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糸引き婆

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第四章

「むしろね」
「ああ、狐とか狸か」
「あと貉か」
「ここ九州だしな」
「狸の天下だしな」
「四国だからね」
 自分達のいる徳島県はというのだ。
「何といっても」
「そうだよな」
「本当に狸の国だからな、四国」
「八百八狸っていってな」
「狸の国だからな」
「だからね」 
 それでというのだ。
「若しかしてね」
「あの婆さんは実は狸か」
「正体そうだっていうんだな」
「だからそんなことするか」
「いきなり婆さんになって笑って来るか」
「如何にも狸みたいなことだね」
 それがすることだとだ、山影は友人達に言った。しかし。
 彼等がその話をしているとだった、それまで静かに糸を引いていた女がむっとした顔になってそうして言ってきた。
「狸ではないぞ」
「あれっ、聞いてたのかよ」
「婆さんこっちに言ってきたぞ」
「隠れていたのにな」
「もう気付いていたんだ」
「そこに自転車があるのに気付かない筈があるか」 
 老婆は自分の傍にある山影達が乗っていたそれを見つつ彼等に言葉を返した。
「しかもあれこれ話してな」
「そうなんだな」
「大声で話したつもりなかったけれどな」
「自転車も置いてたしな」
「それじゃあ気付くな」
「失敗したよ」
「全く、わしは狸ではない」
 女はこう言ってそれまでの若い姿から皺だらけの顔で白髪になった、その顔になってそうして山影達にさらに言った。
「れっきとした妖怪じゃ」
「その通りじゃ」
 今度は四角い顔で丸い大きな目の白い服と髪の毛の老婆が糸引き婆の横に来た。
「わしも言うぞ」
「あっ、砂かけ婆」
 山影はその四角い顔の老婆を見て言った。
「出て来たよ」
「如何にもわしは砂かけ婆じゃ」 
 その老婆も答えた、砂かけ婆は糸引き婆の横に立っている。
「それはわかるか」
「貴女有名人だからね」
「あの漫画でか」
「そうそう、あの妖怪漫画でね」 
 山影もこう返した。
「子泣き爺と塗り壁、一反木綿とね」
「実際にあの連中とは古い付き合いじゃ」
「そうなんだ」
「そしてじゃ」
 砂かけ婆はさらに言ってきた。
「わしと糸引き婆は従姉妹じゃ」
「お姉ちゃんとは子供の頃から一緒じゃ」
 糸引き婆も老婆の口調になって言う。 
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