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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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四十七 囚われ

 
前書き
白のオリジナル忍術が出てきます。ご注意ください。



 

 
「『暁』を拘束するはずが霧隠れの鬼人を拘束とはね…」


アスマの訃報を耳にし、五代目火影は暫し黙していた。
やがて深く重い嘆息を零すと、手を組む。
綱手に報告を済ませたカカシは、彼女からの言葉を待っていた。

既に、コテツとイズモ、そしてシカマルには席を外してもらっている。
アスマの葬儀を執り行わねばならないし、なにより傷心した彼らをこの場に留めておく理由がなかった。


「…それで?その鬼人はどうした?」
「牢に閉じ込めてあります。イビキがこれから尋問しますが…奴もプロです。そう簡単に口は割らないでしょうね」
「だろうな…」


木ノ葉隠れ暗部の拷問・尋問部隊隊長である森乃イビキを以てしても、木ノ葉に足を踏み入れた目的を鬼人から聞き出すのは骨が折れるだろう。

それだけ桃地再不斬という忍びをカカシは高く評価していた。
なんせ、波の国で散々苦汁を舐めさせられた相手である。


しかし、あの時、確かに再不斬は死んだはずだった。
白という少年と共に。


木ノ葉崩し前に再不斬と対峙したという自来也、そしてうちはイタチと共に来訪した鬼鮫の相手を再不斬が行ったというアスマの証言も正直言って、カカシは実感が湧かなかった。
実際に、この目で見ない限り。

そして今、木ノ葉の里にまで張本人を連行してようやく、カカシは再不斬の生存を認識できた。


再不斬が生きていたという事に困惑はもちろんあるが、どこか安心している自分に気づいて、カカシは苦笑を唇に湛える。
それだけ波の国の出来事はカカシにわだかまりを残していた。



「それにしても。やはりお前の勘は当たっていたな」

再不斬の対処をどうするか頭を悩ませていた綱手がふと、カカシに顔を向ける。


波風ナルの修行をヤマトに任せて、火ノ国に潜入した『暁』を捕らえる任務に、カカシは自ら志願した。
嫌な予感でもするのか、と訊ねた綱手に勘だと答え、アスマ班を追ったカカシは、五代目火影の言葉に頭を振る。

「当たっていませんよ。現に、間に合いませんでしたし…」


カカシの脳裏に、倒れ伏したアスマの姿が過る。
唇を噛み締め、一瞬、目元を伏せたカカシは直後、険しい顔つきで火影を仰ぐ。


「しかし。再不斬によって救われた命もあることは事実です」
「それは…確かに、な」


唇に指を添え、思案顔で綱手は双眸を細める。
カカシが駆け付けたとは言え、再不斬がいなければアスマだけではなく、イズモ・コテツ、そしてシカマルまで命を落としていたのかもしれないのだ。

更に、再不斬はあの『暁』の二人組の片割れと互角に闘り合ったという。
本来ならば抜け忍である以上、霧隠れの里に引き渡すのが定石だが、木ノ葉の忍びの恩人とも言える鬼人をむざむざ処罰させるのは罪悪感を覚える。


「そういえば、奴の得物はどうした?」

元霧隠れの七人衆のひとりである再不斬と言えば、首切り包丁だ。
その在処を問えば、カカシが間髪容れず、返答する。


「再不斬の手が届かない遠く離れた場所に厳重に保管しております」


そう返事しながら、カカシは再不斬を拘束した際の光景を思い出す。




カカシが現場に駆け付けた時には、首切り包丁は再不斬から遠く離れた場所に突き刺さっていた。どうやら『暁』の誰かに弾き飛ばされたらしい。

再不斬の手元に得物はなかった。その事が幸いして、案外易々と連行できたのだと、カカシは考える。

もしもあの時、再不斬が首切り包丁を持っていたと考えるとぞっとする。
あの大きな得物で抵抗されたら、拘束に苦労しただろう。

無駄な労力を使わずに済んだ、と安堵の息をついたカカシは知らない。


首切り包丁を手放している状況をあえてつくる事で、警戒をさほどさせずにあっさり連行させたという事実を。


得物である首切り包丁が再不斬の手元にあれば、木ノ葉忍びとの戦闘は避けられまい。
それをわざと回避する為に、首切り包丁を自然な形で再不斬から遠ざけたのである。



それを知っているのは再不斬本人と──首切り包丁を離れた場所へ遠く蹴飛ばした相手だけだった。





























「三代目火影が目覚めた時、息子の貴方がいないと悲しむだろう?」

四方を鏡で閉ざされている。
周囲を見渡しても、己の焦った顔が映り込むだけで、アスマは益々焦燥感を募らせた。


目の前のフードを目深に被った人物は一体何者なのか。
『暁』との戦闘中に割って入ってきた存在であるからには、もしや自分は捕虜として囚われたのか。


人質となったことで木ノ葉に甚大な被害を起きるのであれば、自害するほうがマシだ。
一瞬考えた自決は、しかしながらフードの人物によって遮られた。


「無謀な真似はしないほうがいい。せっかく拾った命だ」

まるで自殺しようとした己の思考を読んだかのような物言いに、アスマの背中に冷や汗がつたう。


親子だと知っている。
木ノ葉の里でも自分と三代目火影が親子だと知りえるのは極一部だ。

聡いシカマルはとっくに知っていたものの、教え子である第十班のいのとチョウジでさえ、親子関係だとは知り得なかった。


「…お前は、『暁』ではないのか…?」

飛段と自分の闘いに割って入ったにもかかわらず、『暁』の二人組からは戦闘を邪魔されたことに関して、何の非難も受けなかった人物。
むしろ飛段の鎌を勝手に奪っても、逆にこの場へ訪れた事を歓迎されていた。

その事を踏まえても『暁』に一目置かれている存在だと言える。
しかしながら、今、自分が生きていることを鑑みると、本当に『暁』の仲間なのか疑問が生じる。


アスマの問いに、フードを目深に被った当の本人は、軽く肩を竦めた。


「俺は何処にも属さない。誰の味方もしない。強いて言うならば、」


かつて九尾に《誰の味方なんだ?誰の為に動いている?》と問われた際に答えたものと同じ返答を繰り返す。だが続けた言葉は九尾とはまた別の返答だった。



「貴方を助けたのは俺の自己満足だ」




得体の知れない相手の返事に、アスマは益々眉間の皺を深めた。


「…ただの勝手で、俺を助けたと?」
「三代目火影には借りがあるからね」


フードの陰間から覗く瞳。
色すらわからないけれど、その双眸が細められたように見受けられた。


「息子の命で返させてもらっても構わないだろう」

空々しく答えるフードの人物に対し、アスマは勢いよく立ち上がった。


「だから何故、火影の…親父の生存を知っている!?これは里の機密事項だぞ!木ノ葉の忍びでさえ一部しか知り得ぬ情報を何故、」


掴みかかろうと手を伸ばす。
しかし、その手はフードの人物の前に割って入ってきた青年によって遮られた。


「近づかないでください」

突っかかろうとするアスマから、フードの人物を守るように、立ちはだかる青年。
お面を被り、表情こそ見えないものの、彼からは得体の知れない存在への敬愛が感じられる。

怯んだアスマはしかし、気を取り直して、果敢に詰問した。


「俺を生かして、どうしようってんだ?」
「なにも」


間髪容れずの返事はとても信じられない。
怪訝な表情で睨み続けるアスマに、フードの人物は苦笑を零した。

本当に何もしないのだが、助けられた本人はそれでは納得しないだろう。
少しばかり思案するかのように唇に人差し指を添えた謎の存在は、やがて視線をアスマから外した。

どこから入り込んだのか。
いつの間にか、アスマの傍を飛んでいる白い蝶に眼を留める。


「だが、まぁ…そうだな。暫く、おとなしく眠っていてもらおうか」
「な、に…」
「貴方の死で得られるものもあるということさ」


実際に死んでもらうわけではないが、死んだと思わされている人々にとってはアスマの死は様々な影響を及ぼすだろう。
特に、教え子であり、実際に目の前で師が(アスマ本人ではないが)死んだ瞬間を目の当たりにしたシカマルなど、どう変化するのか、とても興味深い。



「起きた頃には、悪夢もとうに終わってるさ」



シカマルに本気になってもらう。死を乗り越え、成長してもらう。
その為には…──。





「じゃあ──おやすみ」
「ま、まて…っ」










目の前の得体の知れない存在とお面の青年にだけ警戒していたアスマは、すぐ傍で飛んでいる蝶には気づかなかった。
急激に襲い来る睡魔。


ガクン、と膝が砕け、倒れ伏したアスマを、お面を被った青年が膝をついて確認する。
すっかり寝入っているアスマの様子を認め、青年はお面を外した。

「…流石、ですね」


眠気を催す鱗粉を散らしてアスマを眠らせた白き蝶が、優雅にフードの人物の人差し指へ寄ってゆくのを、青年は──白は感嘆の吐息と共に見守った。
指先に止まった蝶へ、ふっと息を吹きかける。
本来は百合の花弁であった蝶が白の花びらへ戻ってゆくのを見遣ってから、彼はフードを取り払った。

【黒白翩翩 耀従之術(こくびゃくへんぺん ようしょうのじゅつ)】

その術で生んだ蝶によってアスマを強制的に眠らせた本人の素顔が露わになる。
敬愛する主──ナルトの顔を、白は眩しげに見上げた。


「いや。ただ眠らせただけなのだから、大したことはないよ」

今の会話のやり取りも忘れてもらわないと、と肩を竦めたナルトの困り顔が、四方の鏡に映り込んだ。





















まず、再不斬が飛段の鎌に斬りかかったその瞬間から、その場の戦況の流れはナルトによって掌握されていた。
飛段がアスマの血を使って呪いを発動させる前に、【水遁・大瀑布の術】を使う。
あの術は再不斬によって有利なフィールドに置き換えたのだと角都に思われたが、実際は違う。
飛段の足元の血の円陣を消すのが目的だったのだ。

飛段が呪いの準備をするのを邪魔し、時間稼ぎをする。
そして、ナルトが真っ先に飛段とアスマの間に割り込んだのは、飛段の三刃の大鎌を奪うのが目当てだった。


その際、アスマを蹴飛ばしたのも、飛段を助けたわけではない。
視界不良の濃霧へ蹴飛ばすことで霧に紛れて展開していた白の鏡へアスマを捕らえるのが目的だった。

その為に、前以て再不斬に【霧隠れの術】で火ノ国に濃霧を発生させたのである。
更に、霧に潜ませておいたナルトの影分身をアスマに変化させ、本当のアスマと入れ替えさせる。
要するに濃霧は本物のアスマと入れ替わるのを見られない為だ。


次いで、鎌に付着させたアスマの血は、飛段の得物を奪った瞬間に秘かに拭い去っておく。
我愛羅の砂でさえ綺麗に取り去った術だ。【疾風沐雨(しっぷうもくう)】の術の前では血など微塵も残さない。


そして別の血を──白がよく囮用などに使う兎の血を代わりに付着させておいたのだ。


その上、飛段の呪いでアスマに化けている影分身が同じ傷を負ったのも、秘かにナルトが幻術をかけていたに他ならない。
飛段の隣で腕を組みながら、あたかも飛段の術が効いてアスマが傷を負っているように幻術で見せかけていただけだ。

つまり、飛段はアスマではなく、兎の命を刈り取ったに過ぎない。



アスマに化けた影分身が死んだように見せかけるのも、ナルトにとっては些細なものだ。
なんせ、かつて波の国でも、己の影分身を変化させることで、再不斬と白の死を偽造したくらいである。カカシの写輪眼をも騙した技術がそう易々と看破されることはない。

そして再不斬にわざわざ首切り包丁を投げつけさせたのも、ナルトの計算のうちだ。
わざと木ノ葉へ連行させるには、武器は手元にないほうが警戒されにくい。
また『暁』と敵対している姿を見せることで、再不斬に対する木ノ葉の忍びの不信感をも薄めるのも目的のひとつであった。


木ノ葉の忍びの味方をしていると見せかけ、首切り包丁を引き離すことでスムーズに連行されるよう、仕向けた本人は飛段と角都をうまく言い包め、(飛段は散々、ナルトから離れるのを渋っていたが)不死コンビと別れる。
そして、飛段・角都と立ち去った後で無事に拘束され、木ノ葉の里へ連行された再不斬を認めると、すぐさま白と合流したのである。



アスマを吸い込んだ白の鏡の術中へと。


白自身が鏡の中を移動できるならば、他の対象を鏡に閉じ込めることも可能だろう、と白が編み出した術。いわば、鏡の中の結界である。

つまり此処は四方を鏡で囲まれているのではなく、元々、鏡の中の空間なのだ。


此処へ入れるのは、術者である白と白が認めた相手であるナルト、そして囚われている対象だけである。

呪いで死なせた兎を悲しむどころか鍋にするという、見た目に反して豪胆な白の返答に苦笑しつつ、囚われの対象であるアスマを確認する。
飛段の呪いで死んだように見せかけたアスマを、ナルトは改めて見下ろした。


飛段の血の円陣を崩して、アスマを助けることも可能だったが、ナルトはあえてそうしなかった。
飛段の能力をシカマルに認識させ、分析させる為である。
師の死が無ければ本気で『暁』と戦おうという姿勢を取らないだろうという考えだ。




その為に、アスマを利用する。
相変わらず自分勝手で自己満足な己に自嘲しながら、ナルトは、白き蝶の鱗粉を吸って眠らせた三代目火影の息子を眺めた。


「さて、」

眠ったアスマから視線を外し、ナルトは白の術である鏡の結界から抜け出した。
薄れゆく霧の彼方を見遣る。

霧隠れの術の効果が無くなり、晴れゆく火ノ国。
再不斬が今、囚われの身となっている木ノ葉の里がある方角を、ナルトは双眸を細めて見遣った。



「トロイの木馬は上手くやっているかな?」


























ぺっ、と吐き出した唾。
血が雑じったソレを踏み躙りながら、再不斬は自分を殴った相手を、へっと嗤う。

「木ノ葉の恩人に対して、ひでぇ仕打ちだな、おい」


木ノ葉隠れ暗部の拷問・尋問部隊隊長。再不斬以上の強面である森乃イビキは、殴った己の拳を軽く振った。


「恩人だからこそ、この程度で済んでいるのだ。そこが判らぬ鬼人ではあるまい?」


イビキの言葉に、再不斬はふん、と鼻で嗤う。
確かに拷問と尋問のエキスパートである男ならば、遥かに容赦のない拷問術で追い詰めるだろう。


カカシに拘束され、木ノ葉の里に連行された再不斬は今や、牢に閉じ込められ、拘束具で動きを封じられていた。
身動きできぬ我が身を見下ろして、鬼人は軽く肩を竦める。



「それじゃ、優しい優しい拷問部隊隊長様は水くらい飲ませてくれるんだろーなァ?」


わざとらしい言い草で嗤う再不斬に、イビキの額にピキリと青筋が立てられる。
それでも忍耐強く怒りを抑え、部下に水を持ってこさせようとしたイビキだが、「あー違う違う」とすぐさま再不斬に遮られて、再度、青筋を立てた。


「なんだ!?」
「水なら持ってるんでな。ソレを飲ませろよ」

再不斬の視線の先を追い駆けたイビキの顔が益々険しくなる。
拘束した際に身体検査は重々したはずなのに、再不斬の腰には水筒のようなモノがちゃぷん、と揺れていた。


「こんな得体の知れないモノなんざ飲ませられるか!」

まだ隠し持っていたのか、と憤慨しながらイビキは水筒を引っ手繰る。
中身が毒であれば、自害してしまう可能性もある。そうなれば、元も子もない。


囚われの身でありながら飄々とした再不斬の態度に苛立ちながら、イビキは水筒を外へ放り出した。


鬱蒼と生い茂る叢。其処へ水筒の中身が撒き散らされる。
水筒の中の液体が茂みへ降り注がれる様子を、再不斬は「あ~あ」と横目で眺めた。
























しかしながらその口振りは、ちっとも残念そうではなかった。


(知れねぇぞ、どうなっても)
 
 

 
後書き
わかりくにいですが、白は抜け忍のお面を被ってるので顔はアスマに見られてません。
でも顔を面で隠していても、やっぱり美形だとわかってしまう…顔がわからなくても美しさは隠せない白、マジすごい…

 
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