| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

歪んだ世界の中で

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一話 底のない絶望その五

 登校中にだ。野田の親友である永田喜美がだ。階段の上からだ。
 茶色の柔らかそうな髪を肩のところで切り揃えている。肌は白く目は大きく星が多い、その彼女が仁王立ちしてだ。こう言ってきたのだ。
「何でまだ学校に来るのよ」
「えっ・・・・・・」
「あんたみたいなのがどうして素子にコクるの?身の程知らずもいい加減にしなさいよ」
「僕は、その・・・・・・」
「告白したければ痩せなさいよ」
 こうだ。彼を見下ろしうつつ言うのである。
「運動もできない、勉強も駄目でね」
「・・・・・・・・・」
「寄らないでよ、臭いから」
 喜美は希望を指差しつつだ。居丈高に言い続ける。彼女の周りにはクラスメイトの女子達が何人かいる。その誰もが冷たい嘲笑を彼に向けている。喜美はその彼女達を背にしてだ。
 そうしてだ。こう告げるのだった。
「本当によくまだ学校に来られるわね。どういった神経してるのよ」
 こんなことも言われたりした。そしてまた下校中にだ。今度は喜美が学校の校門のところに待っていた。そのうえで希望に対してまた陰口を言うのである。
「本当に不細工よね」
「あれで素子ちゃんに告白したのよ」
 喜美はだ。下校する希望を指差しつつだ。ここでも嘲笑してだ。
 そうしてだ。連れて来た女子達に話していたのだ。
「あんなデブがね」
「身の程を知りなさいってね」
「しかもコクる言葉がなってないわよね」
「軽蔑?っていうか」
「最低よね」
「退学すればいいのに」
 こんな嘲笑をかけることもあった。自然にだ。
 希望は言葉も笑顔もなくしてだ。常に真人のクラスに行きだ。彼と共にいるようになった。真人はそんな彼を何も言わず笑顔で受け入れてだ。二人でいるのだった。
 だがその時もだ。真人のクラスでもだ。彼の背に嘲笑の矢が突き刺さる。
「うちのクラスにしか居場所ないって?」
「友井の傍しか」
「友達あいつしかいないってか」
「どんだけ寂しい奴なんでしょうね」
 男も女もだ。彼を嘲笑するのだった。
 だが真人だけは別だった。その嘲笑を聞き流してだ。
 そうしてだ。希望に言うのだった。
「何時でも来て下さいね」
「いいんだね」
「はい、いいですから」
 嘲笑する彼等を見ずにだ。希望に笑顔で言うのだった。
「二人でいましょう」
「そうしていいんだね」
「本当に何時でも」
 こう言ってだ。彼を受け入れていた。そんな中でテストが行われた。こうした学園生活ではどうしてもあるそのテストをだ。彼も受けたのだ。一学期の中間テストだ。
 だがこうした危機的な状況で満足な成績になる筈もなくだ。彼はだ。
 学年で最下位の成績になった。それでだ。
 担任の先生、眼鏡でやや薄い七三分けの中年の男の先生にだ。こう言われたのだ。
「君、このままだと」
「留年ですか」
「かなり危険だよ」
 こうだ。深刻な顔で言われたのだ。
「それでもいいのならいいけれど」
「すいません・・・・・・」
「勉強する様にね」
 希望の事情を知らずにだ。言う先生だった。
「そうしないと駄目だよ」
「わかりました・・・・・・」
 先生にも言われだ。さらに沈む彼だった。しかもだ。
 家に帰ってもだ。両親にだ。
「御前留年したら学校辞めろよ」
「勉強しなさい」
「朝も昼も勉強しろ」
「退学したら働きなさいよ」
 こんなことをだ。毎日朝も夜も言われる様になった。彼は家にも居場所がなくなった。
 こうした四面楚歌の状況になってだった。希望は余計に真人と共にいる様になった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧