Fate/WizarDragonknight
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心象変化
響はツインテールの手を振り払い、はぐれたのを装ってバーベキュー場へ駆け戻る。
心配そうな声をかけてくれるツインテールに感謝と謝罪を心の中でしながら、響は唄った。
『Balwisyall nescell gungnir tron』
歌とともに、響は森でジャンプ。木々を飛び越え、バングレイが踏み荒らしたキャンプ場に跳び入った。
「コウスケさん!」
見れば、コウスケが変身したビーストとバングレイの戦いが続いていた。ビーストが荒々しくバングレイに斬りつけており、バングレイもそれに対応し、周辺の河原がどんどん傷ついていく。
「うおおおおおお!」
響は唇を噛み、バングレイへ拳を叩きつけた。バングレイはビーストを蹴り飛ばして回避。響の着弾地点にクレーターができる。
「お前……こいつは面白れぇ!」
バングレイは四つの目を光らせる。
「ベルセルクの剣じゃねえか! まさかただの昼飯でお前に会えるたあ、バリラッキー!」
バングレイがビーストから響へ攻撃対象を切り替えた。
「うわっ! 今度はこっちに来た!」
「ちょっと退いてろ!」
すると、ビーストが響を突き飛ばす。右手に付けた指輪を、ベルトの右ソケットに差し込んだ。
『バッファ ゴーッ バッファ バッバ ババババッファー』
「男の対決は、まだ終わってねえ!」
ビーストの右肩に、牛の頭部のオブジェと、そこから生えるマントが出現する。ビーストはマントを揺らし、牛を頭にバングレイへ突進した。
「ぐっ!」
その破壊力で、バングレイは河原を大きく削り、転がった。
「全く、この星はバリ面白ろいぜ。オーパーツ目当てで来てみりゃ、聖杯戦争だの珍しい獲物だの。本当になあ?」
バングレイはそのまま、ビーストと斬り合う。先ほどは不意打ちで優位に立てたものの、バングレイの力量はビーストのそれよりも上回っており、徐々に旗色が悪くなっていた。
「コウスケさん!」
響もビーストに加勢する。二体一の状況にも関わらず、バングレイは全く劣勢ではなかった。
やがてバングレイのバリブレイドが、響の剛腕を破り、その体にダメージを与える。
「うわっ!」
バーベキュー場まで投げ飛ばされた響は、そのまま機材を破壊して止まった。
「響!」
ビーストがこちらの心配をしている。だが、それでバングレイから目を離した隙に、バングレイに頭を掴まれてしまった。
「もらいいいい!」
「コウスケさん!」
このまま決め技が来る。そう危惧した響は、ビーストのもとへ急ぐ。
だが、意外にもバングレイは、すぐにビーストを解放した。投げられたビーストの体を受け止めた響は、そのままバングレイを睨む。
「へえ……いい記憶じゃねえの」
バングレイがそう言いながら右手を見下ろしている。
響はビーストを助け起こしながら、バングレイを警戒する。
「コウスケさん、大丈夫?」
「あ、あれ? 大丈夫だ」
ビーストは自分の体を見下ろしている。ペタペタと触って、異常がないことを確認している。
「ああ。なんともねえ。あいつ、攻撃ミスったのか?」
「……」
響はバングレイを警戒しながら、再び地面を蹴る。ガングニールの強化された瞬発力で、一気にバングレイとの距離を詰める。
「だああああああ!」
だが、響の拳は、バングレイの達人と見紛う動きにより回避される。それどころか、響の頭にまで、バングレイの腕が伸びる。
「うわっ!」
バングレイに捕まれ、適当に投げられる。
着地した響は、そのままバングレイを警戒した。
「なるほどねえ。コイツもバリ面白れぇ記憶だ」
「何を言っているの……?」
「こういうことだ!」
バングレイは右手を掲げた。すると、そこから水色の粒子が散布され、人の形を作っていく。それを見た響とビーストは絶句した。
その反応はまさにバングレイの期待通りだったようで、四つの目が笑みを含んでいる。
「そうそう、そういう顔が見たかったんだよ」
それは、以前見滝原を恐怖に落とした聖杯戦争の参加者。
黒く、長い髪と赤い目の女性と、大きく歪められた指輪の魔法使い。
アカメとアナザーウィザード。
「あの二人……!」
「この前戦った奴らだよな? まさかアイツ、蘇らせたっていうのか?」
その時、響は前回博物館の戦いの後、ハルトと話したことを思い出した。
あの時もハルトは、以前倒したファントムが現れたと言っていた。
そして響は、その結論を口にする。
「記憶の再生……」
バングレイの答えは、ニヤリと笑む表情だった。それを響が肯定と受け取ったと同時に、バングレイは命令を下す。
「殺れ!」
それに従い、アカメとアナザーウィザードは同時に響たちに襲い掛かる。
「からくりの分析は後だ! 今は、こいつ等をなんとかしねえと!」
「う、うん!」
ビーストはアナザーウィザードを、響はアカメと戦闘に入る。
以前少しだけ関わったときと比べて、少し力量は落ちている。だが、それでも彼女の力が脅威であることに変わりはない。
素早いその動きに、響は反撃ができないでいた。
___カラダ、ヨコセ___
「うっ!」
途端に、響は、心臓部分をおさえる。頭の中に響く何者かの声に、平常心が乱されてしまった。そのせいでアカメから目を離し、ガングニールの拳で防ぐことになった。
「しまった……!」
アカメの剣は、以前見たのと同じようにとても鋭いものだった。
決して低くはない響の動体視力を上回る動き。そして、少しでも傷付けば即死に至るという危機感が、響の体をより鈍らせていた。
「危ない!」
ぎりぎりのところで白羽取り。だが、アカメの力はやはり強く。徐々に響は押されていく。
そして、アカメはこれまでこのような事態は何度もあったのだろう。村雨の刀身を斜めにし、白羽どりのパワーバランスを崩した。あっという間に村雨を自由にしたアカメは、そのままその刃で響を襲った。
「危ない!」
響は起き上がり、バク転で妖刀から避ける。だが、足場の悪い河原のせいでバランスを崩した。
「しまった……!」
そして、妖刀村雨が響の肩の、ほんの皮一枚を切る。
「っ!」
それが致死だと、すでに記憶が訴えていた。
右肩より、村雨の呪いが発動する。響の命をほんの一瞬で奪える呪詛が、一気に全身に駆け巡る。
「そんな……」
息苦しくなる。全身が麻痺していく。崩れた体から、だんだん力が抜けていく。
「こんなところで……未来……」
今にも心臓が止まろうとしている、その時。
___カラダ。ヨコセ!___
「うおおおおおおおおおおお!」
突如、冬の空に落雷が起こった。
冬に滅多に発生しない見滝原においての落雷は、真っすぐ響へ落ちる。雷はそのまま呪詛を打ち消しながら、響のガングニールをどんどん作り変えていく。
ガングニールはやがて、その形状を甲冑のそれへ変えていく。黄色の部分は全て銀色となり、その兜には雷を模った立物が付けられている。
響の目元はゴーグルで覆われ、その下の瞳には意識はなかった。だが、再び襲ってきたアカメが降り降ろそうとした村雨を弾いた雷の剣は、明らかに達人の動きのそれだった。
白銀の柄と、雷が固まったような剣。それを振るい、響はアカメを大きく後退させる。それはそのまま、アナザーウィザードを巻き込み、川に落とした。
「……響?」
こちらを唖然と見守るビーストにも目もくれず、響はゆっくりとアカメたちへ歩み寄る。
そして剣の射程範囲内に来たところで、雷の剣を構える。
___どこかで、雷鳴がとどろいた___
そして、その口を動かした。
___我流・超雷電大剣___
右に一薙ぎ。左に一薙ぎ。トドメに振りかぶって、雷鳴とともに振り下ろす。それに伴って発生した落雷が、川ごとアカメとアナザーウィザードを蒸発させた。
「……! これは……」
その時、響の意識が戻った。周囲を見渡し、ビーストとバングレイ、そして自らが消滅させた川と二体の敵の姿に驚く。
「これって……どうなってるの? この姿……もしかして、心象変化?」
「は、はは! ハハハハハハハ!」
響が戸惑っている間にも、バングレイが笑い声をあげていた。
「すげえ! コイツはすげえ! バリすげえ! これがベルセルクの……オーパーツの力か!」
バングレイはバリブレイドをバンバンと叩く。
「あの力の一端でこれか! これが全部手に入れば、一体どれだけの力が手に入るんだ!?」
バングレイはもう響しか目に入っていない。襲い掛かろうとするバングレイに身構えると、頭の中にその名前が浮かんだ。
___サンダースラッシュ___
頭の中の声に従い、響は手短に雷の剣を振り下ろす。すると、発生した衝撃が雷となり、バングレイへ真っすぐ飛んでいく。
「ぎゃっ!」
命中したバングレイは、悲鳴とともに焼き焦がされる。青いボディよりも黒ずんだ方が多くなった状態で、バングレイは膝を折る。
「へ、へへ……やるじゃねえか。これから狩る力を思えばむしろ好ましいぜ!」
バングレイは左手の鎌を使って立ち直った。
「さあて、どうやって狩るかな……ん?」
再び挑もうとするバングレイは、何かの異変に気付き、動きを止めた。
自然という静寂の中、それは現れた。
「……何だ?」
「羽根?」
白く清廉なる羽根。まるで白い鳥が飛び去った後のように、白い羽根がどこからともなく降り注いでくる。それはゆっくりと響とビーストの周囲に落ちていく。
「何、これ……?」
響の手のひらに乗る、重さのない物体。優しい気配のそれは、次から次へとその姿を現していく。
「おい、響。なんか、これ怪しくねえか?」
「うん。私もなんか……嫌な予感……」
響がそう言った瞬間、それは現実となった。
触れる羽根たちが痛みを放つ。響とビーストの全身から火花が散る。痛みで地面を転がってから初めて、それが羽根によって受けたダメージだと分かった。
「何、これ!?」
「オレが分かるわけねえだろ!」
「何だ、もう戻ってきやがったか」
ただ一人、バングレイだけが愉悦の表情を浮かべている。
「俺のサーヴァントが……!」
「バングレイの……サーヴァント……!」
天空より降臨した、神々しい光。太陽よりゆっくりと、それはバングレイとの間に着地した。
「フフフ……」
後光により見えなくなっていた姿が、だんだんはっきりしてくる。黒いボディと、全身に走る青い血管。胸に金色のパーツが取り付けられており、より神々しさを際立たせている。そして何より、その背中から生える四本の翼が、それをあたかも天使のように見立てさせていた。
「バングレイ。中々に面白い世界だったぞ」
舞い降りた天使は、響たちを無視してそう報告した。バングレイは「ハッ」と頷いた。
「バリいい世界だぜ。食い物はうめえし、生き物はいたぶりがいもあるし」
「悪趣味なマスターだ」
天使は鼻を鳴らし、ようやく響とビーストに向き直った。彼はしばらく響たちを睨み、結論付けた。
「彼らが、以前貴様が言っていた聖杯戦争の敵か?」
「みたいだぜ? おまけに一人は、前に言った俺の目的の物も持っていやがる。お前も狩るか?」
バングレイの言葉に、天使は目を細めた。
「私に命令したいのであれば、令呪を使え。それはそのためのものだ」
「はっ! それもそうだな。だったら……」
バングレイは右手の令呪を見せる。だが、しばらく天使を見つめた彼は「いや」と切り出す。
「やっぱりこいつらは俺の獲物だ。俺が狩るぜ」
バングレイは令呪の手でバリブレイドを握る。前に出ようとしたところで、天使が彼の肩を掴んだ。
「まあ待て。そう結論を急ぐこともない」
天使はゆっくりと響とビーストを見定める。
「どうだろう。もう少し、この狩場を観察した方が良くないか?」
「はあ?」
天使の言葉にバングレイは反対した。
「何でだよ? 今狩る方がバリ面白いのによお?」
「今狩ってしまってもいいのか? ベルセルクを狩る楽しみがなくなるぞ?」
天使の発言に、バングレイは「むう……」と自制した。
「確かにな。ベルセルクの力を、今度はしっかりと狩るのもまた面白そうだ」
「そう。それに、貴様の目的はあれそのものではないのだろう?」
「それもそうだな」
バングレイは頷き、響とビーストへ剣を向ける。
「いいぜ。ベルセルクの剣は、今はお前に預けておいてやる。せいぜい使いこなしてから、俺を楽しませるんだな」
「ま、待って!」
そのまま響に背を向けて去ろうとするバングレイ。彼を追おうとするも、全身が重く、変身が解除されてしまった。
生身のまま倒れ込み、ビーストに抱えられる。変身解除したコウスケが、バングレイに続いて去ろうとする天使へ怒鳴った。
「おい! お前ら、一体なんなんだ!? 響のあの力を欲しがってるみてえだけど、何が目的なんだ!?」
「私はただ、サーヴァントとしてマスターに従っているだけだ。目的など、私にはない」
天使は吐き捨てる。
「何しろ私はマスターには忠実なる僕なのだからな。貴様たちの価値など、もはやマスターの狩りの対象になることしかない」
「んだと!?」
「狩りって……」
響は重い首を上げた。
「どうして……? 貴方たちが何者でも、私たちには互いに通じる言葉がある! どうして、相手を狩りの目線でしか見れないの? 手を取り合うことだってできるはずだよ!」
「笑止」
手を取り合うという言葉に、天使はせせら笑った。
「そんなものなど、この世界では何の役にも立たん。聖杯戦争という星の中で塵となるがいい。ランサー」
天使は腕を響たちに向ける。すると、そこから青白い電光が発射され、河原を無差別に破壊した。
煙が消えたころには、もうバングレイも天使もいなくなっていた。
虚空の中、最後に天使の声が響いた。
「ベルセルクの剣を持つものよ。いずれ貴様とはまた会うことになるだろう」
「待ちやがれ!」
ビーストの叫びもむなしく、声は続く。
「どうやら私は、特別なサーヴァントらしい。本来は存在せぬクラス、エンジェル。それがこの私に割り当てられたクラスだ。以後、覚えておくがいい」
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