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箕借り婆さん

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第一章

                箕借り婆さん
 埼玉県の話である、この県にいる少し柄の悪い高校生達がコンビニの前の駐車場のところでだべって話をしていた。
「埼玉の何が悪いんだよ」
「そうだよな」
「西武ドームあるだろ」
「ライオンズ強いだろ」
「埼玉アリーナだってあるぜ」
「特撮の撮影にも声優さんのコンサートにも使うだろ」
「埼京線人多いぜ」
 彼等の地元の話をした。
「人口多いだろ」
「さいたま市政令指定都市だぞ」
「横浜や川崎と同じだぞ」
「千葉にも負けてないだろ」
「東京なんかすぐに行けるぜ」
「俺達渋谷にも原宿にも行ってるぜ」
 東京の中心地にもというのだ。
「何で埼玉埼玉なんだよ」
「埼玉馬鹿にするな」
「埼玉は都会だよ」
「その辺りの草でも食ってろとかふざけるな」
「埼玉は凄いんだぞ」
 コンビニで買ったジュースを飲みお菓子を食べながら話す、見れば飲んで食べたものはちゃんとコンビニのゴミ箱に捨てているし他のお客さんの邪魔にならない様な場所で話している。柄はよくないがマナーはしっかりしている。
 その彼等が口々に言うのだ。
「横浜なんかずっと優勝してないだろ」
「前にペナント制したの前の世紀だろ」
「千葉だってロッテそうだろ」
「マリーンズサポーター確かに熱いけれどな」 
 彼等には敬意を見せた。
「横浜にも千葉にも負けるか」
「ライオンズなんか無敵の黄金時代あったんだぞ」
「八十年代とか九十年代見ろ」
「西武最強だっただろ」
「今だって打線強いぞ」
「そして埼玉アリーナ横浜アリーナに負けてないぞ」
「何が総理大臣出ていないだ」
 何気にこのことを気にしている。
「社長出た数が少ないだ」
「そんなの何時でも巻き返してやる」
「埼玉は都会なんだよ」
「世界屈指の大都会だろうが」
「埼玉県民馬鹿にするな」
「お前等そんなこと言うけれどな」
 管を巻く彼等に店員、青と白の縦のストライブに黒いズボンというまさにコンビニの店員の恰好の彼が言ってきた。名前を辻公康という。埼玉県で生まれ育ち大学も就職も地元というまさに生粋の埼玉県民である。背は一七〇位で痩せた顔と身体だ。目は優しい感じである。
「そこでずっとそう言っていても仕方ないだろ」
「それはそうですけれどね」
「何か埼玉色々言われるんで」
「埼玉の何が悪いのか」
「正直黒人差別や部落差別よりわからないですよ」
「差別は偏見だろ」
 辻はこの問題はそれが原因だとした。
「人の心の中の」
「そうですか」
「制度とかじゃなくてですか」
「偏見によるものですか」
「ああ、それでお前等そんなに埼玉が馬鹿にされるならな」
 それならというのだ。
「ここで文句言ってないで家に帰って勉強するか部活するかアルバイトして努力しろ。ゲームして腕を磨いてプロゲーマーで有名になるのもいいだろ」
「丁度テスト終わりまして」
「俺達なりに頑張ってきました」
「今日テスト終わって部活なしです」
「バイトしてる奴も今日は休みなんで」
「それでここにいるのか?ずっとここにいてもいいことないぞ」
 辻は店内に客がおらず今は駐車場に入る車もないことを確認しつつさらに言った。 
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