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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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ツインズ×戦士達
  SAO番外-兄貴

デュエルで従兄になんとか勝利したその後数十分。私とドウセツ、従兄達四人は休みがてら家に入り、その流れで夕飯を共に食べることとなった。

所謂、食事会である。

「「…………」」

「「…………」」

うん、食事会なんだけど、料理はアスナとサチが作っていて、私を含めた四人はやることなし。やることないからって、今いる場に無言の空間が生まれてしまった。

従兄は普通に新聞を読んでいるし、兄は自分から話題を持ち出さないし、ドウセツに至っては、そもそも話題を振る理由など内から基本自分から話題振る気はない気がする。私の異世界の人達に何を話そうか考え中で無言になってしまう。一応、二人の手伝いしようかと思ったけど、二人で十分らしい。

あんまり無言を貫いてもいい気分じゃないので、とっさに思いついたことを口にした。

「……あ、あのさ、兄……」

「……ん!?あ、あぁ俺か。俺だったよな?」

「いや、うん。その通りなんですけど……キリトに変える?」

「いや、大丈夫だ。好きなように呼んでくれ」

私が兄って呼ぶと兄は慌てて反応する。そうだった、「兄」などと言う特殊な呼称で呼ばれたこと自体が皆無であるから、即時に反応するのが難しいんだな。

「その、さ……サチと従兄って結局のところどうなの?」

小声で兄に近寄り言うと、同じく兄も小さな声で答えた。

「サチの一方通行。兄貴気付いてないんだよな……」

「何だ、やっぱり兄と同じか……」

「やっぱりってなぁ……」

「と言うか、他人の恋愛感情とかよく気がついたよね」

「俺鈍感じゃないからな」

私が言った言葉に、思わず兄は素の声量で答えてしまった。

「あ?何がやっぱりなんだ?」

それが不味かったらしく、従兄に聞こえてしまったらしい。突然問い返してきた従兄に、私達は慌てて答えた。

「「いえ!何も!」」

「あぁ?……まいいか……」

なんだろう、従兄とサチの恋愛関係の話をしていましたって告白したら、なんか厄介事になりそうな予感がしたので、ここで話を終わらせることにした。

「あーそういや所でよ、ドウセツの姉さんに話があんだが……」

「……とりあえず、姉さんとか付けるの止めてくれるかしら。私、デカい弟とか欲しくないから」

いつもと同じ、余り表情に豊かであるとは言い難い顔を正面切って従兄に向けると、従兄は肩をすくめて笑った。

弟って言うけどさ、もしも兄だったらどうするの?そこはいい?わかった。

「こりゃ失敬。んじゃドウセツさんよ、聞いて良いか?」

「嫌だと答えたらどうする気なの?」

「構わず聞くな」

「なら初めから聞かないでくれるかしら?時間の無駄」

「っはは!中々手厳しいな」

どうにもドウセツの毒舌はリョウには通じないらしかった。時折矛先を向けるのだが、大体が笑って流される。これはあれだな……ドウセツの苦手なタイプだな。

「笑われるような事言ったつもりはないのだけど、なんなの?貴方ドM?だとしたら貴方もコレと同じく変態ね。気持ち悪いから近寄らないでくれるかしら?」

「ちょ!?え、コレ!?私言うに事欠いてコレ扱いなの!?」

「誰も貴女って言ってないわ。自意識過剰ね、キリカ。自己主張が激しいのって鬱陶しいわよ」

「酷くない!?私だけ明らかに扱いが不当なんだけど!」

「どこが?」

「どこっ!?いろいろあるよ!」

「あっそう」

「素っ気なく返すな――――っ!!」

「す、凄いな……」

「ははっ!いやあ、っとに夫婦漫才だなオイ」

「聞こえているわよ。キリカと漫才なんて冗談でもやめて欲しいわね。笑えないわ」

「いやあ、なかなか笑えるぜ?お似合いだ、お二人さん」

「あ、従兄やっぱりそう思う?よかったね、従兄から認めてもらえたわよ」

「うるさい」

「すみませんでした」

「まったく、なんでこの身内はこんなのばかりなのかしら……それで、質問があるんじゃないの?」

そう言えば従兄はドウセツに訊きたいことあったんだっけか?ドウセツが余計なこと言うから早くも忘れるところだったよ。ドウセツの再びの問いに、リョウは眉を上げて反応すると、何故かキリトに向き直った。

「おぉ。そうだったな……あーキリト?」

「え……?」

「悪い、ちょっちアスナ達の様子見て来てくれっか?」

「……わかった」

なんで兄を席から外すの?まるで私達だけで話したいみたいじゃない。従兄が言っている内容が理解したのか、兄は、すぐさま立ちあがると、キッチンの方へと向かっていく。キッチンとは小さいが仕切りがあるので、システム上殆ど声は聞こえないはずだ。

「従兄……どう言うこと?」

「さて……んじゃ単刀直入に聞くんだが……ドウセツさんよ」

「なに?」

「あんた――何か取り繕ってるよな?上っ面的な意味でだ」

従兄の言葉に、ドウセツの表情がはっきりと変わった。

「…………!」

従兄が言っている意味を理解した。たった数時間の間でドウセツと言う人物を見抜いたってことなのか?

「あんま疑う訳じゃねぇが……俺ァあんま隠し事が好きじゃ無くてな。只でさえアンタら完全には身元が知れてねぇ。なら――」

「従兄ッ!!」

私は体を机から乗り出さんばかりの勢いで、リョウの事を正面から睨みつけるように発した。

「ん……?」

「……止めて」

自分でもびっくりするくらい低い声だった。

従兄がどんな方法で見抜いたかはわからないが、従兄が言いたい内容は余り触れられたくないんだ。従兄には悪いけど、まだあんまり触れるのは困る。

「……すまん。差し出がましい事聞いたな。悪かった……別にアンタらが嫌いなわけじゃねぇんだ。ただ隠し事はちっと怖くてな。すまねえ」

「……別に」

ドウセツはおそらく、構わないとは、言えなかった。やっぱりドウセツも気がついているんだ。従兄が触れて欲しくない内容に触れたって言うこと、自分を見抜けられたって言うことを。

隠し事はちょっと怖いか……。気にはなるけど、私がそこに触れるのは良しとしよう。

「できたよー」

「おっ、やっとか。ハラ減ったな」

サチの声に反応した従兄は、キッチンの方を振り返って言った。それに、私は慌てた様子ながらもそれに乗った。

「あ、そ、そだね!」

「リョウ、運ぶの手伝ってー!」

「へいへい。っと」

サチの声に立ち上がった従兄が、キッチンの方へと歩いて行く。 あちらから此方を見ることは出来るが、今の会話の内容に気付かれていると言う事は無いだろう。

「……ドウセツ」

「特に何も問題ないわよ。何かされた訳でもないんだから」

「そっか……ごめん」

「キリカが謝るのはおかしいと思うけれどね」

「あ、うん……そうだね」

大丈夫、従兄は悪い人じゃない。人の気持ちをわかってくれているんだから。

もしも、言う日があれば……告白でもしようかな。何日後か何年後かはわからないけどもね。



「えっと、今日のメニューはビーフシチュー、です」

「おかわりあるから、皆沢山食べてね?」

そう言ったサチとアスナをよそに、男二人は目の前の料理に目が釘付けになっている。無論、私もだ。

「…………」

「すっご……」

どうやら、ドウセツは素直に感心しているらしかった。実際、彼女達の前にある赤茶色のビーフシチューは非常においしそうな湯気と香りを立てている。

「うっし!速く食おうぜ!」

「もう!リョウせかさないの!」

うずうずした様子のリョウをアスナがたしなめる。
「それでは、頂きます!!」

「「「「「いただきまーす!」」」」」

「いただきます……」

ドウセツだけは静かだったが、かくして賑やかな食事が始まった。



「ん~!!!」

思わず目をキラキラさせながら叫んでしまった、美味しさ。作った二人は微笑ましくそれを見てくれていた。

「うわー、兄はともかく、従兄も毎日こんなの料理食べているの!?」

「ん?おう。ま、ウチはサチが毎日な」

「なんて贅沢な……!」

て言うか、そんな事をしてもらっているのにも関わらず夫婦じゃないとか、信じらんない。マジでそんな関係じゃないなら、なんなんだよ。

私がそんな随分自己主観な事を思っていると、不意にサチがドウセツ窺うような視線を向けた。

「あの、ドウセツさんはいかがですか……?」

少々不安そうなのは、ドウセツが無表情で黙って食べているからだろうか。言われてスッと顔を上げたドウセツに、サチは緊張した顔を向ける。

単純に、料理の感想に緊張しているだけだのだが、固まりすぎではないだろうかとドウセツは感じているようだ。

「美味しいわよ。普通に」

「ほ、本当ですか!?」

「嘘を言っても仕方ないでしょう?」

「よかった……」

やたらホッとした様子のサチにリョウが話しかける。

「お前、なんで、んな緊張してんだ?」

「だ、だって……」

あれかな?要はドウセツがいまいち反応を見せてくれないので、口に合わなかったのかと心配になったらからなのかな?誤解されやすいけど、基本的に食事中は静かに黙々と食べるのが好きなんだよね。宴会とか嫌いそうだし。

「あ、デザートにケーキもあるからね?」

「ケーキ!?」

サチの一言で、思わず表情が色めき立ってしまう。やっぱり食後はデザートに限るよね。基本的にデザートは甘い物が大好きだから、非常に楽しみだ。

食後、私達はすっかり打ち解け、紅茶を飲みながら雑談に興じていた。

「キリカとか、ドウセツの世界ってなぁ、こっちとなんか他に違うのか?」

「うーん、さっきウィンドウを開いて確認したけど、特に変わったところはないよ。強いて言うなら従兄がいない事と……」

――サチがいないこと。

っ!気にしてないつもりだったけど、決定的な違いがもう一つあった。その事実を本人の前で言ったらどうなるの?

「他にも、何かあるのか?」

駄目だ、これは言わない方がいい。知らない方がいい。

「う、ううん!特には無い……と、思う」

「そうね、私も今のところ特に違和感はないわ」

思わずどもってしまった言葉に続くように、ドウセツが言葉を差し込んでくれた。

ドウセツ……。気づいてくれてフォローとか入れてくれたのかな?それはありがたいことだ。それとごめん、気をつかわせちゃって。

変な空気を振り切るように私はケーキを一口入れる。

「……んん!これもまた……従兄、つくづく……」

「んだよ、なんで睨む……?」

「……別に。まったく……」

パクリとケーキを食べた後、従兄にいぶかしげな目で見つめながら聞こえないようにボソボソっと、口にした。

「……くすくす」

「どうしたの?サチ」

突然小さく笑いだしたサチは私を見ていて、その様子をアスナが訪ねてきた。

「ん?」

なんで、笑っているんだろう。おかしなことしたっけな?

「ううん、キリカってさっきから、“ん!”しか言わないから面白くって。ね、キリカ、味どんな感じかな?」

「え?うーん……ッ!!」

味の感想を言おうとした時だった、急に寒気が走り、あの記憶が蘇った。

『ねぇキリカ、味どうかな?』

『現実と比べてはまぁまぁだな』

『比べる対象が間違っているよ』

『食えるだけマシだな』

『そう言いながら、食べるペース速いね』

『うっせ』

それは兄と共にレベルを偽って、月夜の黒猫団に所属していた、とある一日。

いったい、何を思い出しているんだか、サチに味の感想を言わないと……。

――サチに味の感想?

そう言えば、サチに味の感想、普通に言えてなかったっけ……。だ、駄目だな、私って、本当に…………何やっているんだろう。

「あ……あぁ……」

それは急激だった。

自分が何をしているのか、咄嗟に分からなくなり、“あること”を理解してしまった。

「き、キリカ!?どうした!?」

「おいおい……」

従兄と兄が心配している。そうだ、ここにいる兄は過去のことは知らない、従兄に至ってはまったくの他人だったんだから、急におかしくなった私の事情を知らない。変な心配をしたくないと思って何か言おう
と口を動かすも、

「あ、あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

気が付けば、叫び出して駆けだしていた。

否、逃げ出した、と言うべきだろう。自分の制御が自分で効かなかった。頭の中が回転していない。それどころか滅茶苦茶だった。自分が何をしているのかさえ良く分からない。足が勝手に動いていたし、声帯は勝手に声を上げていた。ただ、あの場から逃げたかった。逃げないと自分が壊れると言う予感がした。

逃げることが一番の恐怖なのにかかわらず、私はあの場から逃げ出してしまった。



「っとだな……お前、味聞いただけだよな?」

「へ!?う、うん……多分……」

「多分ってお前……」

「だ、だって自信無いよ!突然だったし、私……何かしたのかな?」

不安げに表情を雲らせるサチと、立ちあがったリョウコウが話をしている。不安になるのもわからなくはない。事実、サチは何もしてはいない。

だけど、キリカにとってサチと言う人物は、未来を変える重要人物だと言うこと。サチと言う人物がいたから、キリカは絶望しては、立ち直って太陽のような優しい人になったと言えるのよ。

だから、キリカが去ったのはおそらく、

いや、間違いなくサチの関係だろう……。

「はぁ……」

あの子は基本的に打たれ強いけど、一度スイッチが入ったらどうなってしまうかわからないわ。きっと。

「お、おいドウセツ、どこに……!?」

ため息をつきながらドアへ歩くとキリトが問いてきた。私は仕方なしに振り向いて、さも当然であると言った風に、告げた。

「探しに行くのよ。それ以外にする事あるのかしら?」

「い、いやそれは確かにそうだろうけど……」

「俺も行くわ」

立ちあがっていたリョウコウが突然私の方を向いて、後ろに着くように歩きだした。

「……別に付いて来てくれなくていいのだけど」

「あぁ、だろうな。ま、そう言いなさんな。人手は多い方が良いだろ?」

「なら、俺も行くよ」

キリトも乗る。と、サチが焦ったように立ち上がった。

「わ、私も……!」

「お前はアスナと此処にいろ、此処に戻ってくるかもしんねぇだろうが」

「あ、うん……」

しかしリョウコウの一言で、一発で沈んだ。

ありがたいことではあるが、できるだけキリカを知らない人にあんな状態のキリカに会わせるわけにはいかないわ。

「夜道に女性について行くなんてね、やっぱりこの家の人間は変態ばかりだわ」

「ははっ!ま、その逆の意味だと考えてくれや。護衛だ、護衛」

「だとしたらもっと必要無いけど」

「そう言うなって。ほれ、行こうぜ」

「はは……」

「はぁ……」

仕方がない。この人達はどうしようもないお人好しだ、人を助けないと気が済まないだろうね……。それに、むやみに好意を否定するよりかは協力した方がいいかもしれない。

キリトの苦笑と、私の溜息が、小さな家の中に妙に大きく響いた。

「でも、分かれて探すことにするから結局護衛はないわよ」

「なんじゃそりゃ」

ただ、効率が良いことを言ったまでよ。悪くないでしょ?



「なにやっているんだろ……」

目の前が真っ暗になり、あの場から逃亡。気がついたら、人気がいない丘へ移動していた。

「本当に……なにやっているんだろう……………私は」

ただ、困らせるだけなのに、自分の問題なのに、私はあの場から逃げてしまった。大事なことを置き去りするように……。

わかっている。今日会話したりして、アスナと共に晩御飯を作ってくれたサチは、記憶に刻まれているサチとは違う。そう、違うんだ……違うのに。

私は、知っているサチと重ねてしまった。記憶に刻まれたサチと、元気に生きているサチに……。

「っ……」

少しは落ちついたけど、きっと酷い顔しているんだろうな。こんな顔じゃ、戻れないよ……。それに、今は戻りたくない。人がいないこの場でずっと座ってじっとしていたい。

地面に座って空を眺めていた時だった。それは突然やってきた。

「こんなところで何してんだ、お前」

「あ……」

声をかけられて、振り返ってみれば、今日知り合った兄の従兄、リョウコウの姿だった。

「なんだ……従兄か」

「はっ、ドウセツのねぇちゃんじゃなくて悪かったな。どうやら、お前らの愛より、俺の勘の方が勝ってるみてぇだ」

「それは絶対無い」

「そうかい」

そう言いながら、従兄は隣に少し離れて座る。きっと連れ戻しにきたんだろうな。自分でもよくわからない場所に移動して見つけられるとか、本当に勘なのか疑うよ。

「従兄は……さ」

「ん?」

何故か、私は従兄に話かけた。おそらく、単に話がしたいだけだったのかな?わかんないや、自分でも。

「サチの事、どう思っている訳?」

「どうって……お前……幼馴染、だな。多分」

「多分って……はぁ~~~~」

その発言に思わずため息をついてしまった。それもわざとらしく見えるように、大きくね。

「……何なんだ、お前」

従兄はかなり不服だった様子だけど、私はそんなことはお構いなしに話し続けた。

「もうちょっとさ、なんか無いの?ずっと一緒に暮らしているんでしょ?あんなおとなしめタイプで健気な女の子なんてそうそう居ないよ?普通男なら攻略しようと思うでしょ?」

「うるせぇな……思わねぇよギャルゲじゃあるまいし。彼奴とは幼馴染。それ以上のもんはねぇし、望むつもりもねぇ」

「それでも男か」

「男だよ」

「あり得ないわ……じゃあ、従兄って、サチと幼馴染だって言う理由だけで一緒に暮らしている訳?」

「そりゃまぁ……ちげぇが」

「あれ?じゃやっぱり……」

「トチんな。昔俺とキリトと彼奴の間で色々な。色恋沙汰じゃねぇよ」

いろいろって、それであながち間違ってはいないこと言って話を反らそうとしているのかな?だいたい、なんでそこで兄が……。

なんで、昔って言った? 

そこで兄の名を上げるのってどう言う意味?

「お、おい?」

私は従兄よりも驚愕した表情で固まり、虚空をにらんでいた。

いろいろって何? 『昔俺とキリトと彼奴の間で色々』って、それじゃまるで重大な事件があったみたいじゃない。

昔、兄とサチがいろいろとあったことと言えば、あのことしか思いつかない。私は勘違いしていた。サチが生きているのは、“あの事”はなかったと思い込んでいたからである。

「あのさ……従兄」

「あン?」

「月夜の黒猫団……って、聞いた事ある?」

「…………!」

一つのギルド名を言うと従兄は驚愕した。

従兄の反応を見て、私がサチの生存理由は勘違いだと証明される。

「なんで……いや、そうか、お前も……“あったんだな?”」

「……うん」

察したような従兄の顔を私は直視出来なかった。それが何故だかはよく分からなかったが、とにかくその目と正面向き合いたくなかった。

やっぱり、知っているか。なら……隠す必要はないよね、もう。

「さっきいったよね?私達の世界と従兄達の世界の差異は、従兄が居ない事だけだって。あれ、嘘。私達が分かる限り、この世界と私達の世界の違いは、二つ……一つは、従兄が居ること。もう一つは……」

多分わかっているんじゃないかな?“もしも”の可能性を存在したならば、そのことに対して、想像したことありそうだから、だから私は躊躇いもなく告げた。

「サチが……もうこの世にいないこと」

もしもの可能性があってしまったこと、サチが他の月夜の黒猫団と共に死んだと言うことを……。

「…………」

「…………」

それからの数秒間、私と従兄の間には沈黙が流れる。 しかしそれは永遠に続くものであるはずも無く、やがて時間だけが過ぎ、ゆっくりと口を開いた。

「私ね――」

沈黙を破った話は、私がサチと過ごしたことの話をした 。

昔、月夜の黒猫団と言うギルドにレベルを偽って入っていたこと。兄の事が心配になり、同じギルドに自分も入った事。サチは、やはりその世界でもそのギルドに居たこと。私はサチに彼女を守ると誓った事。そして……従兄の世界と同じく、ある時黒猫団のリーダーを除く全員が結晶無効化空間+宝箱アラームのコンボトラップに掛かり、突然死の恐怖に直面した私は仲間も、兄も、そしてその世界のサチも全てを見捨てて、無意識の内に逃げた事。

そうして気付いて戻った時、生き残っていたのは、私達、偽って入団した双子の兄弟だったことまで話した。

「私は、とんだ愚か者だ。自分が強いと勘違いしたから、約束の重さも知らず軽々と言って、いざ恐怖が襲いかかったら、仲間も兄も約束もサチも何もかも置き去りしてしまった。私が…………月夜の黒猫団のみんなの未来を失わせた。私は――人殺しだ」

「…………」

出会って数日の従兄に、なぜこんなトラウマの話をしているのかは私にも分からなかったが、もしかしたら、私と従兄の関係が意味しているかと思う。従兄ことリョウコウは、私達の、従兄なんだから。

「その後は酷かったよ。あらゆるものを避けて、ずっと自暴自棄になっていて、自分一人でも戦えるために回避を身につけて、フィールドとかダンジョンに潜り続けて、ろくに寝ないで攻略に躍起になって……終いには『白の死神』って呼ばれるような、人になっちゃたよ」

「……よく生きていたな」

「うん……自分でも偶にそう思うよ」

あの時は、いつ死んでもおかしくないくらい、私は溺れていた。過去の真実と言う、底がない深海に。

「……で?それがまたある程度おとなしくなったのは、なんでだ?」

首を傾げて訪ねた従兄に、私は昔を懐かしむようにほんの少しだけ、微笑みながら口にした。

「……去年のクリスマス。たまたま血盟騎士団の一員に会ってさ、その人、私の心の奥底を刺激するように言ってきたから、思わず感情剥き出しに言っちゃたんだよね。その時、私は躊躇いもなく自分の存在を否定して死のうとした。だけど、私は求めていた。サチやみんなが死んだ時、何よりも私は――――助けて欲しかった」

その一言を言うだけで私は救われたような気がした。だけど、私は当時の血盟騎士団の人に会うまで、助けての一言が言えなかった。

「ずっと、助けての一言が言えなくて、人の命を奪った私に言う権利はなくて、そのせいで私は死ぬ理由を探そうとしていた」

「死ぬ理由?」

「死んでもしょうがないって、諦めるような死をね。異常なほど攻略に邁進していたのはそのためって言ってもよいね」

もう一つは、サチのようにデスゲームに怯えているプレイヤーを救うため。そのためなら死神って呼ばれてもよかった。死ぬことで未来のかけ橋になっても構わなかった。

だけど、本当は助けて欲しかった。

「その人は言った、苦しいから逃げ出すのは駄目。苦しいまま終わってしまったら、冷たい闇から永久に上がれなくなる。悩んだり苦しんだり悲しくなってもいい、時は鬱うつになっても、迷惑かけてもいい。自分の死で逃れるのは駄目、 全部なかったことにすれば、私の中で生きている記憶を殺すことになる。笑ってもいい、楽しんでいい、嬉しいこともしていい……生きたいって口にしてもいい、光に入っていい……そう言われた。」

「死を罪滅ぼしの方法にして逃げんな……って事か。いい助言だな」

「うん……だから、私は今まで生きて来た。サチの事、忘れちゃいけないって思ったし、自分一人では、何もできないって学んだから……」

「へぇ……」

そう、学んだはずなのに。サチの死を引きずって生きていたのに。突然、私はそれを……。

「でも……」

「あぁ?」

「今日、少し自信無くなったかも……」

否定しかけてしまった。

「……さっきの事か?そういやあれ、一体全体どうしたお前」

「……怖くなった」

「……はぁ?」

その一言に、従兄は素っ頓狂な声を上げた。

なんで怖くなったって、思っているのかな? それはさ……さっきまで目の前にサチがいたんだよ?

「今日、突然こっちのサチに会って、違う人だけど同じ人のサチが、あんなに楽しそうで、一度も悲しそうに笑わないで……幸せそうで……私ね、とっても嬉しかった。嬉しかったけど!……あんな風に笑えた筈のサチの未来を、私が奪ったんだって思ったら、急にサチの幸せそうな顔が怖くなって……」

参っちゃうよ。同一人物なのに、私の知るサチとは違う。だからなのかな?サチが生存できた可能性の未来を、私は逃げることで潰してしまった。
味の感想を聞かれるサチはもういない、はずなのにここにいるサチは味の感想を聞かれた。

「おかしいよね。一番幸せになって欲しかった人が、そうしているのに……それが怖いって、どうかしているよね……わかんない、わかんないよ……こんなのおかしいって分かっているのに……」

自分の中の自分の知らない部分に恐怖する叫び、原因の分からない感情への戸惑いは、私を混乱させる。

私は……サチを…………どうしたいの?

「……ねぇ、従兄……」

「ん……」

戸惑いの感情は違う言葉へと形を変えて、従兄に訊ねた。

「従兄はさ。さっき“お前も”って、言ったよね……じゃあ、同じような事がこの世界でもあったんだよね……?」

「……あぁ」

従兄の話では“同じような”所ではないらしい。何故なら起こった出来事は、殆ど変わらぬ出来事だったからだそうだ。兄が月夜の黒猫団へと入団し、レベルを偽って彼らと歩み、アラームトラップを踏んだ所まで、私が経験した出来事は殆ど同じに進んだ。

でも、明らかに違っている点が存在した。

「けど、サチは生きている……あの状況を兄一人でどうにか出来たとは思えない……従兄が、何かしたんでしょ?」

「……あぁ」

そう、違ったのは、私と違い、従兄は黒猫団に入らずに兄の事を見守っていた。色々な要因あってその場に駆けつける事が出来たために、サチだけでも生かすことできた。

私は救えず、従兄は救えた。独りの少女の命にとって、いっそ残酷な程にはっきりとした境界線の違いを示していた。

そう、私と違って、従兄はサチを救えた。サチに明日の希望を守ることができた。

どうしてなんだろう……やっぱり私が何もわかっていなかったからなのかな?従兄がいれば、サチやみんなを救えたのかな?

…………。

「だっ、たら……!」

言ってはいけない。こんなこと言っても無意味なことくらいわかっている。わかっているのにも関わらず、湧いた感情を止まることなく発してしまった。

「どうして、私達の世界のサチは救われなかったの……!?」

「……ッ」

世界自体違うのに、どうしようもない八つ当たりをぶつけてしまった。

私は従兄の胸倉を掴みながら止まることのない感情を続けてぶつけてしまった。

「私達の世界には私がいて!でも私のせいでサチは死んで……っ!従兄達の世界のサチは従兄が助けてあげられて、あんな幸せそうに笑っていて……!私には出来なくて従兄には出来た!」

目の前の青年の胸倉を掴んで訴えれば、何かが変わるの?変わりはしない。それは無意味なんだ。どうしようもなく発した言葉は――――無意味なんだ。

それでも続けざまに、発する。無意味な言葉を。

「私のいた所に従兄が居れば、私達のサチは死なずに済んだの?なんで私達の世界(アインクラッド)に従兄は居ないの?従兄はなんで……私達の世界のサチは助けてくれないの……!?どうして私の近くに従兄みたいな人がいないの!?」

答えは簡単だ、世界が違うから。無数に有る、もしもの可能性で、きっと私やドウセツの存在が選ばれたのがいるべき世界で、従兄の存在が選ばれたのが従兄の世界だろう。決してそれらが交わる筈はなく、私の言葉はただ目の前に有る自分には決して手の届かない……現実。

そうか、私は……。可能性のある未来に……嫉妬していたんだ。

「悔しいよ……従兄には出来たのに……なんで。なんで……っ!」

もはや言葉は出ず、従兄の胸倉をドンッドンッと叩くだけだった。

情けないな。嫉妬だとわかっていても無意味な言葉を止めることができない。真実はどうあっても捻じ曲げることは敵わない。そんなのわかっているはずなのに、わからないのは、きっと私は……何もわかっていないからなのかな?

もしかしたら、ずっと何もわかっていないかもしれない。私が逃げたことでサチは死んだと言う真実を受け止めたのに、それをサチが生きている姿を見て、それを曲げようとしていた。今更なにを言ったって、自分にいた世界にいない人に八つ当たりしたって、私が逃げたことでサチは死んだと言う真実が変わるわけない。わかっているのに、それがわからないと……。

どうしようもないくらい、弱過ぎているんだろうな……。 気持ちが変わっても無駄なくらいに。

「……キリカ」

「なによ!」

どう思うのかしらね?こんな私に何か言いたいことでもあるのかな?

「……おれぁお前じゃねぇから、お前の思っている事とか、お前の気持ちちゃんと分かるわけじゃねえ……けどよ」

突然、従兄は不器用な声が振ってきた。

「お前がすげぇ強えぇ奴なんだっつーのは、よく分かった」

「え……」

それは、とても意外な言葉だった。何故なら、さっきまで、私とは真逆の事を思っていたのだから。

それに……。

「強くなんてないわよ!私一人じゃなにもできない、弱い存在だよ!」

「そうじゃねぇよ」

「え……」

「俺が言う強さのベクトルが違う」

ベクトルが違うってどう言うことだ?戦闘が強いって言う意味なのかな?そんなのは、ゲームの世界での数字は絶対的、数字が増えれば強くなる。その強さは数字であり、後はどうしようもなく弱いよ。

しかし、従兄の言う強さは自分が思っていた強さとは違っていて、それについて喋り出した。

「お前、さっきからずっと、サチの事だけ考えてねぇのな」

「そ、それは」

当然だと言おうとした。何故なら彼女の事を殺したのは自分だから。それと向き合っていく事は当然で、サチの事を考えない事は罪から逃げようとするだけの行動のはずだった。

「お前、それあたりまえじゃねぇんだぞ?」

「へ……」

「お前が俺にそう言う事を言うのってよ、別に誰が悪いわけでもねぇだろ?悪ぃけど俺そこら辺ドライだからよ。お前に謝ってやるとか、気の利いた事できねぇ」

「……ううん。それは、従兄が正しい……私は、勝手に自分のイラつきや嫉妬ぶつけているだけで……」

私は全く何も悪くない人物に苛立ちや嫉妬を全て向けていた。それなのに気の利いた言葉が欲しいのは、良くない。

少しだけ落ち着いた頭で、それを思い出し慌てて従兄の胸倉を離した。

「ほらな、そうやって自分から手を離せるだけで、お前もう十分つええんだよ」

「だから……何言って」

「10カ月だ」

「……え?」

「お前が罪に向き合い続けている時間だよ。大したことねぇと思うか?けどな、多分大の大人だろうが、これだけの時間自分の罪と……まして人の生き死に関わった罪に正面きって向き合うなんざ出来ねぇよ。大体の奴は死ぬ事に逃げるか、目をそらして忘れようとするかだ」

「そんな事……」

そんなことは無いと言おうとした。自分はきっと、気付かぬ内に罪から目を逸らしていると。けれどその言葉はある意味予想通り、遮られた。

「お前、さっきいったよな。“悔しい”って……お前、自分のした事の結果諦め切れてねぇんだよ。諦めきった奴は、“もうしょうがない”で済ますんだ。けどそうじゃねぇ奴ってなぁ、ずっと考え続ける。後悔し続けるもんだと俺は思ってる。お前は、ちゃんと向き合っていんだよ。今でもずっと、毎日後悔し続けていんだろう?」

「…………」

それは正しいような、間違っているような、中途半端な言葉だった。

「向き合い続ける事自体、お前がつええって証明なんだと、俺は思うがね」

それが従兄の言う、私の強さか……。そんなことないよ。私は強くなんてない。

「でも、それなら私はなんでサチから逃げたの?幸せそうなサチから逃げた事は、弱さじゃないの?」

「確かにそりゃ弱さだ。けどな、さっきも言ったけど、それはちっとベクトルが違う。」

「……どういう意味?」

「お前のそれは多分、お前のこれまでが無駄になったような気がしたんだろ」

私には従兄の言いたい事が、今一よくわからなかった。

それでも従兄の言葉が続く。

「お前はこれまで自分の罪と向き合ってずっと生きてきた。けど、ある日突然目の前にその罪の原因とは全く違う状況があって、それが怖かったんじゃねぇか?たった一つの原因の違いで、自分のこれまで行ってきた罪との向き合いが丸で無かった事になっているかのような世界見せられて、自分がこれまで罪と向き合うためにしてきた生き方そのものを全否定されたような気がしたんだろ」

「……私のこれまでの罪と向き合う努力が、無駄だったって言われたような気がしたんだろうって事?」

「分かりやすく言えばな。けど、それもまたちっと違う。たとえパラレルワールドでどんな事が起こってようが、お前のしてきた事はお前の真実だ。そもそも起こっている事はお前の世界とは違う場所の話なんだからよ、お前のしてきた後悔も、お前の乗り越えてきた苦悩も、一つも無駄なんかじゃねぇじゃねぇ。乗り越えてきたお前の生き方は、ここでたとえ何が起こってようが、尊重されるべきもんだ」

「従兄……」

今こうして従兄に無意味な言葉をぶつけて嫉妬していたことも無駄じゃないってことなの?

「ちょっと分かりづらいよ……」

「つまりな、お前の人生に無駄な事なんか無かったって事だ。その証明が、お前の後ろにいるだろ?」

「え……、あ」

振り返るとそこには、黒い着物に、黒い髪の女性が湖の淵に立っていた。対岸の林から出てきたのだろう。

ドウセツ……。そっか、みんなで私を探していたんだ。

「ドウセツとお前の間に何があったかは知りゃしねぇ。けど彼奴とのつながりはお前の生み出したもんだし、お前が罪と向き合いながら生きてきたこれまでの人生の中で、誇って良い部分の一つの筈だぜ?」

そう言って従兄は、私の頭にポンっと右手を乗せた。

「ほれ、行って来い。俺たちにゃいっちゃくんねぇが、一番心配そうだったからな。眼が」

それは、ドウセツのように冷たく気持ちのいい手ではなかったけれど、一回り大きく、包み込むような感触の不思議な手だった。

家系は繋がっているはずなのにリョウコウと言うプレイヤーは他人だ。非常に頼もしく見えるのは、不思議な糸で結んでいる関係だからなのかな?

兄が従兄を兄貴って呼ぶのもわかる気がした。

「……ねぇ、従兄」

「なんだ?」

従兄はいないけど、従姉にちょっと似ているんだよね。特に頼もしいところとか。

従兄に教えてもらった。私のやってきたことは無駄じゃないってこと。

やっぱり、私って弱いんだな……。

でも、うん……。

「ありがとうね、“兄貴”」

おかげさまで、元気が出た。



「ごめんっ!」

「え、えっと……」

「ごめんなさい。なんなら土下座でもするから」

「い、いいよ!そんなことしないで!」

戻って来た家の中では、行き成りキリカがサチに頭を下げると言う、なんとも言い難い奇妙な図が展開されていた。まぁ、有体に言うと、なんかキリカがサチに謝っている。それだけの話なのだが……。

「理由も何も無く行き成り謝っても変質者ね」

「ま、そう言ってやるなよ、ありゃあれで必死なんだろ」

「知っている」

「そうかい」

サチに対して雰囲気を台無しにしてだの、耐久値でご飯がだの、と言っているキリカってなんなのかしらね?まぁ、変に沈んでいるよりかはよっぽどマシね。

「なぁ、ドウセツよぉ」

「……何?」

不意に、リョウコウが話しかけた。

「ははっ、そう邪険にしなさんなって。ちっと聞きてぇ事が出来ただけだ」

誰にも話したこともないのに、むやみに踏み入れたくない事に触れた人物にどうやって素直に受け入れろと?

「…………」

余計に嫌そうな顔をしたみたいで、リョウコウは苦笑していた。が、彼は特に普段と代わり映えもしない声で聞いた。

「お前から見て、キリカの奴どうよ」

「……初めに行ったはずだけど。それとも、もう忘れるほど貴方の頭が老化しているのかしら?」

「いんや、よく覚えてるぜ?善人、お人好し、バカで、アホで、極が付くほどの変態」

「追加としてド変態よ」

「厳しいな。で?そんだけじゃねぇんだろ?あんたにとってのキリカは」

「……それだけよ」

「んにゃ、それだけじゃねぇだろ?

私はヘンなものを見るような視線を向けてリョウコウを睨むも、彼はさも当然そうに答える。

「あんた、此処に来てからさっきまで、大体キリカの事気にしてるよな。彼奴がどもったり、戸惑うような事があったり、時に、基本的に上手くフォローを出すのはドウセツ、アンタだ。そりゃ俺達より彼奴との付き合いは長げぇんだし当たり前っちゃそうだが……アンタは人一倍、キリカの事を気にかけて、場合によっちゃ心配してるんじゃねぇか?彼奴がアンタに対してそうなのと同じように」

長い言葉をスッと言いきったリョウコウに、しばらく何も答えなかった。

なんなのかしらね?少ない時間の中でよく、そんな言葉が思いつくわね。そう言うところが嫌いだわ。何もかも知った風に見ている目とか正確とか、頭とかね。

「そこまで見られていたと思うと、いっそすがすがしいくらいに貴方も変態ね。寒気がするからこっちに視線を向けないでくれる?」

「そりゃ、失礼」

「それに」

「ん?」

苦笑し掛けたリョウコウは、続いた言葉に、首をかしげていた。

「それを聞いて一体どうするつもりなの?貴方と、私達は違う世界の人間、どうあってもそれは変わる事は無いわ。いわば世界レベルで全くの他人同士、それなのに、貴方は一体何でキリカにそんな肩入れするのかしら?理解できないわ。貴方……何を考えているの?」

キリカがサチのことで悩んでいるのを、リョウコウがいたからキリカはまた笑えるようになったのは見てわかった。単に彼もお人好しなのか、何かを企んでいるのかわからない。こう言う人に限ってあんまり信用できない。

「まぁ確かに、俺とキリカは突き詰めりゃ他人なんだろうな。世界レベルで言えば……けどな」

「…………」

黙って聞いていると、リョウコウは続ける。

「そんでも、彼奴はキリトの妹で、俺にとっちゃ従妹だ。どんなになってもそれはかわらねぇんだよ。たとえ別の世界の人間だろうが、今日会ったばっかだろうが、あるいは明日消えようが、彼奴は俺達の妹だ。どうあってもそれは変わりねぇのさ。少なくとも俺にとってはな」

「…………」

私にはわからない。出会うはずもないのに、出会ってしまった他人同士はこの数時間の間で大切な存在になったと言うことが、私にはわからなかった。他人だと言えど、リョウコウが言った通り、どんなことがあってもリョウコウはキリトの従兄、キリカはキリトの双子の妹と言う、キリトからの繋がりがあるから、彼はキリカのことを当たり前のように妹だと言えたことが、不思議に感じるくらいに、私は何も知らない。

だから、羨ましく思えた。

「キリトの事もそうだし、ブラコンシスコン言われんだろうが、俺としちゃどうしてもな……キリカとはなんか、今日会ったような感じがしねぇんだよな。ホント」

「まるで古臭いナンパのセリフね」

「そう言うなって。ある意味、人を引き付けるキリカの才能であり寸のかもしんねぇだろ?キリトにもあるしな、そう言うの」

面白がるように言うリョウコウの言葉を、肯定する事は無かったが、否定する事もまた無かった。

この青年は天から見物しているのかしら? かもしれないどころじゃない、キリカには殆ど間違いなくそう言った才能がある。
他人を引き付け、共にある人間を明るく照らす、いうなれば太陽に近い性質の才能が、確かにそこにあるのだ。私は人との繋がりを良く知らなく関わりたくないと思っていた。でも、気がつけば、私もキリカに魅力された人物なんだと。彼女に救われた私が今ここにいる……。

「で?どうなんだよ、実際のとこ」

「人の内面にずかずか踏み込もうとするのは、貴方の癖なの?」

「うぐ……それ言われちまうと立つ瀬ねぇ……」

「とにかく……貴方に話す事は無いわ」

そっけなくそう言うと、以外にも呆気なく、苦笑してリョウコウはそのまま折れた。

「はは、こりゃ失敬。確かに、個人の事に行き成り首突っ込みすぎだな俺は……夫婦の話に首突っ込むのは不味いわな」

前言撤回。

普通にからかう気は満々のようだ。しかも至極真面目な顔でこういう事を言っている辺りより性質が悪い。本当に存在自体が、質が悪いって言ってもいいくらいだ。

「大真面目にそれを言う辺り、貴方本当にキリカ並みの変態みたいね。早く離れてくれないかしら?うつるから」

「おーひでぇ。全くキリカに見せてるあのデレデレ感は何処へやら……」

「デレなんてない」

「そうだったな。キリカには見せているんだっけな、こりゃ失礼」

「…………」

いっその事、斬りたいと思ったけどやめた。最早何を言っても無駄な気がして、これ以上言わないことにした。

改めて思う。自分は、この男が苦手だ。もう嫌いって、拒絶してもいいくらい苦手だ。

「あんた顔は良いんだから愛想ありゃモテんのにな」

「貴方と居ると言葉にハラスメントコードが適応されてしまえばいいと思うわね……余計なお世話よ」

その言葉に、リョウコウは楽しそうに笑いだした。意味が分からので、再びいぶかしげな表情でリョウコウを見つめる。相変わらず楽しそうに笑うその男は、そのまま二ヤリと笑って、私の方を向き直る。

「これまた失敬失敬。んじゃお世話ついでに頼みがある……キリカの事、これからもよろしく頼むぜ。精神的に」

唐突すぎた。

おそらく一瞬、驚きが顔に出てしまっただろうか?

いきなり何を言い出すのだ。こいつは。

「……何なの?突然」

「いやぁ、な。今日の試合で負けた身でこんなこと言うのもあれだけどよ。なーんとなく俺も心配でな彼奴の事。アンタなら、彼奴の事しっかり助けてくれんだろ?」

飄々とした様子で言うリョウコウの真意を矢張り、私は測りかねていた。

「……なんで今日会ったばかりの人間に、キリカの事を頼まれないといけないのよ?理解出来ないわね」

「ははっ、俺もそう思うがな。ま、さっき色々話してみて、彼奴の事も少しは分かって来た。あんたにも、彼奴が強ぇけど、崩れる事が決してねぇ人間ってわけじゃねぇ事は、少なからず分かってんだろ?そうなると、俺としちゃあやっぱな……兄貴ってなぁ、妹を心配するもんなんだよ」

「…………そう」

それ以上、私は何も言わなかった。了承も、拒否もしなかった。否、言うまでも無かったと言うべきかしらね。

キリカは優しい半面、善も悪も受け入れようとするお人好し。それ故に必要以上に受け止め、いつか想いによって崩壊するのかが心配。実際に、キリカは自分の存在を否定するほどまでに独りになっては、いつ死んでもおかしくないくらいに自棄になっていた。

私はキリカに助けられた、そのおかげで私は自分自身を崩壊することも、死ぬこともなかった。彼女の優しさに触れて、好きになった。私は誰よりもキリカの笑顔が好き、ただ笑ってくれるだけで、どうしてかわからないけど、不思議と安心してしまう。まるでお日様のように穂のかな光を照らすように。


「貴女ってなんなのかしらね?」

「俺はキリトとキリカの従兄であり、兄貴だ」

言いたくはないけど、頼もしい従兄ね。少しは感謝しているわ、キリカを助けてくれて。


やがていつの間にか楽しいおしゃべりに発展していた女子三人に呼ばれ、全員で記念撮影と興じる事になったのは、また別の話。




「んじゃ、今日はコラルに泊まんのか」

「うん。帰る方法も分からないし……明日からはどうしたら帰れるか探そうと思っている」

家の前で、従兄は明日以降どうするかを聞いてきたので、とりあえず思いついたことを言ってみた。

「私達も暇だから、手伝えることあったら何でも言ってね?」

「あぁ。基本的には俺達は家に居るからさ」

「サンキュー、兄」

「いや、まぁ……ここの俺に双子の妹はいないんだが……まぁ、いっか」

「いなくても、キリトは私の双子の兄だよ」

世界は繋がんないし、この世界のキリトは私が幼い頃から知っている兄ではないけど、それでも、目の前にいるのはキリトであり、兄なんだ。ここでもアスナとシステムで結婚しているみたいだけど、アスナを泣かせたら許さないよー。

「あ、あのね、キリカ」

「へ?どしたの、サチ?」

見ると、サチは小さめの、しかししっかりとしたつくりのバスケットを持っていた。それをゆっくり差し出した物を受け取った。

「これ、マフィンなんだけど、バスケットの効果で明日のお昼まで持つから。二人で朝ごはんに食べて?」

「わ……あ、ありがとサチ!ちゃんとバスケット返しに来るから!ほら、ドウセツ」

「確かに有難いわね。キリカの作るのより幾らかマシになりそうだし」

「普通に褒めることはできないんですか、ドウセツさん!?」

「無理ね」

「即答されたッ!?」

「変な薬入れていると思うと警戒心が強まって、味がわからなくなるからかもしれないわね」

「一度も料理に薬を入れたことないわよ!」

夜の森の中に、朗らかな笑い声が響いた。

いや、笑わないでドウセツさんの毒舌止めてください。

「それじゃ、お休み!みんな」

「…………」

「おう、しっかり休めよ」

「お休み、キリカ、ドウセツさん」

「お休み~」

「ちゃんと寝るんだぞー、キリカ」

「わかっているよ、“兄貴”!」

今回出会った、パラレルワールドのキリトとアスナに、生存しているサチに加え、従兄であるリョウコウに別れの挨拶をして、コラルへとドウセツと共に足を運んだ。

「貴女の従兄って、なんなのかしら?」

「なんか言われたの?」

「ええ、セクハラされたわ」

な、なんて奴だ。明日逢ったら怒ってやる!

「あの人は苦手ね」

「あぁ……そうかもね」

どことなく余裕な態度に頼れそうな存在感、物事を冷静に見られては、実力は化け物である彼に対して、ドウセツは苦手そうだなとは思っていた。なんか二人っきりで話しているところ見たけど、従兄がなんか面白そうな顔して、ドウセツは不機嫌だった様子が見られた。

「貴女の一族は変態しかいないの?」

「変態言うなよ、失礼な」

少なくとも従姉はまず変態じゃない、百パーセント間違いない。あと妹も、そして私もだ。兄と従兄は知らないけど。

「じゃあ、まともな人はいないよね」

「いや、いるって」

「少なくとも貴女はまともじゃない」

「どう言うことだよ!」

「まともじゃない」

いや、そんなに断言されると傷つくんですけど。それともなに?心が鋼で何を言われても傷つかない頑丈な持ち主とか思っているのかな?だから毎度毒舌を吐いたり罵倒したりするんだね。うわぁ、傷つくなぁ……。

「……なにがまともじゃないの?」

「人を引き付ける才能……ってリョウコウが言っていた」

「そこはドウセツの言葉じゃないんですね」

しかし、従兄がそんなこと言っていたのか。私に人を引き付ける才能があると見えているのかな?自分ではそう言った才能なんてわからない。

「それがまともじゃないの?」

「まともじゃないわね。私にとっては」

そっか……。人と関わることを避けていたドウセツは、そう言った才能なんていらなかったんだ。いや、自分にはそう言ったものは別次元にある物だと思っていたかもしれない。

「貴女はまともじゃないわ」

「まだ言うか」

「だって、貴女のような善人でお人好しな優しい人なんて、とてもまともじゃないわ」

ドウセツはこちらを見つめては言い、口元が緩んでいた。

まぁ、まともじゃないんだろうな。従兄にもサチのことで悩んでいることが当り前じゃないって言われたからな……。

もう、いいよ。まともじゃなくても。

私の回りにはとても大切で、時に頼りになったり、時に楽しんだり、時に悩みを聞いてもらえて、時に助けてくれる人がいるから。私は私なりに前へ進むだけだ。

「お人好しって言うけど、私は困っている人がいたら手を差し伸べるだけだよ」

「それがまともじゃないわよ。まったく……これだから、キリカは困るわね」

パラレルワールドに飛ばされても、なんとかなるって思っているのはきっと。隣にもっとも信頼でき愛する人がいて、逢うこともないパラレルワールドの住人が助けてくれるおかげだから、今でもドウセツと他愛のない会話ができているかもしれない。

大丈夫さ、私達なりになんとかしてみせる。必ず。

戻ってやらなくちゃいけないことがたくさんあるのだから。
 
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