……」
 勇美のその言葉にも、嫦娥はやはり落ち着いた振る舞いの下にそう言うのであった。
 そして、勇美はある程度敵の扱う武器の方向性を読み始めていたのである。
 まず、最初は超能力である。そして今回のは霊力を具現化した代物。
 そして、敵の能力は神を退けるというもの……。
 そこから導き出される答えはこうであった。
 敵は超能力や霊力といった、神がもたらす自然には存在しないような概念も扱う事が出来るのだろうと。それも、神を退ける能力の一端なのであろうと。
 そう分かれば勇美としても対策の立てようがあるというものなのであった。なので勇美は決して油断せずとも、落ち着いて敵の次の出方を見据える心構えなのだ。
 そう勇美が思いを馳せている間にも、嫦娥は次の手に出てくるのだった。
 そして、彼女は第三のスペル発動へと踏み入れるのだ。
「【妖符「鳳凰の羽根扇子」】」
 今度のは日用品に分類されるような物で、見た目は武器とはかけ離れているだろう。
 だが、それが立派な武器として造られた物である事も幻想の世界ではよくある事であるのを勇美はよく知っているのだった。──何せ彼女の知り合いには二人程その該当者がいるのだから。
 そして、勇美の読みは正しかった。超能力、霊力、続けて今回は『妖力』であるようだ。
 こうなれば、次に対処すべき事は粗方決まってくるのであった。
 そのように勇美が考えているとも知らず、嫦娥はその手に持った赤々とした派手な扇子を勇美目掛けて振り翳したのだ。
 それにより、扇子から一気に熱風が吹き荒れたのである。やはり、これはただの扇子ではなく立派な武器だったという事だ。
 物凄いエネルギーの奔流が巻き起こる。だが、勇美は決してそれに怖じけづく事はなかった。
「【金風「妖怪退治の聖なる嵐」】っ!!」
 その勇美の命令により、既に黄金色の送風機と化したマックスから風が放出されたのだ。
 勿論、それは単なる強風ではなかった。名前の通り見た目鮮やかな黄金に輝く風なのであった。
 勇美の考えた事はこうだ。まず、妖力を伴う──即ちそれは妖怪の力。
 そして妖怪は基本的に夜に力を発揮する存在である。つまり逆に考えれば昼には本来の力は出しきれないのだ。
 そこで勇美は昼間の象徴である太陽の力を使うべく、まず『天照大神』の力を取り入れる事を想定していた。
 そして、今しがた敵は扇子を振りかざして熱風を放ってきたのである。
 故に、目には目を、風には風をという事で風神の力も借りて今の黄金の嵐を生み出したという事なのであった。
 その目論見は見事に功を奏したようである。瞬く間に黄金の嵐は妖力による熱風を飲み込んでいき、一気にそれを押し流してしまったのだった。
 そして、後には嵐の後の静けさとでも言うべきか。全くを以ての静寂がそこには訪れたのである。加えて、お決まりの如く嫦娥の持つ武器の扇子はその場で砕けてしまった。
 その様子すらも彼女は落ち着いた様子で見据えながら言葉を紡いだ。
「この『鳳凰の扇子』すらも防ぐとは、ここまでやるとは思ってみませんでした……ですが……」
 嫦娥は勇美を褒めつつも、どこか含みのある言葉を口にしていた。それに対して勇美は「やっぱり」といった感じで返す。
「やはり……分かりますか……」
 そう呟く勇美の様子は、見るからに息が上がっているものであった。それに対して嫦娥は平常通りの立ち振る舞いをしている。
 お忘れかも知れないが、嫦娥は蓬莱の薬を飲んだ、不老不死の蓬莱人なのである。そして勇美は脆弱な人間なのだ。
 そこには、越えられない壁があるのだった。そう、体力面では雲泥の差が二人には存在しているという事なのであった。
「……お辛いですよね」
 嫦娥はそう、嫌味でも挑発でもなく、本心からその言葉を勇美に対して投げ掛けるのだった。それに勇美はこう答える。
「ええ、全くです。でも、これは私が選んだ道ですから」
 それが勇美の答えだった。彼女には人間として生きる以外の選択肢も、彼女の恩人となった妖怪の賢者からの提案があったのである。それはその妖怪の半分冗談のつもりではあったが。
 だが、勇美はそれを断り、敢えて人間として生きる道を選んだのだ。それが、彼女が人間として成長していきたいと願う信念からなのであった。
 その想いを胸にこの場に立つ勇美は実に凜々しくあったのである。その様子を嫦娥は感心したように見据えていた。
「いい心構えね。この不利な状況でも、勝負を決して捨ててはいない……」
 嫦娥はそんな勇美を羨ましく思うのだった。もしこの子のように、自分にも投げ出さない心があったら……と。
 だが、それは仮定の話であり、今それについて考えている場合ではないだろう。彼女は再び目の前の敵を相手にすべく、新たなスペルカードを取り出すのであった。
「【龍符「光の息吹の剣」】」
 そして、彼女の手には剣……というには些か無理のある代物が握られていた。
 何故なら、それは柄に当たる部分だけの物だったからである。剣が剣たらしめられるにはなくてはならない『刃』に当たる部分がごっそりと存在してはいなかったのである。
 だが、勇美はそういうタイプの剣には心当たりがあるのだった。何故なら、彼女自身もそういう剣を使った事があるからなのだ。
 その勇美の読みは見事に的を得る形となるのだった。嫦娥はその剣の柄を高らかに掲げると、その付け根から光が溢れ出して、そのまま刃の形を形成したのだから。
 それは、正にドラゴンのブレス、龍の息吹を彷彿とさせるものであった。超能力、霊力、妖力と来て、今度は龍の力のようである。
 龍……いよいよ以て大それた存在が来たなと勇美は思うのだった。そして思う。
 天界の素敵なあの人は、リュウグウノツカイ……つまり魚が妖怪化した存在であり、龍ではないのだ。寧ろ彼女が仕える存在がそのものの龍神であるのだが。
 そして、紅魔館へ赴いた時には人間である自分に色々と気を利かせてくれる温厚な妖怪である門番のあの人。詳細は分かってはいないが、もしかしたら龍の化身であるかも知れないという憶測が周りで飛び交っているのである。
 なので、勇美は今後『龍』なる存在とも関わる機会があるかも知れないと期待に胸を膨らませる所なのであった。
 だが、まずは目の前の龍の力を携えた得物にどう対抗するかを考えなくてはならないだろう。
 あれの光エネルギーの出力は半端ない事が遠目からでも分かる。まるでガスバーナーの炎のように高密度、高出力の代物であるのだった。あのような攻撃をまともに受ければ、自分はひとたまりもないだろうと。
 それに、先程のやり取りから分かるように、人間たる勇美は既に消耗しきっているである。
 もし余裕があれば、自分も光の剣を形成してSFファンタジー映画の最高傑作の騎士のような打ち合いをして見たいと思う所であったが、今の現状ではそうも言ってはいられないというものだろう。
 なので嫦娥には悪いが、勇美はまともにやり合わずにここで勝負を決める事にしたのだった。──それもとっておきの秘策で以て。
「いざ、参りますよ」
 勇美がそう脳内で構想を練っている間に、嫦娥が今正に攻撃を再開するのだった。
 そして、一気に勇美の下へ踏み込むと、その光の刃を振りかざしたのである。
 それにより、ブオンとこれまたあの映画の光の剣の如く独特の空を切る音がした。それだけでもこの威力がいかに高い事が窺えるであろう。だが、間一髪で勇美はその攻撃を回避する。
 いよいよを以って長期戦は降りだと勇美は判断した。そして、敵の二撃目、三撃目とかわしながら勇美はある神へと呼び掛けを行うのだった。その神とは……。
「純狐さん……聞こえますか? 私です、黒銀勇美です」
 その呼び掛けに、すぐさま純狐は応える形となる。
『勇美さんですか、どうしましたか? それにしても、この茶屋のお団子は美味しいですね』
 そう、今正に純狐は絶賛、幻想郷の茶屋で憩いの一時を過ごしていたのだった。
「ええ、そのの茶屋は私もお気に入りなんですよ~……って、今はそれどころじゃないんですって!」
『どうしたの、勇美さん?』
 そう切羽詰まった様子の勇美に対して、純狐は何事かと聞く──だが、あくまでまったりとお茶の時間を満喫しなら。
 しかし、次の勇美の言葉で彼女は血相を変える事となるのだった。
「今、私は嫦娥さんと戦っているんです。そして、純狐さんの力が必要という事なのですよ!」
『何? 嫦娥……!? 分かった、すぐ行く!』
 よもや純狐がその名前を聞き間違える筈もなかったのである。彼女は憩いの時間を惜しげもなく切り上げると、そのまま神霊として勇美の下へと向かうのだった。
 ちなみに、最後に一瞬「食い逃げだー!」という声が聞こえたのを勇美は一先ず無視しておく事にした。
 そして、後日純狐に払わせようと思うのだった。そう、払わせるのである。これは純狐が食べていた分だから、勇美には代わりに払う義務など全くないのだから。
 ともあれ、神霊としての特性により、純狐は一瞬にして勇美の下へとやって来たのだった。
「勇美さん……どうやら嫦娥と戦っていたというのは本当のようですね?」
 純狐は今勇美と対峙している相手を見据えると、それは確信になるのだった。よもや自分が仇として追っている相手の姿を見間違う筈もなかろう。
「ええ、だから純狐さんの力が今必要って事なんです。……力を貸してくれますか?」
「……無論です」
 その勇美の申し出に純狐は断る意味などなかったのだ。今正に仇敵たる嫦娥を追い詰めるチャンスであるのだ。そして、新しく友となった勇美の願いを断るなどとは思わなかったのだ。
 そして、互いの意思を確認し合うと、神霊たる純狐は勇美の半身の機械のマックスへと取り込まれていったのである。
 その後、マックスと純狐の姿と気配がこの場から掻き消えたのだった。それに対して嫦娥は首を傾げる。
「どうしました? 純狐の力を使って何かするのではなかったのですか?」
 嫦娥は自分と因縁のある純狐がこの場に呼び出されてもなお平静を保っていた程彼女は冷静なのであった。
 だが、次の瞬間、その冷静さが覆る事となるのだった。
「これは!?」
 初めて驚愕の声を出す嫦娥。その理由は彼女の足元からみるみる内に機械で構成された壁が構築されていったからである。
 ガチャガチャとどこか非現実的な音を出して瞬く間に嫦娥を覆う形で機械の壁は形成されていった。
 そして、気付けばそれは彼女の360度全方を取り囲んでいたのだった。それも、立派な塔の形となって。
「ですが、この程度私の光の剣で!」
 当然嫦娥も相手にされるままでいる訳はなく、手に持った非現実の産物の刃でその塔の壁面を切り裂こうとする。
 だが、その光の刃の侵入は防がれてしまったのだった。それは純狐の純化能力によるものである。彼女の能力により光の刃は『完全に壁面を傷付けられない』ようにされていたのだった。
 弾幕ごっこには隙間を作らなければならないルールがあるが、勇美はそれを破っている訳ではなかった。
 形成された塔は筒状であり、上空へと向かえば逃げる事は出来るのである。嫦娥程の力の持ち主ならそれは造作もない事であろう。
 だが、自分の攻撃が純粋な無にされてしまった嫦娥は、普段の平静さを乱してしまい、そこまで気が回らなかったのである。
 そして、そんな嫦娥にとどめを刺す形で勇美はそのスペル宣言をするのだった。
「【終焉「バベルの破壊塔」】」
 その後は一瞬であった。塔の付け根から上空にまで一瞬にして純度の高い出力の光の柱が放出されたのだった。当然その攻撃を嫦娥はその身で一身に浴びてしまっていたのである。
 その最中、嫦娥は思っていた。
 ──これが純狐の力……。そういえば私の神を退ける能力の為に、純狐に思いっきりぶつかってもらえる事などなかったっけ──と。
 そのような、どこかこそばゆい想いの中で、遂に彼女は光の奔流に飲まれていったのだった。 
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