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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga20-B夢の終わり~Worst ending~

†††Sideなのは†††

はやてちゃんとアインスさんがいつまで経っても集合場所に来なかったから、通信や念話を試みながらいろいろと探し回った。しかもシャルちゃんからは、ルシル君とアイリがいつまでもオフィスに来ないって通信も入った。ルシル君とアイリの捜索も請け負って、本部ビルの近くの公園にやって来たら・・・。

「あ、居た! はやてちゃんとアインスさんを発見! 本部ビル外周公園!」

全体通信でみんなに伝えて、ベンチに寝かされているはやてちゃんとアインスさんの元に駆け寄る。気絶じゃなくて眠ってるだけみたいなんだけど、「微かに魔力を感じる。誰かに眠らされた?」ってことになる。だから念のためにみんなが揃うまで起こさずにしておこう。

「はやて! おーい! 」

「アインス、起きるですよ!」

みんなと合流してすぐにヴィータちゃんとリインが、「起―きーてー!」ってはやてちゃんとアインスさんを起こそうと体を揺さぶり始めた。よっぽど深い眠りなのかなかなか起きないことで、「本当に大丈夫なの?」ってアリシアちゃんが言うように、少し不安になってきた。
みんなの視線がシャマル先生に向かう中、ヴィータちゃんがはやてちゃんに顔を近付けて、「なぁ、起きてよはやて!」って強く揺さぶった。シグナムさんがそれを止めようとした時、パチッとはやてちゃんの目が開いた。

「はや――」

「ルシル君!」

はやてちゃんが目を覚ましたことでパァッと顔を輝かせたヴィータちゃんと、目を覚ましてすぐにルシル君の名前を叫んで体を起き上がらせたはやてちゃん。2人の額が勢いよく激突して、「い゛っ!?」揃って額を押さえて蹲った。

「アインスさん!? アインスさんも目を覚ましたよ!」

側のベンチで同じように眠ってたアインスさんも、上半身をザフィーラに支えられながら体を起こしていた。2人が無事に目を覚ましたことに安心してると、「ルシル君! ルシル君は!? ルシル君は居らんの!?」って混乱気味なはやてちゃんの異常な様子に息を呑む。

「どうしたんだよ、はやて!」

「はやてちゃん、落ち着いてください!」

はやてちゃんがベンチから飛び降りて「ルシル君! ルシル君!」って周囲に呼びかけ続ける。ヴィータちゃんとシャマル先生とリインがはやてちゃんの側に付いて落ち着くように説得。残っている私たちはアインスさんに「何があったんですか?」って事情を聞いた。

「ルシルとアイリは、我々と完全に袂を分かつつもりのようだ」

「袂を分かつだと? どういうことだ?」

「実際に見てもらった方がいい。ナハト・リヒト」

アインスさんは自分の首に掛けられている白銀の剣十字を胸の前に掲げた。展開されたモニターにルシル君とアイリ、はやてちゃんの後ろ姿が映し出された。

『見たんだろ? PT事件の捜査資料。そして気付いた。死亡した被疑者ステアの服と、かつて俺が一度だけはやてに見せた服が同じだということに・・・』

ルシル君の言葉にPT事件に関わっていた私たちは「え?」と耳を疑った。モニターに映るルシル君はサファイアブルーの魔力に呑まれた。治まった光の中から現れたルシル君の姿に私とアリサちゃんとすずかちゃん、それにフェイトちゃんは「うそ・・・」と零した。

「ステアちゃん・・・?」

神父服にフード付きのマントに仮面。一瞬でよみがえる記憶。そう、ステアちゃんと初めて会ったのは“ジュエルシード”によって暴走した無人オープンカーの攻略時。全身黒づくめだったこともあって怖かったけど、声が女の子のものだったからちょっと安心したのを覚えてる。

『この格好ではやての前に立つのは10年以上も前なんだな。では改めてご挨拶を。この姿はステア・ヴィエルジェ。ルシリオン・セインテストが、管理局に素性を知られないようにジュエルシードを回収するための偽りの姿だよ』

大人、子ども、そしてステアちゃんの声へと変化していって、脱いだフードや外した仮面の中から出てきたのは、紅色の長髪に蒼い瞳をした女の子ステアちゃんの顔だった。けどすぐに元の大人の姿に戻ったルシル君は悲し気な微笑みを浮かべていた。

『結局これが結末なんだよ。もう、後には引けない。はやて。このような形での別れは俺にとっても辛いが・・・さようならだ』

画面内が真っ白な霧に包まれて、はやてちゃんの悲痛な叫び声が続いた。そしてドサッとはやてちゃんとアインスさんが倒れた音が聞こえた。

『マイスター。はやてとアインスが完全に眠ってるの確認したよ。とりあえずベンチに寝かせておくね』

霧が晴れてきたことで、アイリがはやてちゃんとアインスさんをお姫様抱っこしてベンチに寝かせていく様が映し出される。その間ルシル君は『くそっ、くそっ! ちくしょう!』って地団太を踏んでいた。近くの石畳が大きく抉れているのはそういう理由だったんだ。

『これからどうするの? もうチーム海鳴どころか局にも帰れないんでしょ? PT事件の犯人の1人が実は生きてて、それがマイスターだって自供しちゃったんだから』

『はぁはぁはぁ・・・。被疑者死亡として処理されてから17年。15年経過したことでもう俺が罪に問われることはない。今後の予定だが、ガーデンベルグを救いユルソーンを回収後、リアンシェルトを救いに行く。そしてユルソーンを破壊し、俺の消滅を以てセインテストの宿願の完遂とする。が、その前にT.C.を潰す。これまで世話になったみんなに、局に出来る恩返しだ』

『シグナム達やなのは達へお別れの挨拶とかしなくても大丈夫?』

『ずっとチーム海鳴のみんなを騙していたんだ。形としては最悪なパターンだが、悪党の俺に相応しい結末だよ。今さら見送ってもらおうなんて思っていない。アイリは?』

『アイリは・・・ちょっと寂しいけど、アイリの全てをマイスターに捧げたから。だから大丈夫なの』

『すまないな』

『アイリが決めたことだから』

『ありがとう』

『ん。どういたしまして♪』

ルシル君とアイリの会話がフェードアウトしていって、残るははやてちゃんとアインスさんの寝息だけになったことで、アインスさんがモニターを解除した。ルシル君の思わぬ告白に私たちは沈黙したまま、ショックの所為で動けずにいた。

「探さないと!」「探さなきゃ・・・!」

そう言って真っ先に動き出したのは、フェイトちゃんとアリシアちゃんだった。2人の必至な言葉を皮切りに私たちは再起動して、すぐにルシル君とアイリの捜索に入る。まずはシャルちゃんの個人回線に今の映像を送信してもらって、チーム海鳴のリーダーな私が「手早く伝えるよ!」って通信を入れた。そして、死んだって思われていたステアちゃんは実は生きていて、しかもルシル君の変身した姿だったってことを伝えた。

『え? は? ちょっ、ちょっと待って。ステアがルシルだった? マジで何言ってるのか理解できないんだけど?』

「その辺りはさっき送った映像観てもらえれば判るから! とにかく私たちはこれからルシル君とアイリを探しに行くね!」

『ちょっ、えええええ――』

シャルちゃんとの通信を切る。探すといっても広すぎる本局を闇雲に探してもまず見つけられない。繋がらないと思うけどルシル君やアイリに通信を掛けながら、アインスさんが本局内の全監視カメラを統括管理する監視室に連絡を取って、ここ本部付近のカメラからルシル君たちの移動先を確認してもらう。どこに映っているのか判明するまでは動けないから。

「私、ルシルにお礼しないと」

「礼? そうね。ここに居るみんなで1発ビンタね」

「違ーう。まぁずっと嘘つかれてたのはムカつく・・・っていうより悲しいけどさ。でも、本当にルシルがステアだったんなら、私とフェイトにとっては命の恩人だから。虚数空間に落ちた私たちを助けてくれたから、ステアが死んだことになったんだもん」

「うん。あと、プレシア母さんの恩人でもあるんだ。ステアがプレシア母さんの遺体を一緒に引き上げてくれたから、プレシア母さんを生まれ故郷の地に埋葬することが出来た」

フェイトちゃんとアリシアちゃんは特にステアちゃんに感謝していたから。あのステアちゃんがルシル君なら、あの当時言えなかったお礼を改めて言えることになるんだ。そして私、アリサちゃん、すずかちゃんはずっと、フェイトちゃんみたいに最初は敵同士だったけど今みたいに仲の良い友達として、ステアちゃんとも一緒に過ごしたかったっていう願いと後悔があった。まさか知らず知らずのうちに果たされていたなんてね・・・。

「あ、シャルちゃんからだ」

『なのは! ルシルは!? ていうか、今どこ!?』

「今は監視室にカメラに映ったルシル君とアイリを探してもらってる。あと、本部ビルの外周公園で待っているところ」

『なるほど、やみくもに探さない作戦ね。私もこれから捜索に参加するから、もうちょっと待ってて』

「うん、待ってる」

シャルちゃんとの通信が切れて、監視室からの連絡を待った。その間にシャルちゃんとも合流して、泣きそうになっているはやてちゃんの元へ。

「はやて」

「シャルちゃん。私・・・私が、ルシル君を追い詰めた所為で・・・」

「違う、そうじゃないよ、はやて。はやての所為じゃない。ルシルが悪い、完っっ全に悪い。だから自分を責めちゃダメ。捜し出した後は罵倒なりキツイの1発なりお見舞いしてあげよう。それくらい許されるでしょ?」

「・・・うん」

ハグし合うシャルちゃんとはやてちゃんを見て、絶対にルシル君たちを見つけ出さないとって決意。そんな時に、「監視室から連絡が入りました!」ってアインスさんがはやてちゃんに知らせた。話していたみんなが一斉に口を閉じて、監視室からの報告に耳を傾けた。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

プレシア母さんに頼まれて探していた“ジュエルシード”。ステアは、私とアルフが初めて遭遇した、“ジュエルシード”をめぐって敵対、交戦した魔導師だった。何度も衝突していたけどなんだかんだあって協力して、なのは達と衝突を繰り返した。そして、プレシア母さんが亡くなり、プレシアが蘇ったあの日、ステアは死んだ・・・はずだった。

(その正体がルシルだった・・・!)

素性を隠すためにステアという存在しない女の子に変身していたって告白したルシル。ずっと死んだと思っていたから苦しかった。でもルシルとして生きていたことを今知って、嬉しいと思う反面悲しかった。ルシルは、ステアの死で悲しんでいた私たちをずっと嘘を吐きながら見ていたことになるんだし。でも嬉しさの方が上だったりする。そして今こそ伝えたいんだ、あの時の感謝を。

『セインテスト一尉、アイリ二尉の足取りを確認できました。第2次元港・第8ターミナルにて、民間船に搭乗している姿が確認されています』

この情報を聞いたと同時に私たちはバス停へと駆け出した。本部ビルの側には10分に一便が到着する高速バス乗り場がある。ルシル達が居る第2次元港にももちろん到着するから、多分2人も乗っていったんだと思う。

「船の行き先はいずこか?」

『第12管理世界フェティギアは中央次元港です』

「出発時刻は?」

『8分後に出発します』

アリサが「8分後!? 間に合わないわよ!」って声を荒げた。今すぐバスに乗って向かったとしても10分以上かかるし、何より視界に入ったバス停からバスが発車したのが見えたから、また数分と到着するのを待たないといけない。これはもう確実に追いつけない。

「どうすりゃいい!?」

「完全に行方を晦まされたら、ルシル君たちをこの広い次元世界の中から探すなんて無理になる」

「本局からフェティギアまで、民間船なら9時間になる。その間に先回りするのが一番じゃない?」

「さすがに管理局艦は動かせないし・・・」

「本部のトランスポートホールか・・・」

「スカラボの直通トランスポートだね。問題は転送先が許可してくれるかどうかだけど・・・」

「現実的な話、スカラボのトランスポートを使うのがベストだと思う」

「決まり。すずか、貸してもらえる?」

「もちろん! ウーノが居るから、すぐにフェティギアに飛べるように連絡を入れておくよ!」

そういうわけで、私たちは本部ビルに入ってスカラボのある技術部エリアに向かった。その間にシャルとはやてがフェティギアの地上本部に連絡を入れる。ルシルが言っていたけど、ルシルをPT事件関連での罪ではもう逮捕できない。だから被疑者扱いも出来ないことで、フェティギア地上本部への緊急転送の理由には使えない。

「――ですから、T.C.の構成員がそちらに向かったのかもしれないんです」

「未確認ではありますが、可能性がある以上は見過ごすわけにはいきません」

だから“T.C.”のメンバーがフェティギアに向かったっていう話にした。始末書で済めばいいんだけど・・・。そんなことを考えながら2人とフェティギア地上本部のやり取りを眺めていると、「了解しました。ありがとうございます」って2人がお礼を言った。

「転送の許可が下りた!」

「これで先回りが出来る!」

「監視室からの続報です。ルシルとアイリは下船することなく、フェティギア往きの便が出発したそうです」

「乗ったと見せかけて実は・・・って、ちょう考えてたけど良かった」

「9時間の猶予が出来たね」

「スカラボでちょっと休もうか? なのはちゃんのレイジングハートやシャルちゃんのキルシュブリューテの修理もまだ終わってないし」

「うーん。さすがにT.C.を出汁にして取り付けた転送許可だからね、今すぐ行かないと怒られるから・・・」

シャルがガックリ肩を落として、「ま、トロイメライを使うからいいけどさ」って苦笑い。なのはとシャルが相手にしていた“T.C.”のリーダーは、他の私たちが相手にした幹部とは違って時間稼ぎに徹することなく2人と戦ったようで、2人のデバイスを破損させた。でも今からすることはルシルを連れ戻すこと。交戦にはならないだろうということで、デバイスを修復することなく向かうことに。

「ただいま!」

「「おかえりなさい、すずか。いらっしゃい、みなさん」」

スカラボに到着すると、ウーノとドゥーエが出迎えてくれた。シャルやはやてはすぐにでもフェティギアに向かおうとしたけど、ずっと動きっぱなしということで小休憩を挟むことに。応接室のテーブルには飲み物各種が取り揃えてあって、それぞれの好きな飲み物(私は麦茶にしておいた)を頂いた。ソファに座って飲み物で喉を潤すだけで割と休まる。

「食事を摂っていないと思ったので、軽食を購入しておきました。お暇があるときにどうぞ」

「サンドイッチですので、コーヒーやカフェオレを揃えていますが、お茶もあるから好きなペットボトルをどうぞ」

大きなバッグを2つと差し出してくれたウーノとドゥーエに「ありがとうございます」と礼を言って受け取った。あくまでルシルとアイリの確保だからまず交戦にはならないだろうし、たくさん食べても大丈夫だ。
休憩後すぐにトランスポートを利用して、人数を分けてフェティギアへと転送開始。ルシルとアイリがフェティギアに発ってまだ1時間も経過してない。向こうに到着して7~8時間は中央次元港で待機になる。

「全員が乗れる輸送車を用意してもらったみたいだから、それに乗って中央次元港へ向かおう」

フェティギア地上本部に到着してすぐ、シャルの運転する輸送車で中央次元港に向かう。次元港に着くまでの間に食事だ。普段は楽しい話をしながらの食事だけど、今はちょっと空気が思い。ただ運転してるシャルに、助手席に座るなのはが「あーん」しているんだけど、「ありがと~♪」って楽しそうな雰囲気だ。

「あ、メールだ」

私の携帯端末からメールの着信音が鳴ったかと思えば、他のみんなの端末からも一斉にメールの着信音が鳴って、車内で突然の大合奏状態。慌てて端末を操作して、メール画面を開いた。そして私たちは同時に「え?」って零した。

「ルシルからのメールだ・・・」

「あたしもよ」

「私も」

「みんなの端末に、ルシル君からのメール・・・?」

「ごめん、ちょっと車停めるね!」

車を近くのショッピングセンターの駐車場に停めて、私たちは思い思いにメールの内容を確認した。

――フェイト・テスタロッサ・ハラオウンへ。
初めて君と出会ったのは、海鳴市の一画にある噴水公園だったな。時間を戻す懐中時計に宿るジュエルシードをめぐっての戦いだった――

そんな出だしと共に綴られる文章は、捜査資料を見ただけじゃ判らない、実際に体験した当事者(わたしたち)だけしか知らない内容ばかりだった。ステアを死んだと見せかけたことや、それで苦しんでいる私たちへの謝罪などなどだ。そしてメールはこう締めくくられていた。

――短い間だったがステアとして共に戦えたこと、チーム海鳴として共に過ごせたこと、そのどれもが俺にはもったいなさすぎる、十分すぎる思い出だった。これから俺とアイリは、T.C.を潰しに行く。それがせめてもの俺の恩返しだと思ってほしい。最後に、これまで友としていてくれたことに深い感謝を。どうか新たな時代を生きる君たちに、幸が多くあらんことを。ルシリオン・セインテスト――

†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††

「マイスター。さっきから着信数がシャレにならないんだけど。リンディ統括官にクロノ提督、エイミィやアルフ、トリシュたち騎士・・・。一番多いのはシャルなんだけど・・・」

「絶対に出るなよ? 特にシャルのは。めっちゃくちゃ怒られるぞ」

「だよね。開口一番で呪詛ってきそう」

俺と自分の端末をいじっていたアイリは苦笑して、「出なくてごめんね」と謝りながら2台の端末をジャケットのポケットにしまい込んだ。

「アイリ達が本当はミッドに居ること、後で知ったら余計怒るだろうね」

「ああ。しかもフェティギア往きの船に乗った俺たちが、実はプリムスの幻術と知ったらな」

はやてとアインスを眠らせた後、俺とアイリに接触を図ってきたのは撤退したと思われていたプリムスだった。奴から“T.C.”のリーダーが俺に用があるという旨を聞き、リアンシェルトが持っていた転送カードを持たされた。俺たちの幻ではやて達を翻弄させたのは、俺とリーダーの邂逅を邪魔させない為らしい。

「どうせならリーダーの元へ直接転移できるカードを渡せって話だ。融通の利かない奴らめ」

「アイリは、最期にマイスターとツーリングが出来て満足だけどね♪」

「・・・そうか。俺もそうだな」

俺とアイリは今、ミッドは西部エルセア地方を訪れていた。八神邸から盗んできたのか俺の愛車・“マクティーラ”が、俺たちが転送されたレールウェイステーションの駐車場に置かれていた。最後の最後で乗る機会をくれた連中に少しくらいは感謝も生まれるというものか。

「あれ!? ルシルさん!?」

「それにアイリも!?」

「どうしたんですか、こんなところで?」

「フェイトさんやアリシアさんとも連絡が取れないので、本局でT.C.の襲撃に備えているかと」

「きゅくるー」

駐車場で俺たちに声を掛けたのは、「スバル、ティアナ、エリオ、キャロ」の4人と、「久しぶりフリード」とアイリが頭を撫でたフリードリヒだった。4人とも私服姿だ。今日はミッドで遊ぶ約束をしている、という話を確かアリシアがしていたな。

「地上にはまだ連絡行ってないんだろうけど、本局の襲撃はなんとかチーム海鳴と特騎隊で食い止めたよ」

アイリが胸を張ってそう伝えると、4人は「さすがです!」と俺たちをキラキラとした目で見た。嘘ではないが実際は負けているようなものだから、アイリのように俺は胸を張れない。まぁアイリも、4人を不安にさせないようにしたいんだろう。

「それで今、俺とアイリははやて達と別行動で、T.C.を追跡中だ」

「別行動・・・ですか? ルシルさん達の強さは知ってますけど、大丈夫なんですか?」

「・・・あの、あたし達に何か手伝えることは無いですか?」

「僕たちじゃ頼りないかもしれないですが、攪乱程度には・・・」

ティアナ、スバル、エリオ、最後に力強く何度も頷くキャロ。俺は「大丈夫さ。心配してくれてありがとうな」と笑顔を浮かべた。フッケバイン事件を経る前からその実力は頼れるもので、普段なら協力を受け入れたかもしれないが今この時だけは断らざるを得ない。

「ルシルの言う通り♪ 何も連中を一度に相手にするわけじゃないし、アイリとルシルのユニゾンなら勝てるよ!」

アイリの言葉に4人は渋々だが納得してくれて、「何か手が必要ならすぐ呼んでください」と、今後果たされることのない約束を交わしてから別れた。4人の姿が見えなくなるまで見送った後、俺とアイリは“マクティーラ”に乗り、一路エルセア郊外の無人区画へと向かった。

「お待ちしていましたわ」

「ようやく来たか」

「さっさと案内しろ」

廃墟と化して長い無人区画の入り口にはプリムスとレオンの2人が佇んでいた。互いに世間話に興じるつもりはないため、言葉を交わしたのはそれっきり。2人に付いて数分と廃墟を歩いたところで、元はレストランと思しき廃屋にフォードとアーサー、そしてフードを目深に被ったリーダーが待っていた。

「くだらない話をするつもりはない。フードを取れ」

プリムス達が王と呼んでいるリーダーに対する俺の態度は挑発的だが、奴らは咎めることなく無言で俺たちの側に控えるまま。リーダーは大人しくフードを外して素顔を晒した。俺とアイリはすでに話し合っていたためリアクションは特にせず、俺は続けて「それが素顔じゃないんだろ?」と睨みつける。俺にヒントを与えたプリムスは微笑を浮かべ、レオン、フォード、アーサーは俺をジッと見、リーダーは今晒している顔の変身を解き、もう1つの顔を俺たちに見せた。

「・・・確定だな」

「だね」

「推察した貴様らT.C.のシナリオからして、この瞬間に正偽は決したんだろうが・・・」

――ユニゾン・イン――

「大人しく従ってやるつもりはない! 時空管理局本局、特務零課特殊機動戦闘騎隊、ルシリオン・セインテストとして! 最期の意地を押し通す!」

『覚悟!!』

――凶鳥の殺翼(コード・フレスヴェルグ)――

前方150度圏内に真空の刃を無数に放つと、奴らはそれぞれの方法で回避を行った。

「ならば、意地を張ったまま旅立ちなさい!」

――尽滅の蹂躙軍(フエルサス・デ・オクパシオン)――

「はーっはっはっはっは! 派手に逝くがいい!」

――レイ・デ・ラ・ゲラ――

「俺が、お前の首を獲る!」

――ディアブロ・デ・ラ・プランタ――

「さらばだ!」

――震天弓――

そうして、俺とアイリは“T.C.”の幹部を一度に相手に戦闘を開始した。






























・―・―・―・―・―・































『おはようございます。1月18日、MBCニュースの時間です。まずはこのニュース。悲報です。時空管理局本局、内務調査部および特務零課に所属していたルシリオン・セインテスト一等空尉、アイリ・セインテスト二尉が昨日未明、西部エルセア地方の無人区画にて遺体で発見されました』

『遺体を発見したのはゲンヤ・ナカジマ三等陸佐率いる陸士108部隊。遺体発見現場では激しい魔導戦が行われたのか、すさまじい破壊の跡が残されていた模様です』

『セインテスト一尉、二尉は、特務零課として現在、魔導犯罪組織T.C.の捜査を行っていました。魔導戦が行われていたということでお2人の殺害にはT.C.が関わっていると見られ、本局は殺人の罪状を加え捜査を続けると声明を出しました』

『ルシリオン・セインテスト一尉は、本局のみならず管理局全体で実力のある魔導騎士・軍神として有名であり、その一尉が戦闘による殉職をしたということで、管理局全体に激震が走っている模様です』
 
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