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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga16束の間のひと時~Ⅿixed feelings~

 
前書き
4期Force編が無事に連載されていたのなら、今話と前話の間に六課視点+零課共闘などのオリ話、数十話を挟む予定だったのですが、そのすべてをカットです。ルシルとはやての時間が大幅に削られることになって、もうコレ、イリスルートなんじゃないか?って感じです。


 

 
†††Sideルシリオン†††

空間キーボードのキーを打つこと早4時間。本日の終業時間をオーバーしての書類作成。最後のキーを打って、「くぁー!」と椅子の背もたれに体重を掛けながら背伸びをする。そんな俺に「お疲れ様~♪」と声を掛けてくれたのはシャルとアイリだ。オフィスに残っているのは俺とシャルとアイリのみ。

「ああ、ありがと。シャルとアイリもお疲れ様。別に俺が終わるのを待っていなくても良かったのに」

「アイリはどっちみちマイスターと同じ部屋に帰るし」

「わたしは部隊長として部下をしっかり帰宅するのを見届けるのも仕事だもん。・・・って、嘘。ルシルと長く一緒に居たいから♡

そう言って少し頬を赤らめて笑顔を浮かべるシャルを見て、アイリが「むぅ。いい笑顔だね・・・」と悔しそうに呻く。ガーデンベルグとの邂逅以降、シャルはそれまで以上に俺と一緒に居ようとするようになった。ガーデンベルグという俺の消滅の要因となる存在と邂逅したことで、いよいよ実感し始めたのだろう。

(シャルから連絡を貰ったはやてトリシュも、よく顔を出しに来るようになったしな~)

――こんにちはルシルさん! なかなかミッドに降りてきてくれないので遊びに来ました!――

ミッド北部にあるベルカ自治領ザンクト・オルフェンの聖王教会騎士団に所属しているトリシュも、休みの日になると本局にやって来ては俺たち特騎隊と昼食を一緒にするようになった。

――あ、ルシル君。毎日お疲れ様や♪ お弁当作ってきたから、一緒に食べよ♪――

この半年の間ではやてたち特務六課はフッケバイン事件を解決したし、エクリプスウィルスの完全治療もシャマルたち医療班が成し遂げ、フッケバイン一家は殺人衝動から解放された。今は一家揃って仲良く軌道拘置所にぶち込まれている。
トーマはというと、今はリリィと共にナカジマ家に正式に引き取られ、学校へ通うための手続きを行っているそうだ。

「はは、嬉しいことを言ってくれる。しっかし、局の最大戦力と言われている俺たちが日々書類仕事とはな。肩こりや腰痛はまだしも、無事な右目の眼精疲労がとんでもない」

レーゼフェアによって奪われた左目の視力は今なお戻らず。日常生活では不便していないし、戦闘行為中もアイリがユニゾンしてくれている間はあの子の視界を借りることで間に合っている。ただ、細かい文字を見続けるデスクワークにはかなりキツい。いったいどうすれば元に戻せるのだか。

「ここ最近はずっとデスクワークだからやっぱり辛いよね。辛かったらアイリとのユニゾンも許可するよ?」

「アイリは大歓迎!」

目を輝かせているアイリには悪いが「やめておくよ。アイリにも仕事があるしな」とやんわり断る。俺のオマケなんかじゃなく、あの子も立派な管理局員。俺の都合でその仕事を邪魔するわけにはいかないだろう。残念そうに「ちぇー」と口をすぼめるアイリに、「自分のことを疎かにしないように」と苦笑いしながらアイリの頭を撫でた。

「でもまぁ、戦闘続きじゃないのは助かるけど、全くないのも考え物よね」

「だな。・・・最後に戦闘行動を行ったのは、第101無人世界リーグだったか」

「しかもT.C.じゃなくて、現場の防衛機構ね。T.C.と戦ったのって、半年前の第1無人世界ファーストで最後だよ」

「・・・もう半年か。グングニルどころか、すずかに修理してもらったエヴェストルムも埃を被りそうだ」

ガーデンベルグとの再会を果たしてから半年、正確には8ヵ月と少し。あれ以来、“T.C.”とは一切遭遇していない。ファースト以降の数ある無人世界にも回収任務で訪れたが、回収目標が安置されていた遺跡や廃施設の生きていた防衛機構と戯れただけだ。

「ルミナ達も、体がなまるのが嫌だからって毎日トレーニングルームで模擬戦してるしね~」

「君も後で参加するんだろ?」

「うん。ちょこっと体重が増えてきてさ。やっぱ動かないとダメだね~。ルシルは?」

「俺は遠慮しておくよ。太ってないからな♪」

「わ、わたしだって太ってないよ! 体重が増えただけでお腹周りのお肉は増えてないし、スタイルだって変わってないし!」

「誰も君が太ったなんて言ってないだろ」

ジャケットを脱いでブラウスまで捲し上げ、引き締まった白い肌の腹を見せつけてきたシャルは、「触ってみてよ!」と言ってきた。だから俺は「見れば判るからしまえ」とブラウスを下ろそうとするんだが、「や! ちゃんと確かめて!」と俺の右手を掴んできて、自分の腹に当てさせた。

「ほ、ほら! 太ってないでしょ!?」

「あ、ああ、普通に柔らかいが、このくらいの肉がないと逆に不健康だからな。うん、太っていないぞ」

ほんのりプニプニしているシャルの腹肉。摘まめる肉も無かったら病気を疑うが、シャルのプニさは健康体そのもの。俺がそう言うと「えっへん! でっしょ~♪」と胸る張るシャルを見てアイリも「アイリも見て!」とブラウスのボタンをすでに最後の1個まで外していたから、「こらこらこら!」と制止。

「そうやってすぐに肌を晒そうとするのは本当にやめなさい。もう心配だぞ? 俺が居なくなってからもこんな感じじゃ、はやて達が慌てふためくぞ」

アイリがボタンを掛け直そうとしないから、代わりに下のボタンから掛け直していた俺が何気なしに口にした言葉に2人は「っ!!」ビクッと体を震わせた。そしてず~んという擬音を幻視してしまうほどにガックリと肩を落とした。

「思い出したくなかったのに・・・」

「むぅぅ~~~~。やーだー! やっぱりやーだー! ルシルと離れ離れになるなんて耐えられないぃ~~~!! アイリも一緒に帰――逝くぅぅ~~~~~!!」

アイリは俺が死ぬのではなく、アースガルドへ帰るということを知っているから言い間違えそうになっていたが、すぐに死ぬと訂正。感情を爆発させたように見えても割と冷静だな、アイリ。さて、どうやって2人を宥めるかを考えようとした時・・・

「どないしたん!? アイリの泣き声が廊下まで聞こえてたで!?・・・って、ルシル君? 何してるん?」

「は、はやて・・・!?」

オフィスの入り口には目の笑っていない笑顔を浮かべているはやて。彼女の後ろにはアインスとリインも居て、アインスは呆れたような表情。リインは顔を真っ赤にしていて、恥ずかしがっているのか、もしくは怒っているのか、どちらにせよあまりいい顔じゃない。
いやまぁ仕方ないよな。はやて達から見れば、泣いているアイリのブラウスを無理やり脱がせているような形(実際はボタンを掛け直しているだけなのに・・・)だし、それで泣かせているようだし。シャルはシャルでいつまでもブラウスを捲し上げているし。まるで俺が命じて捲し上げさせているみたいじゃないか。

「ルシル君はエッチです」

「待ってくれリイン! 誤解だ!」

「ルシルよ。同意であればそういうプレイもいいだろうが、無理矢理は許せんな」

「アインスも! 違うんだ!」

「ルシル君」

はやてからの圧に思わず「はい」と敬語になってしまう。はやては笑顔を浮かべたまま、自分の胸、腹、尻と順に触った後、顔を赤くして「二の腕なら触ってええよ!」なんて言ってきたから、俺はガックリ肩を落として「勘弁してくれ」と嘆いた。

「そうか~。シャルちゃんとアイリが沈んでた理由は・・・」

「ルシルとの別れが現実味を帯びてきたことを改めて理解したことでの落ち込みか」

「リインにも理解できますよ。ルシル君が居なくなっちゃうの、悲しいです・・・」

なんとか誤解を解いたんだが(はやては、初めから解ってたよ?♪と言っていたが・・・)、シャルとアイリがヘコんでいた理由を知り、リインは今にも泣きそうな感じだし、はやてもシャル達みたく影を落とした。アインスは特段様子は変わらない。まぁ俺の正体、死ではなく帰還だということを知っているからな。

「ルシル君。本当にもうすぐ居なくなっちゃうのですか?」

「もうすぐ・・・とはいかないよ。ガーデンベルグとは半年以上前に1回遭遇しただけだし、リアンシェルトもまだ救えていない。ガーデンベルグを救い、神器ユルソーンを破壊せずに回収さえすればリアンシェルトを最後に回してもいいが・・・」

ガーデンベルグの居場所を知るために先にリアンシェルトを救うという話だったが、どういうわけかガーデンベルグの方から姿を見せた。いやまぁ嬉しい話なんだが。リアンシェルトが言うには、ガーデンベルグより今現在の自分の方が強いらしいし、先にガーデンベルグを救ってからリアンシェルトを救い、そして最後に“ユルソーン”を破壊・・・。これが大まかな流れになるか。

界律の守護神(テスタメント)から解放され、アースガルドへ帰還し、シエルとシェフィリスとカノンの魂を解放する・・・か)

リアンシェルトは今もなおベルカで俺が来るのを待っている。あの子の居場所が判明しているなら、コンタクトしてきたガーデンベルグから先に救う方が早道だろう。

「シャルちゃんやトリシュとも話してたんやけど、ユルソーンを破壊させずに私たちが管理すればルシル君の死は回避できるってゆうのはどうなん?」

「すごい事を考えるな君ら」

ここに居る分身としての俺がオリジナルだった場合はそれで良いかもしれないが、問題があるのは“神意の玉座”に在る俺のオリジナルだ。そちらが先に潰れれば、おそらく俺も消滅する。だから「無理だ。ユルソーンを破壊しなくても、どのみち俺は30歳を迎えるまでには死ぬ」と断言した。

「「「っ!!」」」

俺の真実を知らないはやてとシャルとリインが辛そうに目を伏せた。そんな彼女たちに「花瓶を俺とすると・・・」と例えを交えて、今の俺の状態を伝える。今の俺はいつ割れてもおかしくない程にひび割れた花瓶で、注がれた水は魔力であると。常時ヒビから水が漏れ続けていて、底を尽いたらそれが死ぬときだと。今はリアンシェルトのおかげで水漏れが酷かったヒビは塞がっているが、ひび割れが完全に直ったわけじゃなく少しずつ元に戻っていると。それはもう二度と修復されないものだと。

「ユルソーンは花瓶を綺麗さっぱり砕くハンマーのようなものだな。いつまでもボロボロな姿を無様に晒す壊れかけの花瓶の幕を降ろすための・・・。こちらからハンマーを使って早々に壊すか、壊れるまでずっと見届けるか、そのどちらかしかなく、壊れること――死ぬことは確定している。すまないな」

「ううん。・・・30歳まで、か・・・」

「もう5年もあらへんのやね・・・」

「5年なんてあっという間ですよ」

「そうだな。だからさ、こんな俺だけど、その最期の時まで仲良くしてあげてくれ」

俺がそう言って頭を下げると、はやては「当たり前や」と右人差し指で涙を拭う仕草をし、シャルは「あったりまえでしょ!」と両手を腰に当てて胸を張り、リインは「ずっと、ずぅーっと仲良しですよ」と泣き笑い。

「ありがとうな」

はやて達が落ち着くのを待ってから、「ところで、零課のオフィスへ何しに?」と聞くと、アインスは「お前とアイリを迎えに来たのだ」と答えてくれた。聞けば今日は月に一度あるかどうかの八神家が勢ぞろい出来る日で、それなら俺とアイリも呼ぼうとなったらしい。

(本局勤めの昼休みは共通だから時間を合わせやすいが、夕食となると途端に合わなくなるからな)

「そうゆうわけで誘いに来たんやけど、ルシル君とアイリのこれからの予定は? ひょっとしてまだ何かあったりするんか?」

「いやもう終わっているよ。これから帰ろうとしていたところだ」

「うん」

「そっかぁ、それは良かった。・・・あ、シャルちゃんはどないや?」

「あ、ごめん。これからルミナ達とトレーニングなんだ。それに、八神家の集いにお邪魔するのも悪いし・・・」

シャルがはやての側まで近寄り、「零課(わたし)が独り占めしてるからね。はやてにもルシルとの時間を過ごしてもらわないと公平じゃないよ」と、俺に聞こえないようにするためなのかどうかは判らないがそう耳打ちしたのが薄っすら聞こえた。するとはやてもシャルの耳に顔を近付けて「おおきにな♪」と礼を言った。

「それじゃわたしはお先に失礼♪ お疲れでした~♪」

ウィンクしながら敬礼してオフィスから去っていくシャルに「お疲れさまでした」と俺たちも敬礼して、その後姿が見えなくなるまで見送った。

「私らも行こか」

そうして俺たちもレストラン街へ向かう。その道中にはやてが「なぁ、ルシル君」と呼んできたため、隣を歩く彼女を軽く見ながら「ん?」と応えた。

「ルシル君たちセインテストシリーズは、先代が死ぬと新しい個体が製造されるって言うてたやんか」

「ああ」

「その、ルシル君が・・・万が一にも負けて亡くなった後、新しいセインテストの子が生まれるんよね? 私らはその新しい子のこと、どうすればええんかな? も、もちろんルシル君がそんな事になるなんて思うてへんよ! それは信じてる!」

「そんなに焦らなくてもいいって。解っているよ。職業柄常に最悪の事態は想定しておくものだ」

「うん、おおきに。でな、保護した方がええんやろかって話なんよ。ルシル君の記憶も持ってるんよね? 戸籍や財産などはマリアってゆう協力者が用意してくれるようやけど、住む場所とかはどうすればええんかな? ルシル君だって臨海公園で野宿してたし、その子も孤独に野宿なんてことにはしたないんよ」

はやてと出会ったあの日が、俺の起動日だという話をしたのを思い出した。あながち嘘ではないからぼろを出す心配もない。何せベルカ時代からずっと眠っていた俺が目覚めたのがあの日だったからな。体が子ども化していたことにも驚いたが、いきなり何百年も経過していたことにも驚いたものだ。

「そうだったな。随分と昔の話なのに、今でも鮮明に思い出せるよ」

「ふふ、私もや♪」

「で、質問の答えだが、向こうから助けを求められたらでいいんじゃないか? 俺の記億もあるし、金も用意してもらっているからホテル住まいでもするだろう。今の俺が負けるとなれば、相手はおそらくリアンシェルトだ。ガーデンベルグは今回のT.C.事件で確実に救うからな。リアンシェルトはベルカに居る。だからはやて達がわざわざ手を貸すことはないと思うぞ」

「うーん、そうなんか? でも起動直後って、9歳くらいの子どもの姿なんやろ? いくらセインテストのファミリーネームでも通報されかねへんよ? てゆうか、起動時の背格好や年齢設定は共通なん?」

「オーディンの時は大人の姿だったな。世代を経るごとに低年齢化が進み、俺の時は9歳。次代はひょっとすると5歳? 最悪赤ん坊かもしれないな」

もう平然と噓を重ねる俺の言葉に、「赤ん坊・・・。ルシル君が赤ちゃんに・・・」と、はやてがうんうん唸りながら何かを考え始めたからアインスが「主・・・?」と声を掛けた。

「ええな。ルシル君の記憶を持った赤ちゃんをお世話するの、なんかそそられるな」

そう言ってニヤっと笑うはやてに俺はゾッとした。そんな未来は100%来ないが、もしそれが実現したとすると、赤ん坊の所為でお世話・子育てという名目でいろいろとされてしまうことになる。食事も風呂もそうだが、トイレが最大の恥辱だ。はやて達にオムツを変えられるなど自殺ものだ。

「と、とりあえず俺とは別人だからと言ってあんまり無茶はしないでくれよ? あと、ショタコンを拗らせないようにな?」

「ショタ・・・!? も、もう! そんなん拗らせへんよ!・・・たぶん」

「たぶんて・・・。ま、そんなことにならないよう、俺の代でセインテストの使命を終えるつもりだ。心配してくれてありがとう、はやて」

「・・・うん」

頭を撫でようかと思ったがはやてももういい歳をした大人の女性、それは失礼になるんじゃないかとふと思ってやめた。後ろからそんな俺の手の動きを見ていたリインが「あれ? ルシル君、はやてちゃんを撫でないですか?」と聞いてきた。

「え、あ、いや・・・」

「ルシル君、私のこと撫でようとしてくれてたん?」

「そうしようとは思ったんだが、はやても25と大人の女性だ。幼少の頃ならまだしも・・・」

「私はいつになっても撫でてほしいなぁ。好きな人に触れられるのは幸せや♪ とゆうわけで、ほらほら、撫でて~♪」

頭を俺に向けて差し出してきたはやて。彼女にそこまで言われたら断れないだろ。そっと彼女の頭に左手を置き、その柔らかな髪を乱さないようにゆっくりと撫で始めると、「うん。大人とか子どもとか関係あらへん」と小さく笑い声をはやてはあげた。

「気持ちええよ、ルシル君」

「そうか。それは良かったが、続きはあとにしよう。他の局員の目がある」

俺たちが歩いていたのは他の局員も利用する廊下。微笑ましそうに俺たちを眺めながら通り過ぎていく彼らの視線に、居心地がちょっと悪くなってきた。はやては「あとでもしてくれるん? それは嬉しいお誘いやな♪」と満面の笑みを浮かべて頭を上げた。

「はやてばっかりずるい。アイリも撫でてほしい!」

「リインもです! ルシル君、リインも久しぶりに撫でてください!」

「わ、判った。判ったからあとでな」

シグナム達が待っているというレストランへ向かう中、俺は前を歩くアイリとリインの頭を撫でていた。ちなみにリインの発案で、これなら移動中でも撫でられるですよ、とのことで、歩きながら頭を撫で続けることに。まぁそれはいいんだが、時折ふたりが「ふぁ」とか「はふぅ」とか、妙に色っぽい声を漏らす。

(俺、事情を知らない人からセクハラとかで通報されないかな・・・?)

リインはまだ子どもだが、アイリは俺やはやてより身長が高く、はやてよりスタイルが良い。あの子に変な声を出させているのだから、通報されるのも仕方ないかもしれない。そんなわけで「はい、おしまい」と早々に切り上げる。

「「ええー」」

「不満は受け付けんぞ。これ以上続けたら俺はきっと捕まる」

「はーい!」「はーいです~!」

アイリとリインが笑い合い、リインが「アインス、行きますよ!」とアインスの手を取って引っ張った。アインスは「なに? あ、こら、リイン!」と困惑したが、少し無言が続いた後、「主はやて。お先に行っていますので、ルシルとゆっくりと」とはやてに小さく頭を下げた。

「別に気を遣わへんでもええのに」

「はやてちゃんとルシル君、なかなか2人きりになれてなかったですから。ルシル君。はやてちゃんをお願いです!」

リインからの真剣なお願いに「ああ。判ったよ」と頷き返して、はやての右手を握った。それでリインは満足そうに笑みを浮かべ、アイリとアインスを連れて駆け出した。それを見送った俺とはやては顔を見合わせ、「家族に恵まれたな」と笑い合った。

「じゃあルシル君。エスコートよろしくな♪」

「お任せを」

はやてに店の名前を聞き、キュッと俺の手を握り返してくれたはやてと一緒に歩き出した。会話はないけど、その時間が心地よかった。だから少し迷ったが、「なぁ、はやて」と俺は話を切り出した。

「ん?」

「はやてだけじゃなく、シャルやトリシュもそうだが、俺が居なくなった後は新しい恋を――」

「せえへんよ? 私はもちろん、シャルちゃんもトリシュも、きっと・・・。ルシル君以外と恋をするなんてもう考えられへん。もし結ばれへんくても、もう私に家族がおる。そこに今更別の人を入れるつもりはあらへん。・・・って、前にも似たような話したで? はっ。ルシル君、もしかしてボケ――」

「てない。俺もさ、ガーデンベルグと会って思い知ったんだと思う。はやて達との別れが本当に近付いているのを。だからその時が来るまでに身辺整理というか、再確認というか・・・」

「そっか~。・・・私らの想いはずっと、ルシル君だけのものや。そやから新しい恋人なんて作らへんよ~♪ ふふふ~♪ 私らが恋人を作るかどうか不安になってるルシル君。ええ感じに惹かれてくれてるな~」

はやてが俺の頬を人差し指でツンツンと突いてきたから、「不安になんてなってないが?」と甘んじて指を受け入れながらそう返したら、「うっそや~。不安そうな顔してたよ。正直になったらどうや~?」と今度はわき腹を肘で小突いてきた。

「してない」

「してた~」

「してない」

「してた~」

「「・・・」」

俺が居なくなった後、はやて達の隣に俺の知らない男の姿。本当はそんなこと考えても仕方ないし、何より祝福すべきことなのに受け入れたくなかった。本当に俺はこの世界が、この生活が恋しいんだな。やっぱり別れたくないな・・・。

「ルシル君・・・?」

「してました。・・・したよ。不安になったよ」

「っ! それは、嬉しい話やな♪」

ギュッと俺の腕に抱き着いてきたはやてに俺は「ありがとう」と礼を言った。きっと俺はリアンシェルトとの再戦ですべてを出し切り、はやて達のことを忘れてしまうだろう。それが申し訳ないのに、俺のことを覚えてくれている人が、想ってくれている人がいる。それが俺の心の支えになっていることを改めて実感できた。勝手な話だがな、それが嬉しいんだ。

(だからどうか、はやて達みんなに幸せが1つでも多く訪れますように)
 
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