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ワイルド突っ込み

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第三章

「もうほんまにな」
「身体張ってたな」
「そやったな」
「あの頃の人等はな」
 名のある漫才師達はとだ、静は強い声で言った。
「確かにな」
「身体張ってな」
「めっちゃおもろい漫才やってたら」
「それで全力で笑わせる」
「お客さんをな」
「その気迫があった、それでや」
 或人も強い声で言った。
「俺等もや」
「身体張っていくんやな」
「そやから突っ込みもや」
「もう痛いのでか」
「やるんや、思いきりや」
 それこそというのだ。
「やるんや、勿論稽古の時もな」
「今もやな」
「全力や、お笑いでのし上がってな」
「売れっ子になって」
「名を残す、そうなるには」
 まさにというのだ。
「身体を張るんや」
「そうすべきやな」
「そういうことや、そやから自分もな」
「痛いのでええな」
「そや、俺も受ける」
 その全力の突っ込みをというのだ。
「そやからな」
「うちもやな」
「やるんや、ええな」
「ほなな」
 静も頷いた、そうしてまた稽古を再開するが。
 ある日或人は電車の中で痴漢に間違えられた、幸い濡れ衣であったがこのことはすぐにネットでも話題になったが。
 ここでだ、彼は静に言った。
「これネタにするで」
「おい、それ辛いやろ」
 静は或人にすぐに言った。
「自分が」
「ああ、痴漢に間違えられてな」
「自分めっちゃへこんでたやろ」
「正直な、しかしな」
「そのへこんだことをか」
「ネタにしてや」
 そしてというのだ。
「漫才やるんや」
「そこでうちも突っ込み入れるんやな」
「ハリセンでもドロップキックでもな」 
 そうしたものを繰り出してもというのだ。
「やるんや、ええな」
「ほんまにそれでええんやな」
「ええ、お笑いは人の不幸をネタにするよりもな」
「自分の不幸か」
「それを使うもんやろ」
「それはな」
 実際にとだ、静も頷いた。
「あるな」
「そやろ、もうな」
「全力でやな」
「そや、今回のこともな」
 痴漢に間違えられたこのこともというのだ。
「ネタにする、それで自分もな」
「思いきりやな」
「やって来い、ええな」
「よし、そこまで言うんやったらな」
「全力でやるんや」  
 その突っ込みをというのだ、こう話してだった。 
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