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箕借り婆さん

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第三章

 ここでだ、彼等の前にだった。
 昔の百姓の恰好をして手拭いを被った老婆が出て来た、服装も外見もそういったもので昔の服という以外の変わりはなかったが。
 何と目は本来目と目の間である場所に大きなものがあった、一つ目があるだけで。 
 煙管を吸っている、その老婆が高校生達の前に来て言ってきたのだ。
「あんた達もう帰るんだよ」
「って婆さん人間じゃねえだろ」
「妖怪だよな、婆さん」
「一つ目小僧の親戚かよ」
「ひょっとして一つ目小僧のお祖母さんか?」
「孫がどうした」
 これが一つ目の老婆の返事だった。
「わしの名は箕借り婆さんというが」
「さっき辻さんが言ってた妖怪か」
「いきなり出て来たのかよ」
「これはまた凄い展開だな」
「本物が実際に出て来るなんてな」
「如何にもわしは妖怪だが」 
 箕借り婆さんは彼等に煙管を吸いつつ話した、実に慣れた感じの吸い方だ。
「しかし別にお前さん達に悪いことはせん」
「早く帰れって言うだけか」
「注意するだけか」
「それだけなんだな」
「帰らんと家まで引き摺って帰る」
 そうするというのだ。
「それだけだ」
「まあ悪いことはしないんだな」
「とにかく家に早く帰れ」
「そう言うんだな」
「やることがないならな」
 それならというのだ。
「そうして親御さんの手伝いでもしろ」
「そうか、じゃあな」
「やっぱり帰るか」
「高校生で五時って早いけれどな」
「やることないしいいか」
「たまには親孝行するか」
「そうするのじゃ、徳を積めばそれは自分に返る」
 箕借り婆さんは彼等にこうも告げた。
「だからよいな」
「ああ、じゃあな」
「俺達家に帰るな」
「そろそろって思っていたしな」
「それじゃあな」
「それではな」
 箕借り婆さんも頷いてだ、そうしてだった。
 高校生達はそれぞれの家に帰った、彼等は帰路で空を両手を拡げて鳥の様に空を飛ぶ箕借り婆さんを見た、そのうえでその日は家に帰り。
 それぞれの親の手伝いをした、そして次の日に。
 彼等はコンビニで辻に昨日のことを話した、すると彼はこう言った。
「早速出て来たな」
「って驚いてないんですか」
「妖怪出たのに」
「それでもですか」
「俺が言ったことだぞ」
 他ならぬ自分がというのだ。
「なら驚くか」
「それもそうですね」
「言われてみれば」
「もうわかっていることですから」
「出るって」
「だから驚かないでな」
 それでというのだ。
「お前等の話に頷いてるんだよ」
「そういうことですね」
「もうご存知だからですね」
「それで、ですね」
「ああ、それに悪い妖怪じゃないしな」
 その箕借り婆さんの話もした。 
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