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歪んだ世界の中で

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第一話 底のない絶望その十三

 希望の前に来てだ。こう言ってきたのだった。
「ここにいたのね」
「えっ、僕のこと知ってるの?」
「うん」
 そうだとだ。希望ににこりと笑って言ってきた。
 そしてだ。そのうえでだった。
「前に会ったから」
「前に?君と?」
「覚えてない?」
 少女は希望の顔を見て彼に問うた。
「その時のこと」
「ええと。何時かな」
 本当にわからずにだ。希望はだ。
 戸惑いながらだ。そのうえで少女に言ったのである。
「君に会ったのって」
「覚えてないのならいいの」
 くすりと笑ってだ。そうしてだった。
 少女は今度はだ。こう希望に言ったのだった。
「それなら名前言うわ」
「名前?君の」
「そう、千春の名前ね」
 まずはだ。そこから言う彼女だった。
「それ言うから」
「千春さんっていうんだ」
「そう、夢野千春」
 少女、千春は今度はにこりと笑って希望に答えた。
「それは名前なの」
「夢野さんっていうんだ」
 その名前を聞いてだ。希望はある小説家のことを連想した。
 そのうえでだ。こう千春に言ったのである。
「夢野久作の?」
「夢野久作?」
「あっ、昔の小説家なんだ」
 その彼のことをここで話すのだった。
「その名前なんだね」
「千春の名前はその人の名前なの」
「まあかなり変わった作品を書く人で」
 希望も夢野久作の作品は読んでいた。読書家である真人に勧められてだ。
 そのうえで読んだのだ。それで言うのだった。
「まあ異端文学とも言われてるらしいね」
「異端って」
「変わってるっていう意味かな」
 あえてキリスト教的な意味合いは隠して言うのだった。
「そういうことだよ」
「それが夢野久作なのね」
「そんなんだ。その人と同じ苗字なんだね」
「そうなのね」
「うん、それで夢野さん」
「千春でいいよ」
 だが、だった。千春はだ。
 ここでも微笑みだ。苗字ではなくそちらで呼んで欲しいとだ。
 こう言ってだ。希望の目を覗き込んできた。
 その目を見てだ。希望はだ。
 思わず息を飲んだ。そして言うのだった。
「あの、何か」
「何か?」
「僕に何かあるの?」
 目を覗き込まれてだ。戸惑いながらの問いだった。
「さっきから。僕を知ってるみたいだし」
「だから。会ったから」
「そう言うけれど」
「それでね。今からね」
 希望と離れてだ。それからだった。
 千春は一旦距離を離して両手を自分の後ろにやってだ。それからだった。
 こうだ。あらためて希望に言ってきたのだ。
「何処か行かない?」
「何処かって」
「そう。何処でもいいから」
 こう言ってきたのだ。希望に対して。
「一緒に何処か行こう」
「何処かって言われても」
 正直だ。今の希望にはだった。
 町を彷徨うしかなかった。あてもなくだ。そうしてきたからだ。 
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