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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第259話「蘇りし英雄達」

 
前書き
駆け足気味に地球等での戦闘は流していきます。
なお、今回は某FGOのある展開を参考にしました。 

 














「準備はよろしいですね?」

「はい……!」

 各地で戦闘が開始されている中、地球には司と祈梨がいた。
 二人を守るように、他の面々が戦っている中、二人はただ“祈る”。

「“世界”には全ての記録が刻まれています。星の誕生も、その地で起きた全ての事象も、人々が紡いだ英雄譚も、そしてあまねく全ての滅びさえも」

「………」

 “根源”へと、二人は近づいていく。
 物理的ではなく、“祈り”を届けるように、想いが近づく。

「あのイリスにより、この世界の“可能性”は拓かれました。……既に土台は出来ています。私たちは、人々の祈りに耳を傾けるだけでいいのです」

「………」

 司は目を瞑り、心を落ち着けていく。
 すると、聞こえてくる。
 世界中から響く、救いを求める声が。

「聞こえるでしょう。地球だけでなく、この世界全ての生命の声が」

「……皆、助けを求めてる……」

「イリス達による攻撃に、皆晒されているのです」

 “誰か助けてくれ”と、強い祈りが司に届く。
 その祈りは強いだけでなく、数が多い。
 まるで嵐に晒されるように、司はその祈りに精神を揺らされる。

「それらの祈りで、“世界”の後押しをすれば、抑止の力が働きます」

「抑止……?」

「……世界そのものの意志が、危険を排除しようと動くのです。天変地異だろうと、過去の何かを蘇らせようと、とにかく何か抑止となる存在を生み出します」

 このまま司達が何もしなくとも、抑止の力は働くだろう。
 否、既に“領域”として敵の“性質”を抑圧している。
 それだけでは足りないからこそ、司達で後押しするのだ。

「行きますよ。人々の祈りを、今こそ解き放ちなさい……!」

「ッ……はい!」

   ―――“我、聖杯に願う(ヘブンズフィール)

 二人同時に、杖を掲げる。
 直後、二人に集中していた救いを求める“祈り”が解き放たれた。
 極光が立ち昇り、一際強い光が上空に顕現する。

「「……来たれ!抑止の力よ!!」」

   ―――“世に刻まれし兵達よ(エロー・イストワール)

 そして、その光が弾け飛び……世界中が淡い光に包まれた。











「ぁ、ぐっ……!?」

「ロッテ!」

 一方、地球のイギリスにて。
 ここには誰も戦力として配置していなかったが、戦える者はいた。
 闇の書事件以来隠居していたギル・グレアムと、その使い魔のリーゼ姉妹だ。
 だが、当然ながら三人で抑えられる程敵は弱くない。
 先の襲撃に続き、完全に遊ばれていた。

「ッ……!」

 度重なる蹂躙に、リーゼ姉妹もギル・グレアムも完全に心が折れていた。
 むしろ、潔く死ねた方が万倍もマシだっただろう。
 神界の神に対し、中途半端に戦える力があったために、何度も殺されていたのだ。

「………」

 立ち上がろうとして、力が入らない。
 心が折れたために、膝立ちの状態で呆然としていた。
 そんな三人に、襲って来た“天使”がトドメを刺そうとする。
 手始めなのか、見せしめなのか、最初に標的となったのはリーゼロッテだ。

「ロッテ―――」

 リーゼアリアの声が虚しく響く。
 直後、理力の剣が振るわれ―――











「なっ……!?」

 ―――世界が淡い光に包まれた。
 同時に、理力の剣が別の剣に阻まれた。

「無事か?」

「……君は……」

 リーゼロッテを庇うように、一人の青年が立っていた。
 まさに物語の騎士のような青年に、ギル・グレアムは恐る恐る声を掛ける。

「下がっていてくれ。ここは、我らに任せてくれ」

 そう言って、青年は“天使”を退ける。
 力強い剣技により、理力の剣を弾き飛ばす。

「告げる!円卓の騎士達よ!ブリテンを……否、世界を救うため、今再びアーサー・ペンドラゴンの下へ集え!」

 そして、剣を掲げて()()()()()は宣言した。

「アーサー、王……!?」

 その名をイギリス生まれのギル・グレアムが知らないはずがなかった。
 かの有名なアーサー王伝説、その主役でもあるアーサー王なのだから。

「異界より来た蛮族よ、ここからは勝手はさせない……!」

 何人もの騎士を連れ、アーサー王はそう宣言した。













 同時刻、日本では……

「ッ……!」

 各地に式姫が散らばり、それぞれが思い入れのある場所を守っていた。
 その中の一人、コロボックルは北海道で激闘を繰り広げていた。
 ……厳密には、防戦一方で耐え凌いでいる状態だった。

「そこだヨ!」

 鋭い一射を反撃として放つ。
 しかし、理力の障壁で阻まれ、再び弾幕に襲われる。
 これでも、つい先程よりはマシな戦況になったのだ。
 世界中が淡い光に包まれた瞬間、コロボックルは力が漲るのを感じていた。
 おかげでただ蹂躙される状態から、防戦一方まで持ち込めている。
 ……尤も、そこ止まりだが。

「負けられない……!負けられないんだヨ!」

 弾幕に晒されながらも、懸命に反撃を放ち続けるコロボックル。
 だが、怯みはしてもそこから一転攻勢にはならない。
 防戦一方は続き……ついに、直撃を喰らってしまった。

「ぁ、ぐ……!」

 吹き飛ばされ、立ち上がろうとした所を壁に叩きつけられる。
 そして、トドメの集中攻撃が放たれる。その瞬間。



「トケ!!」

「なに……!?」

 指示を出していた神に、一匹の猟犬が噛みついた。
 それにより、僅かに攻撃が遅れる。
 その間にコロボックルはその場から助け出された。

「行って!貴方達!」

 さらに、北海道に住まう様々な野生動物が神に襲い掛かった。
 本来なら大した事がない鳥なども、何かで強化されているのか侮れない強さを持っており、その事に神は狼狽える。

「大丈夫?アイヌの小人さん」

「なんとか……」

 そう言いながらコロボックルは立ち上がり、助けてくれた“少女”を見る。
 その少女はまるで雪ん子を連想させるような青白い衣装に身を包んでいた。

「私はシトナイ。この世界を守るために、一時的に現代に蘇ったわ」

 見知らぬ少女に、コロボックルは誰なのか尋ねようとして、先に答えられる。
 シトナイ……それは、アイヌの伝承にある大蛇を討伐した少女の名だ。

「邪魔だ!」

 その時、敵が理力を放出し、襲い掛かっていた動物達が吹き飛ばされた。
 吹き飛ばされた動物達は各々体勢を立て直して着地する。

「私以外にも、アイヌの伝承に残る様々な存在が召喚されているわ。……まだ行けるわねアイヌの小人さん。……私達で、ここを守るわよ!」

「……わかったヨ!」

 コロボックルは奮い立つ。
 このまま一人では、結局負けていただろう。
 それでも、“何とかする”と優輝達に言われていたため、信じて戦い続けた。
 その結果が、シトナイ達アイヌの英傑の登場だ。
 仲間がいるのなら、もう諦観なんてする必要はない。

「吼えよ我が友、我が力!!」

 シトナイの号令と共に、反撃が始まった。













『聞け!世界に生きる、全ての生命達よ!』

 声が直接脳に響くように聞こえる。
 その声は、男性にも、女性にも聞こえた。

『今、汝らの願いは聞き届けられた!異界より現れし神々を退けるため、世に刻まれた我らが手を貸そう!』

 それは、世界の“意志”であり、各地に現れた存在達の声だ。
 意志を通じて言葉の壁なく、声が伝わる。

『剣を取れ!周囲を見ろ!そこに汝らの守るべきモノがあるのなら、立ち上がれ!恐れる事はない、汝らには神が、英雄がついている!』

 既に、世界の各地で戦況が変わっている。
 蹂躙されるだけだった戦闘から、拮抗した戦闘へと。
 歴史に刻まれた様々な神や英雄達が現れ、神界の神々へと牙を剥いたのだ。

『決して、この世界を好きにさせるな!』

 声が力となり、世界に満ちる。
 ただの一般人であろうと、戦う意志さえあれば、戦えるようになる。
 それに気づいた者は、全体の3割にも満たないが、力及ばずとも戦おうと思った者は全員気づいていた。





「………そういう事だ。あたし達も、反撃と行くよ」

 それを幽世で聞いていた紫陽が、周りを見渡しながら言う。
 幽世にいる式姫や妖は既に戦いに出張っている。
 ここにいるのは、紫陽ととこよ、そして幽世に来た避難民と以前の幽世の大門の時に死んでしまった者達だ。

「魔導師連中は現世にいる魔導師と合流。その後は好きな場所で戦ってもいい。退魔士も同じく現世の退魔士と合流しな!

 さすがに戦闘を知っている魔導師と退魔士の行動は早かった。
 紫陽の指示を受けた直後から、すぐに現世への門を潜っていく。
 その後は、言われた通り同僚と合流するだろう。

「その他、戦う意志がある連中はあたし達の武器を貸す!……なに、本来死ぬような攻撃を受けても、あんたらが諦めない限り、負けないよ」

「け、けど……」

「だったら、ここで怯えて守られているかい?別に、それをあたしらは責めはしないさ。……だけど、あんたらにも守りたい存在があるんじゃないのかい?」

 大門の件で死んだ者は、それなりの数がいる。
 単に逃げ遅れた者や、最初に被害に遭った者。
 ……そして、誰かを守るために囮になった者も。

「ッ……」

「あんたらが死んだのはあたしらの責任だ。そこは変わらないし、時間を掛けてでも償う気さ。……でも、根本の原因は今襲ってきている連中だ」

 誰かを守るために奮起した者もいる。
 しかし、それ以外の者はまだ萎縮していた。
 そんな相手に、紫陽は今度は怒りや憎しみで焚きつける。

「一発ぐらい、一泡吹かせてやりな!周りは味方だらけなんだ、あの声も言った通り、恐れる必要なんてないんだからさ!」

「……や、やってやる!俺はやってやるぞ!」

 一人が、恐怖を抑えるようにそう言った。
 そうなれば、後は連鎖的に立ち上がっていった。

「良く言った!なら、武器を取りな!そして、あたしととこよについてきな!」

 紫陽ととこよが先導し、残りの者達も武器を手に取ってついて行く。
 戦力としてなら、結局は紫陽ととこよ以外大した事はないだろう。
 だが、重要なのは“戦う意志”だ。それさえあれば、敵と戦う事が出来る。
 そして、人々が“意志”を強く持てば、それだけ世界の“領域”が強まるのだ。
 故に、紫陽は人々を鼓舞したのだ。

「………」

 それでも、戦う事を恐れ、残った者もいる。
 その事を責める者はいない。何せ、周りの者も同じ気持ちで残ったからだ。

「―――何を辛気臭い顔をしておる」

 そこへ、一人の女性が声を掛けた。

「あやつも別に責めないと言っていたじゃろうに」

「っ………」

「……いや、自分で自分が許せぬのか」

 皆は戦うと言って立ち上がった。
 だが、自分はそれが出来ずに残った。
 そう言った自分の弱さ、不甲斐なさを許せなかったのだ。
 だから、誰もが気まずそうに俯いていた。

「自身の弱さが憎いか?じゃが、それで結局動けなければ意味があるまい」

 女性は敢えて励ましの言葉を掛けない。
 同情した所で、彼らには何の慰めにもならないと分かっていたからだ。
 だからこそ、“別の道”を示す。

「戦えぬのならば、戦う者を信じよ。信じて、勝利を想え」

 幽世でなくとも、世界のどこかで怯えているだけの者がいる。
 それでも、戦っている誰かを信じているのだ。
 “信じる”だけなら、どれだけ弱くとも出来るのだと、女性は言う。

「今、あらゆる生命の“祈り”が力となっている。……お主らが信じれば、戦いに行った者達も強くなるのじゃ」

「……」

「自分が力になれないのならば、誰かの力となれ。出来るじゃろう?」

 “出来ない”と思う者はいなかった。
 誰かのために祈るぐらいなら、さすがの彼らにも出来るからだ。

「よろしい。では、儂も行こうかの」

 彼らの祈りにより、自身に力が漲ったのを女性も感じ取った。
 そのまま、彼女は現世への門を潜る。

「せっかく戻って来たのじゃ。あやつとも、会っておかねばな」

 そう言って、とこよの恩師“吉備泉(きびのいずみ)”が現世に舞い戻った。







 神の権能が振るわれる。
 天気は荒れ、あらゆる天変地異が神界の神へ牙を剥く。
 本来であれば、確実に無差別な災害だ。
 だが、それらは決して地球の者へ被害を与えない。

「はぁああっ!!」

 そんな嵐の中を、いくつもの人影が駆け抜ける。
 そして、権能に梃子摺っている神や“天使”へと肉薄し、攻撃を仕掛けていた。 
 それらの人影は、皆伝説や神話に伝えられる英雄達だ。
 否、それだけでなく、神話の神すらもそこにいた。

「シッ……!」

 その中に、とこよもいた。
 刀を手に、神々の起こす天変地異すら味方につけて敵と渡り合っている。
 既に二度も神界の神と長時間戦闘をしたのだ。
 もう理力の対処にも慣れており、一対一であれば負ける要素はなかった。

「……さぁ、文字通り八百万の神が相手だ。……勝てるものなら、勝ってみな!」

 規模の大きすぎる、最早戦闘とも言えない様子を目の前に、紫陽は不敵に笑う。
 今まさに、日本には八百万の神が顕現していた。
 神話等の英雄もいるが、やはり日本なだけあり、神の方が数が多い。
 それだけの神達が、神界の神に対抗するように戦いを始めていた。















「シュート!!」

 一方、ミッドチルダ上空では、多くの魔導師が空中戦を繰り広げていた。
 その中になのは達もいた。

「はぁっ!」

 ミッドチルダにいた空戦魔導師は既にほとんど落とされている。
 残っているのは、地球から来たなのは達がほとんどだ。
 やはり、神界での戦闘経験の差が大きく出ていた。

「そこ……!」

 なのは、フェイト、奏が敵の弾幕を潜り抜けながら攻撃を繰り出す。
 未だに続く優輝達の牽制のおかげで、避けきれない事はない。
 さらには、隙を見ては確実にダメージを与える程だ。

「戦えるのはいいけど……!」

「被害が、抑えられない……!」

 大量の魔力弾を自在に操りながら、多数の神と“天使”を三人は相手している。
 街の防衛にアルフやクロノ、ユーノもいるのだが手が全く足りていない。

「……なら、倒すだけだよ!」

 こちらの手が足りないのならば、足りるように相手を減らす。
 そうなのはは結論付け、理力の障壁へレイジングハートのブレードを突き刺す。

「魔法混合、御神流奥義!」

   ―――“虎切(こせつ)魔閃(ません)

 もう一刀のブレードを抜き放ち、突き刺したブレードの柄に当てる。
 直後、その衝撃と魔力が突き刺したブレードの穂先まで浸透し、そこから敵に向けて閃光が放たれた。

「ッ、ぁ……!?」

「隙を見せた」

「ここッ……!!」

 閃光が敵の胸を貫き、怯ませる。
 さらに、間髪入れずに奏とフェイトが背後から二閃を決める。

「この程度で―――」

「はぁあああああっ!!」

   ―――“星天回帰(せいてんかいき)

 それでも倒れない敵に、なのはは掌底と共に魔力を放つ。
 球状になった魔力が敵を呑み込み、炸裂する。

「シッ……!」

   ―――“Angel Dance(エンジェルダンス)

 間髪入れずに奏が移動魔法と刃による連撃を叩き込む。

「雷光一閃!!」

   ―――“Plasma Zamber Breaker(プラズマザンバーブレイカー)

 そして、トドメにフェイトが砲撃魔法で攻撃した。

「街が……!」

 ようやく一人を倒した。
 しかし、その間に街の被害は甚大な事になっていた。

「っ……避難とかは他に人に任せて、私達は敵を倒そう!」

 順調に敵を倒す事が出来るのは、今の所なのは達だけだ。
 適材適所と優先順位を間違えないように、三人は次の敵へと向かっていった。







「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 そんななのは達の奮闘の余所に、街では誰もが逃げ惑っていた。
 ティアナ・ランスターもその一人だ。
 リンカーコアがあるとはいえ、ティアナは戦う術を持たない。
 前回の襲撃で避難はしていたが、その避難場所が破壊されたため、逃げていた。

「(どうしたら……!)」

 耳を澄ますまでもなく、遠くから悲鳴が聞こえてくる。
 同じように逃げていた人が襲われたのだろう。

「ぁ―――」

 その時、攻撃の余波で崩れてきた建物がティアナの視界に映る。
 ティアナ自身もその余波で転び、避ける事が出来なくなっていた。
 潰されても死ぬ事はないが、それでも来るだろう痛みに目を瞑った。





「―――無事か?ティアナ」

「え……?」

 だが、その痛みはやってこない。
 それどころか、聞き覚えのある声に、ティアナは思わず見上げた。

「兄、さん……?」

 それは、死んだはずの兄の声だった。
 今はティアナを守るように背を向けているが、それでも見間違えようがない。

「……前みたいに“お兄ちゃん”とは呼んでくれないんだな……。まぁ、それだけティアナも成長したって事か」

「生きて、いたの……?」

 驚きを隠せないティアナ。
 ティーダはそんなティアナに返事を返す前にティアナの体を抱えて飛び退いた。
 直後建物の瓦礫を防いでいた障壁が瓦礫ごと消し飛ばされる。

「さすがに見つかるか」

「っ……!」

 三層の障壁で余波を防ぐと、周囲にあったはずの建物は全て更地になっていた。
 そして、そこへ“天使”が降り立つ。

「兄さん……!」

「説明は後だ。……ティアナを守るために来た。今はそれだけ分かっていればいいさ。とにかく、俺の前には出るなよ……!」

 そう言って、ティーダは二丁の拳銃を構える。
 デバイスは持っておらず、拳銃は幽世でとこよ達によって作成されたものだ。
 デバイスのような補助機能はないが、代わりに霊術的な機構が存在する。

「妹には、指一本触れさせない!!」

 霊力による弾丸が放たれ、戦闘が開始された。

「この程度!」

 理力の剣によって弾丸は弾かれてしまう。
 だが、そんな事はティーダも想定している。

「行けッ!!」

 一発目は牽制でしかない。
 既に第二波として複数の魔力弾を用意、一気に放つ。
 さらにティアナを抱えてその場から離脱。霊力の弾をさらにまき散らす。

「魔力……じゃない?」

「霊力だ。生命に必ず宿るそれこそ生命力のようなもの……。地球で会得した、俺の新しい技術さ」

 一発魔力弾を放ち、霊力の弾に込められた術式を起動させる。
 多数の霊力の弾を基点に、一つの檻となる。

「………」

 さらにバインドを加えつつ、ティーダは一つの魔力の弾丸を装填する。
 かなり複雑な術式を組んでいるのか、非常に溜めが長い。

「邪魔だ!!」

 檻が破られる。
 直後に肉薄され、ティアナは目を瞑る。
 ティーダの術式は間に合わず、あわや攻撃が直撃しそうになった瞬間……

「良く、見ておけよティアナ」

 その“天使”に理力の弾丸が突き刺さる。
 ルビアとサフィアによる牽制だ。
 ティーダに意識を向けたため、完全に不意打ちとして直撃した。
 それを読んだ上で、ティーダは防御も回避もせずにいたのだ。

「例え相手が神であろうと」

 そして、弾丸が放たれる。
 複雑な術式が編まれた魔力弾。それを覆うように霊力の術式が纏われる。
 霊力と魔力を合わせた多重弾殻射撃だ。

「ランスターの弾丸に、貫けないモノなんてない」

 それにより、理力の障壁すら貫通する。
 そして、着弾と同時に霊力の弾をもう一発当てた。
 直後、霊力と魔力が作用し、“天使”を内側から打ちのめす。
 炎や電気などではない、純粋なエネルギーによる内側からの攻撃だ。
 一発に込められた威力は、それこそなのは達が使う砲撃魔法を一つの弾に集約させたようなものだ。

「バカ、な……!?」

「一度は命すら投げ打ったんだ。……今更、神を恐れるものか」

 “天使”が倒れる。
 威力だけではない。その一発に込められた“意志”が、それだけ強かったのだ。

「………!」

 その様子を、ティアナは呆然と見ていた。
 同時に、改めて兄の凄さに感動していた。

「さぁ、行くぞティアナ。ここにいたら、また狙われるからな」

「え、ええ……」

 ティアナの手を取り、ティーダは移動する。

「(“意志”次第で倒せるというのは本当だったな……)」

 本来ならば、あれぐらいの攻撃で倒しきれるはずがなかった。
 それを“意志”だけで覆したのだ。
 ティーダ自身、そこまで出来るとは思っていなかったので、驚いていた。

「っ……!」

 直後、別の“天使”がティーダ達を襲おうとして、別の誰かに吹き飛ばされた。
 吹き飛ばしたのは見知らぬ男性の魔導師だ。

「助かる」

 それだけ言って、ティーダはティアナを抱えて離脱する。
 会話はなかったが、男性はティーダに向けてサムズアップしていた。
 まるで、“妹をしっかり守れよ”と激励するように。

「ッ―――!!」

 そして、男性が巨大な魔法陣を複数展開。
 剣型の魔力弾で次の敵を迎撃し始めた。

「今のって……」

「……ミッドチルダに存在した英雄の一人だろう」

「英雄……」

「今、全ての世界でその世界に伝わる伝説の存在が現れているんだ。……世界の危機を救うために、“世界そのもの”が戦っている」

「………」

 ティーダもとこよ達を通じて何が起きているのかは理解している。
 だが、ティアナはピンと来ていないようだ。
 
「英雄が、神様が、そして今を生きる全ての生き物が、抗っている。……俺がこうして戻って来たのも、それが理由だ」

「……じゃあ、生き返った訳じゃなくて……」

「死んだままだ。……俺がここにいるのも、一時的なものなんだ」

 また別れる事になる。
 そうティアナは理解して、泣きそうになる。

「……元々、死人がこうして現れる事自体、あり得ない事なんだ。納得してくれなんて言わない。だけど、そうまでして守りたいモノがある事は、理解してほしい」

「守りたい、モノ……」

「故郷や世界を守るため……家族を、守るためだ」

「っ……!」

 そう言って、ティーダはティアナの頭を撫でる。
 ティーダが明確に何を守るためかは言っていない。
 だが、何が言いたいのかティアナにはよくわかっていた。

「そのためなら、俺は魂だけでも舞い戻ってくる」

 敵の襲撃によって開けた更地にティーダは着地する。
 同時にティアナを降ろし、振り返りざまに霊力の弾丸を撃った。

「そういう訳だ。誰が相手だろうと、負けるつもりはない」

 その弾丸は理力の障壁に阻まれていた。
 だが、弾丸が消える前に魔力弾を弾丸に当て、炸裂させる。

「……直接戦闘に長けるタイプじゃないな。おそらく、概念や事象に干渉するタイプ。……あぁ、だけど……」

 ルビアとサフィアの牽制で敵の“天使”が足止めされる。
 その間に、特殊な弾丸を装填。撃ち放つ。

「それで、ランスターの弾丸は止められない!」

 理力の障壁を貫き、弾丸が“天使”の頭を射貫く。
 だが、倒れはしない。

「ッ……!」

 先程の一撃は、助けに入った直後だからこそ“意志”が強かったのだろう。
 しかし、それは最早関係ない。
 一撃で倒せなければ何発も撃ち込めばいいとティーダは判断する。

「……お兄ちゃん……」

 その後ろで、ティアナは懇願するように祈る。
 兄に勝ってほしいと、以前までの呼び方で呟きながら。
 自分を守るために蘇った英雄(ヒーロー)のために。











 
 

 
後書き
世に刻まれし兵達よ(エロー・イストワール)…フランス語で“英雄”と“歴史”。天巫女の力で抑止の力を後押しし、歴史に刻まれた英雄達を召喚する。イメージはFGOの1部最終章。

アーサー王…見た目はFateにおけるプロトアーサー。エクスカリバーからビームを撃てたりするが、一応史実寄りのアーサー王。

シトナイ…容姿はFGO(第三再臨)に近いが、こっちは純正のシトナイ。トケは白熊じゃないし、氷の魔術も使わない。ただし、様々な野生動物と協力したりして数の暴力や搦め手で攻撃する。

吉備泉…第139話後書きもしくは式姫大全参照。

虎切・魔閃…御神流奥義の虎切に魔法を混ぜたなのはオリジナルの技。今回は障壁を貫通させるため二刀を使ったがオリジナル同様一刀でも使える。

星天回帰…ルフィナの魔天回帰を自己流にアレンジした魔法。球状の魔力で敵を呑み込み、ダメージを与える魔法。呑み込んだ際に拘束も行える。

ティーダを助けた人…一世紀以上昔に存在していた名も無き英雄。タイマンで闇の書の闇に勝てるぐらいには強い。なお、もう出番はない模様。


普通に攻撃が通じるようになっていますが、事前に司と祈梨で“格”の昇華は済んでいます。
また、ティーダは自覚していませんが、単身で大門の守護者に手傷を負わせ、さらに勝利の布石を残した事で知名度は低いとはいえ影の英雄として称えられています。そのため、今回司達が行った世に刻まれし兵達よ(エロー・イストワール)の影響を受けて強化されています。 
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