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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第一節 救出 第五話(通算85話)

 
前書き
アストナージは語る。
モビルスーツの性能が絶対的な戦力ではないと。
アムロは性能を引き出した。
だからこその戦果なのだと。
その思いを受けて出撃するカミーユ、君は刻の涙を見る―― 

 
 エマのG01にカミーユのG03が続く。漆黒の宇宙に飛ぶ、二つの紺碧の機体は、闇色に染められて互いの機体すら視認できない。辛うじて噴き出されるスラスター光と敵味方識別信号だけが頼りであった。

 エマは舌を巻いていた。カミーユの操縦技術は予想を遥かに超え、まるでエマの思考をトレースしたかのような動きをしていたからだ。

「なんて子なの……!」

 エマとてティターンズに選ばれたエリートである自負があった。だが、明らかにカミーユは自分の上を行っていると思える。まだ軍に入って間もない新兵であるにも関わらず、だ。それはまるで、話に聞くニュータイプのようだった。

「まるで……?」

 口を衝いて出た言葉に驚きを隠せない。

 ニュータイプ。

 人の革新による認識力の拡大による物事を正確に理解し合える人々。ジオン・ズム・ダイクンが語った人類の次なる進化はその姿ではなく、精神にあるとされている。その存在はダイクンの忌んだ戦争の最中に、唐突に現れた。認識力を洞察力として発現し、恐るべき兵器の扱い手となり、連邦とジオン双方にエースとして燦然たる戦果を築いた。エマはそのニュータイプと呼ばれた人間に会ったことがある。戦場ではなく、連邦軍士官学校の研修でのことだ。

 カミーユから感じる肌を刺すような感覚――プレッシャーとか殺気のようなものは、その人物からは感じなかった。そう、シャイアンの空軍基地で会ったアムロ・レイはエマにとって普通の人――ジオン・ダイクンのいうオールドタイプと変わりがなかった。

「だからといって……」

 否定する気はない。

 アムロ・レイとカミーユ・ビダンは違う人間であり、仮に二人ともニュータイプだったとしても、全く同じであると思うのは間違いではないか。同じ親から生まれた兄弟ですら違う人生を歩む。他人であるならなおさらだ。エマの見るところ、アムロ・レイは内向的であり、カミーユ・ビダンは外向的である。性格も違うのだから、発現の仕方が違っても不思議はない。自分が感じたことは感じたままでいい。否定からはなにも生まれない。

 それに今はそれどころではなかった。優先すべきは救出作戦である。頭を振って思考の迷宮を追い出して、コンソールのカウントダウンタイマーを見た。

「十五、十四……九、八、七……零!」

 作戦スタートだ。

 右手の甲についているマルチプルランチャーから発光弾を打ち上げ、スロットルペダルを目一杯踏み込む。ムーバブルフレームを通じてバックバックに備わる四基のメインスラスターがエマの挙動に合わせて全開になった。

 エマの上げた発光信号が赤から青に変わる。赤は撤退信号だ。規則的に明滅し、《アレキサンドリア》に自分の帰艦を知らせる。青は、《ガンダム》再奪取成功を報せる合図である。この二つの信号に呼応して、《アレキサンドリア》から応援が来る手筈になっていた。それを逆手に取った《アーガマ》艦載機による擬態の追撃も始まる。仲間を騙さねばならぬ苦さが、エマの口の中に広がった。

「行くわよ……カミーユ・ビダン」

 聞こえる筈のない相手にそう言い切る。

 作戦で予定された通り、無軌道に機体を動かす。だが、カミーユの位置は後方四時十キロメートルから変わらなかった。つまり、ほぼ同じ軌道を同じ加速で動いているということになる。予定された行動とはいえ、プログラムではない手動の操縦で、だ。おいそれと出来ることではなかった。だが、今はカミーユの技術が高いことは作戦の成功確率を上げてくれるのだから歓迎すべきことだ。

「追撃隊は?……来た」

 後方三○キロメートルほど離れた《アーガマ》から続々と発進するMSを光学カメラが捉える。打ち合わせ通りだ。機数は三、《リック・ディアス》のみの一個小隊である。

「応援部隊は、まだね」

 待機しているターナト小隊がスクランブル発進するまで一分と掛からない。それに加え《アーガマ》は航宙母艦らしく船足は遅い。重巡航艦とはいえ《アレキサンドリア》の最大戦速なら追い付ける。カタパルトから射出されたMSならば、このぐらいの相対距離なら、到着まで二分以内の距離である。

 機体の周囲に集束したビーム光が放たれた。有効射程外のアポリー隊から放たれたビームライフルの弾条である。牽制弾だ。そもそも命中させることが困難なMS戦での擬態であるから派手に撃ち放していた。

「いい腕ね」

 アポリーを称賛しつつ、エマはクワトロ・バジーナの動きがみたいと思った。コロニー内という難しい環境でたやすく――いや、瞬く間にというべきか、迎撃に出たコロニー防衛隊のMSを撃墜し、《ガンダム》を奪取した手際の良さは、戦慄を覚える。敵にすれば自分が敵わない相手だ、ならば、少しでも見ておきたかった。無論、生き残るために、である。

 中らないように配慮された攻撃では、バレる可能性もあるため、アポリー以外のパイロットに作戦は秘匿されている。カミーユにも不本意ながらひと芝居打たせた。

 相対距離を睨みながら操縦桿を握る。

 作戦をより確かなものにするには、被弾の一つでもした方がいいかもしれないなどと考えながら、《アレキサンドリア》を目指して機体を急がせた。 
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