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若者は旅立って

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第一章

               若者は旅立って
 新山良晴は悩んでいた。何とだ。
 たまたま町で引いた懸賞で特等を当てた。がらがらぽんから出てきたのは金色の小さな玉だった。それが出た瞬間に前にいたおじさんが手に持っている鐘を派手に鳴らして言った。
「おめでとう、ヨハネスブルグ行き決定だよ」
「待てこら」 
 良晴はそのおじさんに即座に言い返した。
「何がヨハネスブルグだ」
「無料で行けるよ、よかったね」
「あんなとこに行ってどうするんだ」
 良晴はおじさんにさらに言い返す。
「北斗の拳の世界に行けってのかよ」
「治安は悪いらしいね」
「悪いらしいじゃないだろ」
 そのヨハネスブルグはどうかというのだ。
「洒落になってないだろうが」
「ワールドカップも開かれたよ」
「観光客あまり行かなかったらしいな」
「危ないからね」
「おっさん今言ったな。危ないってな」
「ホテルの中にいてもね」
 それでもどうかというのだ。ヨハネスブルグというと。
「ホテルマンが襲い掛かって来るらしいね」
「強盗殺人にだな」
「警察も入られないビルがあって市街地のカバーの下には死骸があって」
「内戦中じゃないよな」
「違うよ」
「それでも車は立ち止まれないんだったな」
「そこからすぐに歩行者のふりをした追剥が来るからね」
 これが実際にある。,
「ワイルドだよ」
「ワイルドじゃねえだろそれは」
 良晴はむっとした顔で言い返す。
「バイオレンスっていうんだよ」
「核戦争後の世界か大地震の後の関東だね」
「どっちにしても碌なものじゃねえな」
「それか魔界都市かね」
 おじさんは碌でもないことをにこにことして話す。
「まあ凄いところだよ」
「生きて帰ってこれるのかよ」
「殺人件数は日本の四十倍だよ」
 内戦状態でもないのにこの割合だ。
「そこに行くから。楽しみにしておいてね」
「断るからな」
 良晴は怒りに満ちた顔で言い切った。
「あんなところ誰が行くか」
「アマゾンに行くよりはましだと思うけれど」
「あそこは魔境だろうが」
 ピラニアにアナコンダ、サンゴヘビにジャガー、勿論鰐やデンキウナギも健在だ。しかも尻に入って血を吸う魚までいる。
「それレベルの町じゃねえか」
「大丈夫だよ。そうした動物はいることにはいるけれど」
「いるのかよ」
「ちょっと大きい鼠がいてね」
 おじさんはその鼠の話もする。
「隙を見せたら赤ん坊さらって食べるんだよ」
「ブロンクスの鼠かよ」
「ああ、男坂であった」
「そのまんまじゃねえかよ」
 鼠まで凶悪だった。良晴はヨハネスブルグに対して絶対の拒否反応を感じてそれでおじさんにまた言った。
「行かないからな」
「やれやれ。残念だね」
「大体町の懸賞で何でヨハネスブルグなんだよ」
「前のワールドカップのチケットが余ってるんだよ」
 余るのも当然だ。場所が場所だからだ。
「それでこっちに回ってきたけれど」
「モヒカンがバイクに乗って乗り回してる世界でよく開いたな」
「モヒカンはいないよ」
「例えだよ。とにかくな」
 行かない、誰が行くかと言い続ける良晴だった。しかし。
 おじさんは彼ににこりと笑って今度はこんなことを言った。
「若し行けばね」
「死ぬだろ、絶対に」
「就職できるよ」
 人参だった。それもかなりの大きさの。
「この八条商店街の商工会議所のね」
「この商店街ずっと賑やかだけれどな」
 多くの商店街が寂れていく中この商店街は賑やかさを保っている。商店街側の努力と立地条件、それに観光場所になっているからだ。
 それでこの商店街は賑やかだ。その商店街の商工会議所となると。 
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