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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第105話『いざゆけ本戦』

 
魔導祭は2日目を迎えた。
天気は雲一つない快晴だが、夏においてはとても厳しい天気と言えよう。まだ動いてもいないのに、汗がたらりと頬をつたる。

現在、晴登たちは本戦の会場である、開会式も行なった闘技場へと続く通路にいる。というのも、今から本戦出場チームのみの入場があるのだそうだ。晴登たち【日城中魔術部】は、予選16位通過ということでその先頭に並んでいる。


『それでは皆さんお待ちかね、本日より魔導祭本戦を行なっていきます!』

「「「うおおおぉぉぉ!!!」」」


そのジョーカーの宣言に、観客のボルテージは既に最高潮。それだけこの本戦が注目されているということだろう。そう思うと、嫌でも緊張で顔が強ばってしまった。


「おい三浦、そんなにガチガチに緊張してもしょうがないぞ」


そんな時、前に立つ終夜からそう指摘される。
とはいえ、緊張するのも無理はないだろう。こんなに人に注目されるような舞台に立つのは初めてなのだから。


「部長は緊張しないんですか……?」

「あったりまえだろ。俺は部長だぞ?」

「その割には声が震えてるわよ。全く、緊張しない訳がないじゃないの……」


その緋翼の言葉通り、実は2人も緊張の色を隠しきれていなかった。彼らでも、この本戦には初出場なのだ。晴登と立場はそう変わらない。
その一方で、晴登の後ろに立つ結月の表情はいつも通りだった。


「結月は緊張してないの?」

「う〜ん、ボクは楽しみたいって気持ちの方が強いかな。ハルトが活躍するところが早く見たいよ」

「う、それはどうかな……」


相変わらず、結月は晴登のことで頭がいっぱいらしい。
しかし困った。彼女にかっこいいところを見せたい気持ちはあるが、本音を言えば戦闘(バトル)で勝てる気がしない。何せ相手は一回りも二回りも歳上の魔術師だ。経験だけでは埋まり切らない差が、そこにはあるように思う。


『それでは、本戦出場選手の紹介です!』

「お、俺たちの出番みたいだぞ。準備はいいか?」

「は、はい」


満を持して、入場の時がやってきた。陽気なファンファーレが流れ出したら、それが合図だ。先頭の終夜とその後ろの緋翼が動き出したので、その後をついて行く。


『まずは予選16位通過! 早速番狂わせなチームです! 合計順位は64位、【日城中魔術部】!』

「「「わああぁぁぁ!!!」」」


晴登たちが会場に入ると、そのアナウンスと共にさらに会場が沸き立つ。しかし、その盛り上がりは予選16位突破のチームに見せるものとしてはかなり過剰だ。まるで、予選を1位通過したチームかのようである。
それだけ、このチームが異色だったということだろう。



『中学生と侮るなかれ! なんとこのチームには予選1位通過者が2人もいます! 頭角を現してきた幼い天才たち、本戦に期待です!』


そう、このチームはまだ全員が中学生。義務教育も終えていないような歳なのだ。そんな少年少女が予選を突破したとあれば、このお祭り騒ぎも当然と言えよう。応援する人も少なくない。


「うわ、プレッシャーが凄い……」


しかし、その期待が逆に晴登を苦しめる。
大体、「天才」という言葉とは縁遠い所で生きてきたのだ。伸太郎や結月ならまだしも、晴登にその資質は存在しない。故に、この声援が余計に重荷となっているのだ。


「大丈夫、ハルト?」

「大丈夫かと言われると大丈夫じゃないかも。怖くて身体の震えが止まらないや」


気圧されてる晴登の様子に気づいた結月にそう訊かれたが、武者震いだと誤魔化すことはしなかった。そう強がれるほどの実力はないし、何よりこの会場全体の雰囲気に既にビビっている。
果たして、自分がここに立っていい存在なのか、場違いなのではないかと自問しながら、晴登は静かに指定場所に整列した。





その後、続々と予選を通過したチームが呼ばれていった。その中にはもちろん、予選13位通過の【花鳥風月】がいたし、1位の枠にはやっぱり【覇軍(コンカラー)】が鎮座している。
そして初めてそのメンバー全員も目の当たりにしたが、アーサーと影丸以外に、狩人を想起させる軽装の男と、青色を基調とした大きな三角帽子を被り、まるで魔女のようなコートを羽織った女がいた。全員、見るからに実力者なのは間違いない。

もちろん、強そうなのは【覇軍】だけではない。晴登たちの隣に並ぶ人もれなく全て、少なくとも晴登よりは格上の魔術師だろう。滲み出るオーラが違う。


『──それでは予選を突破された16チームの皆様、まずはおめでとうございます。あなた方は本日より、このフィールドにてトーナメント形式で戦闘(バトル)を行なってもらいます。1回戦が今日、2回戦が明日という具合です。そして最終日に決勝戦を行ない、そこで優勝チームが決まります』


16チームが全員整列したのを確認してから、ジョーカーは話し始めた。ここまでは、昨日終夜から聞いた内容と変わらない。


戦闘(バトル)のルールは至って簡単。相手を戦闘不能にするか降参させる、もしくはフィールド外の地面に足を付かせれば勝利です。なお、戦闘中は腕輪にかけられた魔術によって選手が保護され、ダメージによる身体的な傷害を負わない代わりに、魔力が減少するようになります。つまり、相手にダメージを与え続けると、相手の魔力不足を引き起こすことができるようになります』

「ほぉ……」


難しい説明をされて頭がこんがらがったが、要するに"怪我を負わない戦闘(バトル)"といったところか。確かに勝ち上がれば毎日戦うのだから、選手が怪我を負うのは避けたいのだろう。それで代わりに魔力がHPの代わりになると……一体どういう原理なのか。とりあえずこの腕輪すごい。
それにしても、フィールドの外に出るのも禁止とは。まるで相撲のようだ。忘れそうだから、ちゃんと覚えておこう。


『ただし、戦闘(バトル)の特別ルールは毎日異なります。シンプルで簡単なものからチームワークの問われる難しいものまで、それはこのくじを引かないことにはわかりません』


そう言うジョーカーの頭上には、開会式でも見たモニターが表示されていた。またルーレットを行なうのだろう。


『それでは早速、1回戦の特別ルールを決めましょうか。いきますよ、ドゥルルルルルルルルルル──』


始まった、またあのセルフ効果音だ。さて、今日の特別ルールは一体……


『デン! 1回戦は"抜き打ちタイマン勝負"です!』

「……うん?」


今日のルールが発表されたようだが、意味がよくわからず首を傾げる。
"タイマン"ということは1対1なんだろうけど、"抜き打ち"とは……?


『説明しましょう! "抜き打ちタイマン勝負"とは、チームから1人を運営側がランダムで指定して、その人たちがタイマン勝負するというものです!』

「げ……」


その説明を聞いて、納得したのと同時に不安を覚えた。つまるところ、選出されたら嫌でも戦わないといけないということだろう。しかも1人だけだから、プレッシャーもその分大きい。絶対選ばれたくない……!


『そしてそして、こちらが本戦のトーナメント表になります!』

「えっと1回戦の相手は……【グラトニー】」

「なんか強そうな名前だね……」


続いてモニターに映し出されたトーナメント表の1回戦第1試合、そこに【日城中魔術部】のチーム名が刻まれていた。まさかのトップバッターである。そしてお相手は【グラトニー】。結月の言う通り、名前からして既に強そうだ。


『第1試合の開始は30分後とさせて頂きます! それでは健闘を祈ります!』


そう最後に言い放って、ジョーカーは立ち去っていった。
もう30分後には本戦が始まる。気の休まる暇なんてなかった。



ジョーカーが去ったことから、選手たちも解散を始める。そんな中、【日城中魔術部】は会場に残った。今さら会場を出たところで、何もやることはないからだ。
それは1回戦の相手となる【グラトニー】も同じようで、フィールドを挟んだ向かい側に待機している。


「1回戦は誰が選出されるかわからねぇ。全員準備を怠るなよ」

「「了解!」」


部長らしい終夜の言葉に、残りのメンバーで揃えて応える。今、過去一番で団結している気がした。


さて、一体誰が選ばれるのか──







『定刻になりましたので、1回戦第1試合と参りましょう!』


ジョーカーが高らかに宣言し、会場の熱がヒートアップする。魔導祭本戦第1試合とあって、その注目度は相当なものだ。

その後彼はいつものようにモニターを表示し、滑稽な演出と共に出場選手のルーレットを回し始めた。


『出場選手は──デン! 【グラトニー】からは宍倉(ししくら)選手、【日城中魔術部】からは黒木選手です!』

「お、いきなり俺か」

「良かった……」


その発表を聞いた瞬間、心の底から安堵した。いや、本当は安心するにはまだ早いのだが、プレッシャーを一身に背負う必要がなくなっただけで気は楽である。

それに、予選に出場していない終夜の出番が早く回ってきたことが何より喜ばしい。こう言ってはなんだが、これで負けたとしても悔いは残らないだろう。伸太郎の分まで頑張って欲しい。


『では、選手を紹介していきます。まず、チーム【グラトニー】は予選14位通過。そして、宍倉選手は"組み手"にて、11位という高順位を記録しています』

「11位……!」


その順位に、ごくりと生唾を飲む。しかもよりにもよって、戦闘(バトル)と最も形式の近い"組み手"の順位がそれだ。
少なくとも、17位の緋翼よりは強いという証明にはなるだろう。早速強敵とぶつかってしまったらしい。

名前を呼ばれた宍倉という男は、首を鳴らしながら前へと出てきた。いかつい顔つきと金髪のオールバック、その体格は平均的な大人の男性よりも一回り大きい。まるで一昔前のヤンキーを思わせる風体だ。つまり、喧嘩も強そうだということである。


『一方黒木選手は、チーム【日城中魔術部】のリーダーでありながら、なんと予選は不参加。その実力は未知数であります』


その紹介に、さすがに会場もざわめき始める。
そもそも、補欠を用意しているチームすらあまりいないので、本戦で補欠と入れ替えるという行動に、誰もが驚きを隠せなかった。


『それでは両者、フィールドに上がってください』


ここで再度説明をするが、フィールドの形は直径50mくらいの円形で、地面から1mほど高く造られている。素材はコンクリートのようなものでできており、土と比べると少し戦いにくそうに思えた。

終夜と宍倉は階段でフィールドに上がり、互いの距離が10mといったところで対峙する。
まだ試合が始まっていないというのに、目から火花がバチバチと飛んでいるように見えた。
しかし大男と男子中学生では、その戦力差は歴然に見える。大丈夫だろうか……。


「おいお前、予選に出てないッてな。何でか知らねェが、予選にも出れねェ奴が本戦で活躍できると思ったら大間違いだぞ。身の程ッてのを教えてやる」

「それはありがたいですね。是非ともご教授願いたい」


宍倉の挑発を、終夜はさらりと受け流す。あくまで終夜は余裕の表情だ。ああいう顔をしている時は、何かしら策を講じている時だと知っている。


『では今から、魔導祭本戦第1試合を始めます。試合──開始!』


ジョーカーの合図と共に、ゴングの音が鳴り響く。瞬間、宍倉が動いた。


「そら、歯ァ食いしばッて受けてみろやァ!」


一直線に終夜へと駆け出す宍倉。その瞳は終夜をしっかりと捉え、その右手は鉄の鉤爪のようになっていた。恐らく、あれが彼の魔術だろう。怪我をしないとはいえ、あれをまともに喰らいたいとは思わない。
それなのに、終夜はその場から一歩も動こうとしなかった。


「部長……!」


「──そう焦らないでくださいよ」


「んぐッ……!?」


その様子にたまらず声をかけたところ、流れが変わった。
なんと宍倉の爪が終夜に当たる寸前、彼の身体がピクリとも動かなくなったのだ。


「何だァ……身体が、動かねェ……?!」

「すいませんね、ちょいと小細工させてもらいましたよ」


口だけは動く宍倉がそう叫ぶと、終夜は意地悪そうに笑みを浮かべた。
この現象は何度も見たことがある。彼の得意技、"麻痺"だ。


「このガキ……!」

「いや〜ダメージを防がれるって聞いて不安でしたけど、どうやら麻痺は通じるみたいで良かったですよ」

「ぐぎぎ……」


まだ中学生である終夜にしてやられて、元々怖い宍倉の顔がさらに険しくなった。
しかし、その身体は全く言うことを聞かず、指一本動かすことも叶わない。


「さて、その状態で俺の技をよけれますか? キツいやついきますよ?」

「……はッ、やれるもんならやッてみやがれ。耐えて痺れがとれりャ、こッちのモンだ!」


麻痺しているとはいえ、これではまだ戦闘不能とは言い難い。宍倉の闘志もまだ消えておらず、降参することもなさそうだ。
よって終夜がやることはただ一つ、この間にできる限りのダメージを与えること。逆に宍倉は、攻撃を耐えて痺れがとれるのを待つことが最善手だろう。


「なら遠慮なく。動かない相手に撃つのは気が引けますが、これは勝負なんでね」

「言ッてろ。すぐにやり返してやるよ」


遅れはとったものの、中学生の攻撃など余裕で耐えれるとの判断なのか、宍倉は随分と強気だ。カウンターを虎視眈々と狙っている。

しかし、そんな様子を見ても終夜は動じなかった。いつものように指鉄砲を構える。


「弾けろ、"冥雷砲"!!」

「ぐァァッ!!」


詠唱と共に、黒い閃光が宍倉に襲いかかった。その一撃に彼は叫びを上げたようだったが、轟く雷鳴に打ち消される。

その後、ぷすぷすと黒煙を上げる彼はぐったりと倒れ伏した。


『な、な、なんと、一発でノックアウト!! し、勝者は【日城中魔術部】黒木選手!! リーダーの名は伊達ではなかったぁ!!』


「「「うおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」


ジョーカーがそう采配し、決着がつく。
なんと終夜は、たった一撃で宍倉を戦闘不能に陥れたのだった。


「ええぇぇぇ!?」

「嘘!?」

「いくら本戦に出たかったからって、いきなりフルスロットル過ぎでしょ……!?」


その結果は味方にとっても予想外で、彼らは口々に驚きの声を洩らす。一体誰がこんな展開を想像できただろうか。いや、きっといないだろう。


『第1試合から波乱の幕開けです! 【日城中魔術部】、底が知れません!』


「「「わあぁぁぁぁぁ!!!!!」」」


観客の興奮は留まることを知らず、むしろより盛り上がってきていた。前代未聞の事態に、誰もが驚きを隠せなかったのだ。


「……は、はは、はははは」


そんな中、フィールドの中央で片手で顔を抑えながら笑っている人がいる。


──正直、彼自身も予想外だったのだ。


これほどの観客に、これほどの歓声を浴びせられる中、一撃で相手を仕留めたという高揚感。誰も彼の笑いを妨げることはできまい。

そして彼は両手を大きく広げ、大きく息を吸って勢いのままに叫んだ。



「これが俺たち、【日城中魔術部】だ!!」


 
 

 
後書き
5月半ばにてこんにちは。世間はもう梅雨らしいですね。洗濯物が干しにくくてたまりません。どうも波羅月です。

さて、1回戦第1試合が呆気なく終わってしまった訳ですが、先に言っておくと手を抜いた訳ではありませんからね? スピード感を重視しただけなのです。……ホントですよ?

ということで、次回から早速2回戦に進めそうです。嘘です、まだ1回戦終わってないですからね。次回ぐらいはまだ使っていきたいと思います。

今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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