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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第104話 難楼討伐 前編

上谷郡の村々の警護を初めて、半年が過ぎました。

この間、上谷郡の烏桓族との交戦は十三回に及び、殺した烏桓族の人数は五千人は超え、現在の難楼の手持ちの兵は二千位にまで落ち込んでいると思います。

私達は烏桓族との戦闘は深追いをせず、消極的な戦闘を行っていた甲斐もあり、被害は殆どありません。

懸案になっていた難楼の居場所は、とうとう判明しました。

烏桓族の交戦した場所、彼らの撤退経路などを元に、冥琳、風、稟が知恵を振り絞ってくれたお陰です。

難楼は五カ所の場所を数週間間隔で転々に移動しているようです。

いずれにせよ難楼の喉元に刃を突きつけた状態に違いはありません。

数ヶ月位前から、上谷郡と他郡の国境の要衝に一万の歩兵を分散して送り込んでいます。

これは難楼が他郡へ逃亡、もしくは救援の使者を送る可能性を考慮してです。

難楼が頼るとしたら、一番可能性が高いのは丘力居の可能性が高いです。

丘力居の本拠地は遼西郡、彼の地から上谷郡に来るには、郡を通らねばなりません。

もし、丘力居が難楼の救援に来れば、直ぐにわかるので、あまり心配はしていません。

難楼に降伏の使者を送るなら、今でしょう。

誰を送るべきか悩んでいます。

私が出向きたい処ですが、冥琳が許さないでしょう。





ここ数日、私が降伏の使者の選定に頭を悩ませている中、私にしつこく総攻撃を求める人間がいます。

今日の軍議でも彼女は一番最初に口を開きました。

「正宗様、今や難楼は風前の灯火です。今こそ、全軍上げて、難楼の拠点を襲撃しましょう!」

白藤は勇んで声高に言いました。

「まずは難楼に降伏勧告をする」

私は彼女の意見を軽く流しました。

「な、何を悠長な!」

私の方針に不満な白藤を私は眼光鋭く睨みつけ、黙らせました。

難楼の拠点ということは、非戦闘民がいます。

彼らの拠点は城壁がある都市と違い、ただの平地、そんな場所に私達が総攻撃などしたら、それは戦ではなくただの殺戮です。

そんな真似は可能な限り避けたいです。

「白藤、急ぐ必要はない。歩兵一万が国境を封鎖しているので、難楼が逃げ果せる可能性は万に一つもない」

「何故、そう言えるのです!」

幾度となく、意見を退けられた今日の白藤はいつになくしつこいです。

「私達に気づかれずに難楼が逃げるには少ない兵しか連れていけない。それで、国境を越えられると思うのか?」

私は冷静な表情で、熱くなっている白藤に言いました。

「そ、それは・・・・・・。で、ですが、遼西郡の烏桓族が援軍を出さないとも限りません」

「仮にお前の言う通りに援軍が来ても、私達の元に辿り着くためには白蓮の治める郡を通過する必要がある。もし、そのような事態になれば、直ぐに分かるだろう」

私の言葉に白藤は悔しそうに下唇を噛みました。

彼女は本当に烏桓族が憎いのですね・・・・・・。

「正宗君、難楼に降伏勧告をするのは構わない。でも、彼奴が降伏を飲まなかったらどうする気だい」

白蓮は私を真っ直ぐ見据え、厳しい表情で言いました。

彼女はいつもの朗らかな雰囲気と違い、戦人の雰囲気でした。

彼女も烏桓族への総攻撃を望んでいるのでしょうか?

それだけ幽州の民と烏桓族の間には根深いものがあるのでしょう。

白蓮が指摘した通り、難楼が降伏を受け入れなければ・・・・・・。

最悪の結果が待っています。

難楼が降伏しなければ、彼((彼女?))に従う非戦闘員も許す訳にいかなくなります。

できるだけ考えずにいましたが、そうも行かなくなりました。

「降伏を受け入れないなら、総攻撃を行う。その時は見せしめのために、女・子供・老人問わず皆殺しにする」

私は暫く悩んだ後、重たい口を開きました。

「正宗様、お考え直し下さい! せめて、非戦闘員だけでもお見逃しください」

星が私の前に進み出てくると、膝を着き懇願してきました。

「星・・・・・・、父や兄を惨たらしく殺された者達が私達を、幽州の民をどう思う? お前達の父や兄は略奪を行った大罪人だから殺されたのだ、と言って納得できるか? できないだろう・・・・・・、人はそこまで合理的にはできていない。私達が憎まれるのは当然だ。だが、幽州の民を危険に晒すことはできない。そこで情けを掛ければ、幽州の民にとって仇となるだろう。星、私は可能な限り降伏を促す、だが、覚悟はしておけ」

私は沈痛な面持ちで、星を見つめました。

「し、しかし・・・・・・。それではあまりに身勝手でございませんか!」

星は悔しそうに顔を俯き、拳を地面に叩き付けました。

「星の言う通りだ・・・・・・。私は幽州の民を救うために、上谷郡の烏桓族を切り捨てるかもしれない。だが、それを決めるのは難楼だ。大人しく降伏すると言えば、非戦闘員には決して手を出さない。彼らの命も保証する」

私は星に歩み寄り、諭すように言いました。

「ふふ、フハハハハ、正宗様、あなたは甘すぎます・・・・・・。あなたも幽州で半年の間、この地の惨状をご覧になったでしょう! 難楼率いる烏桓族は女を攫い、犯し、売り飛ばし、生活に苦しむ民から、食料を奪っていく。彼奴等は屑です! 屑を掃除して何が悪いのです! 烏桓族など皆殺しにすればよいのです!」

白藤は腹を抱えて笑ったかと思えば、急に激昂し、私を睨みつけ、声高に言いました。

「白藤、控えよ!」

冥琳は白藤に厳しく言いました。

「はぁ・・・・・・、白藤、熱くなりすぎよ。私も烏桓族は好きではない。だからと言って、力の無い、女子供をなぶる趣味はない。私は正宗様の方針で構わない。それとも、あなたはそんな悪趣味が好みなの」

白椿は溜息を一度つくと、白藤を嗜めました。

「私にそんな趣味などない。賊共に報いを受けさせてやると言っているのだ! 彼奴等の前で、彼奴等の肉親を嬲り殺しにしてやれば、実に愉快だとは思わないか?」

白藤は白椿を腹立たしそうな表情で睨みました。

「思う訳ないでしょ・・・・・・」

白椿は白けたように言いました。

「白藤、静かにしろ! とにかく、難楼に使者を送る。軍議はこれで終わりだ。冥琳は後で私の陣幕まで来てくれ」

私は白藤を制し、軍議を終わらせました。

「正宗様、畏まりました」

冥琳は拱手して応えました。

私は軍議の会場を後にしようとしました。

「お待ちください!」

白藤が私に声を掛けてきました。

「何だ?」

私は彼女のことを面倒臭そうに見ました。

「降伏を促すと言われますが、降伏の条件は何でしょうか?」

「それを知ってどうする?」

「正宗様がいかな降伏条件を突きつけられるかが気になりました」

「この時点での降伏である以上、難楼にとって甘いものではない。即時、無条件降伏だ。上谷郡の烏桓族の武器と馬は私達が全て接収する。戦闘員には幽州各地の復興作業に5年間従事して貰うつもりだ」

私は淡々と白藤に言いました。

「その条件を飲まねば、難楼達に総攻撃を加えるということですね?」

白藤は酷薄とした笑みを浮かべ、私に確認しました。

「そうだ」

私は白藤の表情を伺いながら、短く応えると、白藤は拱手をして踵を返しました。

彼女は難楼が私の考えている降伏条件を飲まないと思っているでしょう。

多分、その可能性が高いです。

ですが、この条件を飲まなければ、幽州の民は納得しないでしょう。

そもそも上谷郡の烏桓族がそれだけのことを幽州の民に行っています。

正直、この降伏条件でも彼らの行ったことを鑑みれば、甘い裁定でしょう。

余所者の彼らがこの地で暮らしていくには、幽州の民に歩みよるしかありません。

そうしてくれれば、私が難楼達に手を差し伸べることができます。

やはり、私が使者として行くべきなのかもしれません。

でも、冥琳は許してくれないでしょうね。
 
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