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バレンタインドッグ

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第一章

                バレンタインドッグ
 犬にカカオは厳禁である。国崎洋介もこのことは知っている。だから家で家族でもあるふわりダークブラウンの毛でティーカップかタイニーでもかなり小型と言っていい足の短いドワーフタイプの雌のトイプードルを見ても両親に言った。
「やっぱりふわりからチョコは貰えないよな」
「貰える筈がないだろ」
 父の文太がすぐに言ってきた。
「犬はチョコを持っているか」
「持ってないよな」
「チョコレートは毒だからな」
 カカオだからに他ならない。
「それは絶対にないからな」
「やっぱりそうだよな」
「お前も彼女いるだろ」
「くれるって言ってるさ」
「さらいいだろ、だったらな」
「彼女から貰ってか」
「あと職場のバイトの娘からもな」
 洋介の職場はラーメン屋だ、チェーン店であり彼はそこで社員それも調理担当として日々仕事に励んでいる。ラーメンの腕には定評がある。
「貰えるだろ」
「義理でな」
「だったらな」
「それでか」
「いいだろ、じゃあな」
「ああ、ふわりからのチョコはか」
「そんなもの考えるな、ふわりも訳がわかってないぞ」
 ふわりを見ても言った、ふわりはケージから出ていて部屋の中で自分のおもちゃで遊んでいる。決まった時間に自分からケージを出て戻るのでケージの扉はいつも開かれている。
「そうだろ」
「というか俺達の話聞いてるか?」
「聞いてるよな」
「ワン」 
 父の言葉に顔を向けて鳴いて応えた、だがそれだけで洋介もわかった。
「聞いてもわかってないんだな」
「ああ、人の話は聞く娘だろ」
「それでも反応示さないってことはな」
「チョコレートって言ってもわからないんだ」
「そうだよな」
「だからな」
 それでというのだ。
「このことは考えるな」
「考えても仕方ないか」
「犬にチョコレートは無縁だ」
「それでバレンタインともか」
「だからな」
 それでというのだ。
「人間の女の子から貰えるならな」
「それでいいか」
「ああ、そういうことでな。俺も母さんから貰ってな」
 妻の由里子からというのだ。
「それで職場でな」
「女の人から義理をか」
「貰うからな」 
 だからだというのだ。
「それでいいだろ、そりゃもててな」
「山程貰えたらか」
「男冥利に尽きるけれどな」
「まあそれは夢だな」
「ああ、現実を見てだ」
 そうしてというのだ。
「チョコのことも考えろ、もっと言えば貰えるだけだ」
「いいか」
「そうだろ」
「そう言われるとな」
 洋介は父のダイレクトな言葉に応えた。
「その通りだな」
「そうだな、じゃあな」
「それならか」
「貰って来い」
「ふわりちょっと来て」
 ここで妻、洋介から見て母の由里子が遊んでいるふわりに声をかけた。 
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