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歪んだ世界の中で

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第十二話 笑顔の親戚その二

「やっとね。だから一緒に行こう」
「うん、その人達のお家にね」
「きっと。千春ちゃんを見たら」
 その千春を見てだ。希望は言う。
「おばちゃん達も安心して喜んでくれるよ」
「そうなればいいね」
「絶対なるよ。それでね」
「それで?」
「もうあのお家には戻らないよ」
 遠い目を見てだ。そうしての言葉だった。
「二度とね。戻らないよ」
「そうするの」
「だって。いてもいいことは何もないから」
 それ故にだというのだ。
「もう戻らないよ」
「本当に?」
「うん。戻らないから」
 また言う希望だった。
「昔のしがらみなんてもういらないから」
「そうだよね。希望お家のお話をする時は」
「その時は?」
「全然楽しそうじゃないから」
 希望のその顔を見てだ。そのうえでの言葉だった。
「だからね。もうね」
「お家を出てそうして」
「戻らない方がいいよ」
「両親でもだね。そこにいるのが」
「親になるのも資格がいるから」
 千春は俗に言われていることをここで否定した。親は誰でもなれるというその言葉をだ。そしてそのうえでこう希望に対して言ったのである。
「いい人と悪い人がいるのと同じでね」
「いい親と悪い親がいるんだ」
「そうだよ。いい親だったらいいけれど」
「悪い親だったら」
 希望の両親に他ならない。希望は自分で言いながらそう思っていた。
「そうした親だったら」
「離れられたら離れたらいいのよ」
「そうしていいんだね」
「千春はそう思うよ」 
 すっかり秋になった。その朝日を顔に浴びながら告げてきた言葉だった。
「そうできたらね」
「僕はそうできるから」
「離れたらいいよ」
「それでよく親からは絶対に離れたら駄目、離れられないっていうけれど」
「そんなの間違いだよ」
「間違いなんだ」
「そうだよ。だっていい親と悪い親がいるから」
 またこのことをその話に出してだ。千春は希望に話していく。
「それでいいのよ」
「いいんだね」
「そうだよ。一緒にいてもいいことが何もないのならね」
「僕は新しいお家に住んでいいんだね」
「新しい家族の人達とね」
「おばちゃん達と」
 その家族はだ。他ならない彼女達だった。
「一緒に住めばいいんだ」
「希望はそれができるから」
「できる状況ならすればいい」
「そういうことだよ」
 千春の言葉はいつも明るい。そしてだ。
 はっきりしていた。そのはっきりとした道標が希望を導いていた。まさにそうしていた。
 彼女のその言葉にだ。希望も頷いた。こうして放課後のことも決めたのだった。
 この日の午前中はこの決断から明るく過ごせた。その楽しい時間を過ごしてからだ。
 希望は昼休みに真人のクラスに向かった。そして彼に会おうとクラスの中に入るとだ。
 真人は丁度女の子と話していた。赤と黒、それに白のチェックの制服だ。スカートの丈は水核ソックスは黒だ。茶色のショートヘアである。
 真人はその少女と自分の席に座ったまま話している。それはすぐに終わりだ。
 少女は彼に笑顔で手を振って別れた。そこまで見たうえでだ。
 希望は真人のところに来た。するとだ。彼は照れ臭そうにこう言ってきた。
「彼女はですね」
「ああ、さっきの」
「同じ図書委員の娘でして」
「このクラスの人じゃないよね」
「はい、H組の娘です」
「ああ、H組の」
「そうなんです。この数日よくお話をしてまして」
 こう希望に言ってだ。真人はさらに言ってきた。 
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