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歪んだ世界の中で

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第八話 友情もその十二

 真人は微笑んでだ。希望にこうも言ったのだった。
「また。少ししたら」
「二学期の予習をしてだね」
「はい、勉強も出来る様になって」
「そうしてでだね」
「もっと幸せになりましょう」
「幸せになれることは色々なんだ」
「そうです。勉強が出来れば嬉しくなりますから」
 嬉しさ、それもだった。
「ですから今はです」
「勉強しようね」
「はい。ただ遠井君は」
「僕は?」
「かなりわかるようになってますね」
 勉強がだ。そうなってきているというのだ。
「前とは全く別人みたいですよ」
「えっ、そうかな」
「そうです。学力があがってますね」
「だったらいいけれどね」
「とてもいいと思います。ご自身でも予習をされてるんですか」
 真人がこう問うとだ。希望はだ。
 少し微笑んでからだ。彼にこの言葉で答えたのだった。
「復習もしてるよ」
「それもですか」
「しかもね。中学校の頃から少し」
「そこからですか」
「うん、一年の頃からね」
「それで予習もですか」
「両方しているんだ」
 それをだ。毎日しているというのだ。
「それでいいよね」
「とてもいいと思います。そうですか、本当に勉強されているんですね」
「そんな気持ちなんだ」
 勉強しておきたい、そう考えているというのだ。
「だからね。このままね」
「勉強していって二学期を迎えて」
「頑張るよ」
「是非そうして下さい」
「それでだけれど」
 頑張ると言ってからだ。そのうえでだ。
 希望は切実な顔になってだ。そしてこう真人に言ったのだった。
「若しね。二学期の中間テストの成績がよければ」
「どうされますか」
「うん。家を出ようと思うんだ」
 真人にだ。はっきりと言ったのだった。
「そうしようってね」
「今住んでおられるお家からですか」
「そうしようって思ってるんだ」
 切実な顔になりだ。希望は真人に今話したのである。
「あの家からね」
「そうされるおつもりですか」
「もうね。あの家に愛着はないから」
 だからだとだ。希望は寂しい目になりやや俯いて述べた。夏の後半に差し掛かったその日差しを縁側で受けながらだ。彼は真人に対して言った。
「もうね」
「ご家族にはですね」
「そうなんだ。最初からだけれど」
「ご両親は。遠井君のご両親は」
「友井君も知ってるよね」
「今もですからね」
「仲が悪いままだよ」
 夫婦喧嘩が絶えない。そうした家だというのだ。
「それにね。喧嘩しないと」
「遠井君に矛先を向けてきて」
「勉強しろって言うか罵ってくるか」
「そんなことばかりですね」
「だからね。もうね」
 その俯いた顔でだ。希望は言うのだった。
「あの家にはいたくないんだ」
「そのお気持ちはわかります」
 真人もだ。希望と同じく俯いた顔になってそのうえで答えた。
「あのご家族では。ですが」
「それでもなんだ」
「一人暮らしは寂しいですよ」
 真人は顔をあげた。そのうえでだ。
 希望のまだ俯いている顔を見てだ。そうして言ったのである。 
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