| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

五人といない

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章

「そして私の作品はな」
「そのテノールが軸だからだ」
「だからこそだ」
 まさにというのだ。
「このままだ」
「いくのか」
「そうしていく、これから創る作品もな」
「そうか、ならだ」
「それならか」
「君のその創作を観ていこう」
 こう言ってだった、知人はまずはトリスタンとイゾルデの初演を観ることにした。それにあたって。
「これから」
「そうしてくれると何よりだよ」
 ワーグナーもこう返した、そうして。
 そのトリスタンとイゾルデが上演された、バイエルン王も観たそれは実に見事な音楽に加えてだった。
 これまでにない歌が注目された、中でも。
 知人は舞台の後でワーグナーと共にワインを飲みつつ話した。
「トリスタンがだ」
「よかったか」
「よくあんな役を生み出した」
 ワーグナーに確かな声で話す。
「恐ろしい役だ」
「私の会心の役だ」
 ワーグナーは自信に満ちた笑みで述べた。
「まさにな」
「そうだな」
「そうだ、あれだけの役を生み出せる者はだ」
 それはというのだ。
「私だけだ」
「まさにそうだな」
「声域はタンホイザーだが」
「あの役もかなりのものだな」
「そのタンホイザーよりも上かも知れない」
 トリスタンはというのだ。
「この役は不滅のものとなる」
「そうだな、だが」
 知人はここで難しい顔になった、そうしてワーグナーに告げた。
「あの役はあまりにも凄い役でだ」
「歌うこともか」
「難しい、あまりにもな」 
 そのトリスタンはというのだ。
「そうした役だ」
「そしてトリスタンは彼が軸だ」
「作品のな」
「イゾルデもそうだが」
 ヒロインであるこの役もというのだ。
「だがな」
「比重はトリスタンにあるな」
「そうだ、あの作品にあるものを殆どをだ」
「トリスタンに入れたな」
「長く困難な作品という意見が多いが」
「私も思っていることだ」
「そうしたものはだ」
 まさにというのだ。
「トリスタンに入れてある」
「そうだな、ではだ」
「それならか」
「トリスタンはあまりにも難しい役だ」
 知人はワーグナーに今この事実を告げた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧