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歪んだ世界の中で

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第九話 決意を述べてその十

「それでもね」
「それでも?」
「今は違うよ」
 こう言えたのだった。世界が広くなったからこそ。
「本当にね。そうだよ」
「そうですね。今の遠井君の世界は」
「学校と家だけじゃないから」
 自分からだ。希望はまた言った。
「他にもね」
「僕も家もありますし」
「千春ちゃんもいるから」
 だからだ。余計にだというのだ。
「もう辛くはないよ。それにね」
「家はもうですね」
「本当にね。出るよ」
 そうするとだ。出るとだ。希望は言い切った。
「もうあの家には何も未練もないし」
「ですか」
「いても嫌な気分になるだけだし」
「そうですね。あのお二人ですと」
 真人も希望の両親のことは知っていた。それでだ。
 目を伏せさせてそれからだ。希望に言ったのである。
「そうなっても当然ですね」
「だからもう出たいんだ」
 かなり切実な顔でだ。希望は真人に話した。
「親と一緒にいたくないんだ」
「暖かくない場所からは」
「寒いのはもう嫌だよ」
 希望の家はそうだというのだ。夏であっても。
「寒くて冷たい場所はもう出て」
「暖かい場所に」
「そう、いたいから」
「では家を出られる為にも」
「勉強頑張るよ」
 結果を出してだ。その結果を突きつけて家を出る為にだった。
「その為にもね。それで」
「それで、ですか」
「家を出ても。それからもね」
「勉強の方はですね」
「頑張るよ。もう二度と誰にも馬鹿って言わせないよ」
「そうしますか。では」
 真人は微笑みだ。こう希望に言って励ましたのだった。
「頑張って下さいね」
「有り難う。それにしても」
「それにしてもとは?」
「友井君はいつも僕の味方でいてくれるけれど」
 このことについてだ。希望は言ったのだった。今度は。
「それはどうしてかな」
「いつも遠井君にいいことを言ってはいませんよ」
「そうなのかな」
「はい。遠井君が間違っていれば」
 その時はだというのだ。
「僕は注意していますよ」
「そうしているかな」
「ずっとそうしていましたけれど」
「そうだったかな」
「近頃は。遠井君は間違っていないので」
「だからなんだ」
「注意はしていなかったんですよ」
 そうしていたというのだ。今の希望は。
 そしてそのうえでだ。彼は言ったのだった。
「悪いことはしていないので」
「だからだったんだね」
「そのことは気付かれてなかったですか」
「いや、言われてみれば中学までは」
「そうでしたね。僕は遠井君に注意することもありましたね」
「厳しいことも言ってくれたよね」
「遠井君も僕にそうしてくれていましたし」
 このことはお互いのことだった。希望もまた真人に注意することがあったのだ。だがそれは中学の卒業まででだ。高校に入学してからは。 
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