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地下鉄で寝ている猫

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第二章

「お陰で、です」
「連絡は受けましたが」
「この子の飼い主でして」
 その猫を見せながらパトリックに話した。
「家の窓を開けましたら」
「その時にですか」
「脱走しまして」 
 それでというのだ。
「ずっとです」
「探しておられたんですね」
「はい」
 そうだったというのだ。
「本当に」
「そうでしたか」
「貴方がフェイスブックで紹介してくれて」 
 それでというのだ。
「情報が広まって私のツイッターに知らせてくれる人がいまして」
「それで、ですか」
「私もツイッターで捜索依頼を出していて」
 そしてというのだ。
「他のセンターでしたが」
「お願いしていましたか」
「見付かりましたら」
 その時にというのだ。
「そうでしたが」
「そうですか」
「はい、本当にです」
 こうパトリックに言うのだった。
「貴方のお陰です」
「いえ、私もです」
 パトリックはハインツの感謝の言葉にこう返した。
「別に」
「別に?」
「大したことはしていないです」
 そのつもりはないというのは本音である。
「ですから」
「それで、ですか」
「礼には及びません」
 こうハインツに答えた。
「そう考えています」
「そうなのですか」
「彼がどうして地下鉄に乗ったか」
 ハインツは猫も連れていた、何でもスコティッシュフォールドの雄で名前はダーヴィットというらしい。
 その猫を見つつだ、パトリックはハインツに話した。
「神がです」
「そうさせました」
「この子をそう導かれたのでしょう」
「そうですか」
「はい、そして」
 そのうえでというのだ。
「それを私がです」
「フェイスブックに掲載されて」
「今に至ったのです」
「全ては神の思し召しですか」
「そうかと。ですから感謝されるなら」
「神にですね」
「そうされて下さい」 
 こう言うのだった。
「感謝されるなら」
「そうですか、ですがお礼はです」
 これはとだ、ハインツは言うのだった。
「させて下さい」
「それはですか」
「はい、どうか」
「そこまで言われるなら」
「ダーヴィットもな」
 ハインツはその猫にも声をかけた。
「お礼を言うんだぞ」
「ニャア」
 運ぶケースから出されてそうしてハインツの膝の上にいた猫も鳴いた、それもパトリックを見てだった。
 ハインツはお礼を言ってからだった、それから。
 パトリックと彼の妻にお礼の品も渡してそうして家を後にした、そしてその後でだった。
 パトリックは妻にだ、笑顔で言った。
「あの子が飼い主さんのところに戻れてよかったよ」
「そうね」
「僕はそれだけで満足だよ」
 こう言うのだった、そして二人で夕食を食べた。普段通りの肉料理もジャガイモもビールも今日は普段以上に美味しく感じた。


地下鉄で寝ている猫   完


                 2021・3・20 
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