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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第100話『予選⑥』

 
前書き
あけましておめでとうございます。今年もよしなによろしくお願いします。 

 
 
宙へと向かって吹雪が吹き荒れ、それに直撃した水晶は悉く色を変えていく。その発生源に位置するのは銀髪の美少女──結月だ。

彼女は今、"射的"の真っ最中。開始してから3分が経過したが、果たして一体何個の的を射抜いたであろうか。正直腕輪を確認している暇がないからわからない。しかし、


「もう全然的が残ってない……!」


競技の制限時間は15分だというのに、なんともう的が尽きようとしているのだ。選手が100人以上いる訳だから当然こんな展開になることは予想していたが、あまりに早すぎる。これでは競技が続行できないのではないか。


「あ、あそこに1つ見っけ!」


そんな中、結月は残された数少ない的を発見し、氷片を放つ。そしてそれは直撃した──その瞬間だった。


全ての水晶の色が消え失せた。


「えっ!?」


突然の出来事に、たまらず結月は声を上げて驚く。それは周りの選手も同じようで、全員困惑で攻撃の手が止まってしまった。

これはどういうことだろうか。さっきまでついていた色はどこへやら、水晶は再び透明色を取り戻したのである。──まるで、『リセット』されたかのように。


『いやはや、競技中に失礼致します』

「!?」


そんな時、突然上空にジョーカーが現れた。彼は頭を掻きながら、申し訳なさそうに頭を下げる。その横には、「PAUSE」と表示された画面が出現していた。
PAUSE、とは確か一時停止という意味だったろうか。わざわざ競技を止めるとは、やはり何かあったのかもしれない。


『1つだけ、ルールを説明し忘れていました。それは、"全ての的が射抜かれたらリセットする"というものです。もちろん、リセットされたからといって、それまでの点数は失われません』

「あ〜なるほど……」


彼の言うことに、結月は即座に納得した。どうやら事故と言う訳ではなく、仕組まれた現象だったようである。やはり、この人数にこの的数は不釣り合いすぎたのだ。てか、そんな大事なことは最初に言って欲しかった。
しかし、このルールが適用されるとなると、一つだけ問題がある。


『また、バンバン的を射抜いちゃってください』


そう、『最初からやり直す』という点だ。
この射的、実はかなりの魔力を消費する。結月は上空への吹雪を乱発していたため、特にそのきらいがあるのだ。的が少なくなれば多少は休めるが、それも束の間の休息。すぐにリセットされるに違いない。

せめて事前にこのルールを知っていれば、作戦を変えたんだが……。


『それでは、競技再開でございます。大変申し訳ございませんでした』


そう言い残して、ジョーカーはいなくなった。
その瞬間、再び選手たちは射的を再開する。


「もう、やるしかないか……!」


どうやら考える暇はないらしい。遅れを取らないよう、結月もまた競技に戻るのだった。







「はぁっ……はぁっ……!」

「へぇ。やるね、三浦君」


息を荒げながらも、晴登は必死で眼前の人物を追いかける。その人物は跳ねるような軽やかさで走るのだが、そのスピードの速いの何の。この短時間で、ざっと20人は抜いただろうか。おかげで晴登はバテバテなのだが。
それなのにその人物は、後ろを振り返りながら涼しい顔で淡々とそう零した。


「でもそのペースじゃ、すぐにバテるんじゃないの?」

「こうでもしなきゃ……勝てませんから……!」


風香の問いに、晴登は途切れ途切れ答えた。
そう、勝つためには無理をするしかないのだ。もちろん潰れてしまったら元も子もないけど、それでも限界ギリギリには頑張りたい。
そう思って答えたが、風香は特に何の興味なさそうに、「そう」と一言だけ返した。……と思いきや、


「じゃあ1つアドバイス。君の風の使い方は悪くないけど、走る時はもっと姿勢を正した方が良いよ」

「……え?」

「聞こえなかった? 背筋、伸ばしてみて」

「は、はい」


いきなりのことに戸惑ったが、晴登は言われた通りに前傾姿勢だった身体を起こす。すると不思議なことに、さっきまで辛かった呼吸が少し楽になったのだ。


「魔術も大事だけど、これはマラソン。走る姿勢も気をつけないと」

「なるほど……」


魔術を意識していたのと、風香を追いかけることに集中していたのとで、あまり姿勢を気にしていなかった。しかし、それではこのレースは乗り切れない。全力なことに変わりはないが、少しでも楽ができるなら儲けものである。


「あの、アドバイスありがとうございます!」

「いいよ、これくらい。君の覚悟が伝わったから」

「覚悟……ですか?」

「勝ちたいんでしょ? なら私について来なよ。ついて来れるなら、だけど」


そう言って、風香は薄笑いを浮かべた。初めて見せたその表情の変化に、晴登は思わず目を奪われる。
しかし次の瞬間には、風香はさらに加速を始めた。


「置いてかれて……たまるか!」


ここが踏ん張り時だと、晴登は己の身体に鞭打ち、風香の後に続くのだった。





森の中では様々な音が飛び交い、あらゆる場所で熾烈な戦闘が繰り広げられていることは容易に想像がつく。
ここにも1人、焔を纏った刀を振るう少女がいた。


「はぁっ!」


その一声で、モンスターも草木までも燃え尽きる。その焔の中心に立つ人物──緋翼は、周りに敵がいないことを確認してから、汗を拭って一息ついた。


「さて、今の順位は……33位か。ま、悪くないんじゃないの?」


腕輪を見て、緋翼は僅かに笑みを零す。
実はあれから猪型のモンスターと何度も遭遇しては倒してきたので、かなりのポイントを稼いでいたのだ。肝が冷え冷えな展開だったが、おかげでこの好順位も当然と言えよう。
残り時間も半分を切っているので、この調子でいけば本戦に残るのも夢ではない。


「でも、これ以上は難しそうなのよね」


というのも、猪型のモンスター以降、高ポイントのモンスターに遭遇できていないのだ。
よって、今はちまちまと雑魚を狩っている訳だが、ポイントの伸びはあまり芳しくない。これではふとした時に、順位はガクッと落ちてしまうだろう。この競技は実力はもちろんだが、運もかなり重要なのだと思い知った。


「かといって、本戦に残るにはもう少し順位がないと厳しいし、どうしよう……」


運というものは実に気まぐれなものなので、こればっかりはどうしようもできない。
しかし、せめて5Pt級以上のモンスターが連続で出てくるとかあったら嬉しいのだが──


ガサッ


「!!」


突然、背後の茂みが不自然に揺れた。何かの気配も感じ、即座に緋翼は距離をとって刀を構える。まさか、また猪なんじゃ……


「──よっと」

「なんだ、選手か……」


しかし、緋翼の警戒は杞憂に終わった。
草むらから出てきたのは、黒髪の30代くらいの男性だったのだ。腕輪をはめており、間違いなく選手だと断定できる。


「お? なんだ嬢ちゃん、そんな物騒なもん構えて」

「あ、すいません。モンスターだと思って……」


その男性に声をかけられた緋翼は、慌てて刀を下げた。
それに対して男性は「別にいいって」と一言返すと、辺りを見回し始める。そして一通り見回したかと思うと、緋翼の方を向いた。


「なぁ嬢ちゃん」

「は、はい……?」

「……もしかして迷子?」

「喧嘩売ってます?」


緋翼が睨みを利かせると、男は「冗談冗談」と言って快活に笑った。競技中だというのに緊張感のない人だ。


「いやぁ驚かせて悪かった。どうにもこの辺から、強そうな奴の気配がしてな」

「……それって何ポイントくらいですか?」

「……8とか9、もしくは──10だな」


緋翼の問いに、男は不敵に笑いながら答える。さっきまでの剽軽な態度と打って変わり、今の彼は狩人の目をしていた。

──すぐにわかった。この人は実力者だ。
ならば、その目と勘は確かなものではなかろうか。この近くに強敵がいるのだと思うと、自然と刀を持つ手に力が入る。


「おっと嬢ちゃん、悪いが横取りはさせねぇぜ」

「私だって、簡単には譲れません」

「言うねぇ。ならここは取り合いってことで……って、んだよ、もう1人来やがった」

「え?」


男の言葉を聞いて振り向くと、こちらに向かってくる1人の人物を見つけた。木陰でその姿はよく見えないが、真夏なのに長いコートを羽織った高身長の男性……といったところか。


「あんたも気配に釣られたクチかい?」

「……」

「おいおい、せめてなんか言ってくれよ」

「……」


男の問いかけに、その人物は何も答えない。無視するにしても、もう少し反応くらいしてあげればいいというのに。

男はなおも軽口を叩くが、その人物はその悉くを無視した。さすがにその態度が気に食わなかったのか、男はコートの人物の元へと近づいていく。


「聞こえてんのか? 口がついてんだから、返事くらいしてくれても──」


そう言いながら、男がその人物の肩に手を置こうとした、その瞬間だった。


──男が、目にも止まらぬ速さで吹き飛ばされた。


「は……?!」


いきなりの出来事に、緋翼は驚きながら男の行方を目で追う。
すると、木の幹にぶつかったのか、木の根元で彼がぐったりとしているのを見つけた。


「大丈夫ですか?!」


さすがに心配になって、駆け寄って声をかけるも応答はない。どうやら気絶しているようだった。


「何でこんなこと……!」


緋翼は怒りを込めた言葉を、コートの人物に向ける。
そう、彼こそが男性を吹き飛ばした張本人なのだ。その証拠に、その人物は未だに掌底を突き出したポーズをしているのだから。


ピピピピ


「……ん?」


その時、どこからか電子音が聴こえてきた。その音源を探してみると、男性の腕輪からだとわかる。そこには『失格』の2文字が刻まれていた。


「そういえば、モンスターは反撃するから失格もありえるとか言ってたわね。でも選手同士の場合は……」


そこまで言いかけて、緋翼は何かに引っかかった。
というのもこの腕輪、大会の規則で左腕に装着することが定められているのだが、コートの人物が突き出した掌底──もとい左腕にはその腕輪が見当たらない。


「……ちょっと待ちなさいよ。まさか──」


そこまで言いかけた瞬間、コートの人物が動いた。正確には、緋翼目がけて飛びかかってきたのだ。


「やばっ!?」


たまらず横に回避して難を逃れるが、跳んだ勢いでその人物のコートが剥がれた。その時、コートの中身を見て緋翼は絶句する。


「人型の、モンスター……!」


それは真っ黒な全身で、顔には牙の鋭い口だけがついた、人型のモンスターだったのだ。
そして、何となくだが悟ってしまった。


──こいつは、10Pt級なのだと。






暗闇の中を、松明の灯りのみを頼りに進む。怖いという気持ちは少なからずあるが、その一方でワクワクしている自分もいる。

"迷宮(ラビリンス)"に挑む伸太郎は、順調に歩みを進めていた。
なんとルービックキューブの一件以来、さらに2回も近道を通っているのだ。何せ鍵が15パズルやナンプレという、伸太郎にとっては造作もないパズル問題だったのだから。


「やべぇ、マジで順調すぎる。まさかこんなところで俺TUEEEE展開になるとは思わなかったぜ」


生まれてこの方、勉強以外でここまで自分が強者だと感じたのは初めてのことだった。自然と口角が上がり、歩く速度も早くなる。


「いける、いけるぞ!」


これだけ近道を通って未だにゴールに着かないのだから、さすがにまだ誰もゴールしてないだろう。つまり、伸太郎の予選1位通過も夢ではない。そう思うと、珍しくテンションが上がってきた。


「早く次の近道見つかんねぇかな〜……って、お? 何だこの坂道……?」


そんな時、ある曲がり角を曲がったところで、伸太郎は今までと違った景色に遭遇する。それは、先が見えないくらい地下深くまで続く下り坂だった。


「怪しいな……」


これまで見てきた地形は、「まっすぐな通路」と「階段」のみ。それなのにここにきて、新しいパターンである「坂道」が出てきたのだから、不思議に思うのも当然だろう。
加えて、階段とは違って先が全く見えない。ゴールがあると思われる地上に向かっていないのが残念だが、ここで行かないと後悔するような気もする。


「……行ってみるか」


何かあるならそれでいいし、何もなさそうであれば引き返せばいい。これは必要な寄り道だ。

そう思って、伸太郎が坂道を下ろうとした──その瞬間であった。


ガコンと、背後から音が響く。


「ん、何だ──」


振り向いてすぐに、伸太郎が事態を察し、絶句した。
同時に、近道に気を取られるあまり忘れていた、ジョーカーの言葉を思い出す。


『迷宮には罠が多く仕掛けられています』


「ちくしょぉぉぉ!!!」


伸太郎は吠えながら、すぐさま坂道を駆け下り始めた。その背後を、ゴロゴロと大岩が追いかけてきている。

──そう、さっきの音は、この丸い大岩が出現した音だったのである。

何と短絡的な罠であろうか。しかし、坂道でのその罠の効力は絶大とも言えよう。


「くそっ、逃げ切れる気がしねぇ!!」


球体の岩は、当然斜面で加速しながら伸太郎へと迫る。一方伸太郎は、いくら坂道とはいえ、それから逃れられるほど速力がある訳もなく、ジリジリとその差を狭められていた。


「どこかに抜け道……ないか! なら迎撃!」


辺りを見回して逃げ道を探しながら、伸太郎は岩に向かって1発光弾を放った。初めて使えるようになった頃から練習を重ねているため、今やエアガンくらいの威力には──


「って、そんなレベルでどうこうできる訳ねぇだろうが!!」


光弾は呆気なく岩に弾かれ、あえなく迎撃は失敗する。他の手段と言っても、"炎"は恐らく光弾よりも効果が薄いだろうし、"爆破"は天井諸共崩しかねない。つまり、今の伸太郎には手詰まりの状況なのだった。


「マズいマズいマズいマズい……!!」


この岩に潰されれば、きっと紙のようにぺしゃんこにされるだろう。ふざけるな。こんな誰も立ち入らないような迷宮の地面に、地上絵として遺るなんてたまったもんじゃない。

──もう以前とは違う。そう易々と死んでなるものか。狡猾に意地汚く生き抜いてやるのだ。


「何か?! 何か使えないか?!」


そう思って周囲を見渡すも、前は暗闇が、横は壁が永遠と続くのみ。抜け道も障害物も存在しない。
岩と壁の隙間に入り込むという手段は聞いたことあるが、見た感じそんな隙間はないし、あったとしても実行する勇気と身体能力がなかった。


「俺自身でどうにかするしかないのか……」


呟き、握りこぶしに力が入る。さっきは選択肢から消したが、この大岩を排除するにはやはり"爆破"を使う他ない。
しかし、いつもと同じ使い方ではダメだ。終夜の"冥雷砲"の様な、小規模な爆破でなくてはいけない。


「だったら凝縮率を変えて……!」


走りながら指先に意識を集中させ、光と熱を凝縮する。しかし、息が切れて思うように調整できない。自分の命運が懸かっているのだという焦りと震えも、余計に手元を狂わせる。


「あーもう焦れってぇ!!」


わざわざ指に集めるから、調整が細かくなるのだ。もっと大きい箇所に集めれば制御が楽になるはず。
伸太郎は熱量を指から手の平に移動させ、そして岩に向かって勢いよく振り返った。


「ぶっつけ本番で頼むぞ! "烈火爆砕(イグナイト・エクスプロージョン)"!」


伸太郎の右手に煌めく光が、その輝きを増しながら大岩に直撃する。
その瞬間光は爆ぜ、熱が放出すると同時に岩に亀裂を刻み、砕いていった。轟音と衝撃が空気を震わせ、迷宮を揺るがす。

しかし、崩れることはなかった。


「……あっぶな! できた! 俺にもできたぞ!」


辺りに散らばる岩の破片を見下ろしながら、伸太郎はガッツポーズをとる。まさか自分が、こんなに大きい岩を砕くことができるなんて、夢にも思わなかった。
未だに心臓がバクバク鳴っている。まさに危機一髪。ここまでヒヤヒヤしたのは人生で初めてだ。……このスリル、ちょっとクセになりそう。


「おっといけね、喜んでばかりもいられねぇよな。先に進まねぇと」


伸太郎は気持ちを切り替え、歩いて坂道を下り始める。
というのも、こんな危険な罠があるくらいなのだ。この道が近道の可能性も十分考えられる。


「お、見つけた見つけた」


そして、坂道を下り切った先にあった行き止まり。まさか本当にハズレかとも思ったが、ちゃんと照らして見てみると、壁に文字が刻まれているのがわかった。これが今回の鍵だろう。


『NLFN WKLV ZDOO (←3)』


英語の羅列と記号。暗号だというのは目に見えてわかるが、果たしてどういう意味なのか。


「はっ、これは簡単だな」


だが、その暗号を瞬時に解読した伸太郎はそう吐き捨てると、壁に向かってあることをする。
すると、壁は自動ドアの様に横に開き、先へと進む道を呈した。


「……何だよ、これ」


しかし、その先に存在した広大な空間に度肝を抜かれた。

──そこには、見上げても闇しか見えないほど天井の高い円柱型の空間と、壁に沿うように上へと伸びる螺旋階段。そしてその道中には、無数の扉があったのだった。
 
 

 
後書き
去年中に更新するとは何だったのか。盛大に遅くなりました、すいません。どうも波羅月です。とはいえ、新年一発目に100話ってのは気分が良いですね! まさかここまで来るとは思ってもいませんでした。いやはや皆様、読んで下さって本当にありがとうございます。

さてさて、今回は遅れはしましたが、その分文字数がだいぶ多くなっています。やったねと言いつつ、実は晴登のパートが全然進展してないことに気づき戦慄しております。やっべぇ。次回辺りは晴登に8割くらい占めてもらいましょうか。

緋翼と伸太郎のパートは終盤、結月と晴登のパートは中盤ってところでしょうか。ペース配分がはちゃめちゃですが、まぁどうとでもなるでしょう。

今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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