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歪んだ世界の中で

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第七話 洋館の中でその三

「ええとね」
「どうしたの?」
「お庭だけれど」
 その夏の草木や花が集ったその庭にいながら言ったのである。
「もっと先に進まない?」
「お庭の中に?」
「そう。そうしない?」
 こう千春に言ったのである。
「お池もあるしね。そこにね」
「うん、そこにもね」
「草木やお花があるよね」
「百合や菖蒲があるよ」
 水辺に咲く、そうした花達があるというのだ。
「あの子達を見たいのね」
「うん。草木やお花とお水って合うよね」
「だって。お水がないと生きていけないから」
「それでなんだね」
「そうだよ。だからね」
「お水と合うんだ」
「どの生き物でもそうだけれど」
 ありとあらゆるだ。生あるものを含めてだ。千春は話すのだった。
「千春達はそうなの」
「千春ちゃん達は?」
「そう。お水さえあれば生きていけるから」
 それでだとだ。千春は水のことについてにこにことして希望に話していく。
「だからなの」
「お水さえって?」
「そうだよ。お水さえあればね」
「生きていける。ああ、そうだね」
 希望は千春の今の言葉の意味もだ。特に妙に思わなかった。水さえあれば生きていける、この言葉を彼も過去に何度も聞いてきたからである。
 それでだ。こう言ったのである。
「お水さえ飲んでいればね。それだけでね」
「そうなの。お水さえあればね」
「生きていけるからね。人間だってね」
「千春達だってそうだよ」
 千春がここで言う自分達、という意味について希望は人間達と考えていた。ここに齟齬があることは希望は気付かなかった。千春も言ったことに気付いていない。 
 だがお互いに気付かないままだ。二人は話していくのだった。
「お水さえあればね。だからね」
「そのお水が傍にあると」
「皆嬉しいから」
 それ故にだというのだ。
「喜んでるから奇麗になるからね」
「草木やお花が奇麗に見えるのかな」
「そうだよ。それにお池もね」
 今度は池の話をするのだった。希望に対して。
「皆が周りにいてくれると寂しくないからね」
「お池もなんだ」
「お池も。心があるんだよ」
「ううん、そうだったんだ」
「お池だけじゃなくて石でも何でもそうだよ」
「心があるんだ」
「そうなの。知らなかったの?気付かなかったの?」
「信じてなかったよ」
 そちらだった。そうした考えについては。
「あらゆるもの。森羅万象に心があるっていう考えはね」
「希望は信じてなかったの」
「うん。草木やお花はそうだと思ってたけれど」
「お池や石にはなの」
「そうしたものはないと思ってたよ」
 そう考えていたことをだ。希望は千春に答えた。
「実はそうだったんだ」
「そうだよ。信じてなかったの」
「ちょっと。非科学的だって思って」
「科学?ああ、あれね」
 科学という言葉を受けてだ。千春は視線を少し右にやった。
 そしてそこから視線を希望に戻してだ。こう言うのだった。 
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