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温泉宿

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第三章

 そして自分達も浴衣を脱ぎ一糸まとわぬ姿になってだった。
 彼の手を取り湯に入った、そして自分達の肢体を使いもてなしをした。本間は湯にいる間桃源郷の中にいた。
 湯から上がるとだ、親父が待っていたが本間は彼に問うた。
「あの」
「お湯のことですね」
「こちらは」
「おもてなしです」
 親父は彼に微笑み話した。
「そうしたものなので」
「このお宿は」
「左様です」
「後で何かあるとかは」
「一切ありません」
 嘘偽りのない、それが目に出ている返事だった。
「ご心配なく」
「それならいいですが、ただ」
「何でしょうか」
「得られるものとは」
「それは最後に。お宿を得られる時に」
 その時にとだ、親父は本間に話した。
「お話させて頂きます」
「そうですか」
「これからどうされますか」 
 今度は親父が問うてきた。
「一体」
「お湯も楽しませてもらいましたし」
「お部屋に戻られますか」
「そこで休ませてもらいます」
「朝までですね」
「そうさせて頂きます」
「わかりました」
 親父は本間に畏まって答えた。
「ではです」
「それならですか」
「お戻り下さい」
「それでは」
 本間は親父の言葉に頷いた、そうして彼の案内で部屋に戻った。既に部屋には布団が敷かれていて彼はそこで寝ようとしたが。
 暫くして湯にいた女達とは別の女達が来た、三人いた。女達は部屋に入ると彼の前に正座して畏まって頭を垂れて言ってきた。
「おもてなしをさせて頂きます」
「お酒も用意しました」
「今宵はお楽しみ下さい」
「再びですね、ですが」
 本間は女達の顔を見た、三人共美しい顔立ちである。色香が尋常ではない。その色香に内心湧き上がるものを感じつつ言った。
「宜しいのですね」
「はい」
 女達は一言で答えた。
「その為に参りましたので」
「今宵はお情けを」
「お願いします」
「ですか、では」
 本間も男だ、それでだった。
 部屋でも女達を楽しんだ、そして酒も。そのうえで朝を待ったが。
 朝食も馳走でありそれを食べるとまた湯に勧められ昨日の夜の湯の時とは別の女達のもてなしを受けた。
 湯と馳走、そして女達に酒を楽しみその中で日々を過ごした。そうして有給が終わり東京に帰る時に。
 親父に彼は宿代を祓った後で尋ねた。
「このお宿で気になったことがあります」
「何でしょうか」
「宿代の安さとおもてなしのことと」
 そしてとだ、彼は言うのだった。
「貴方達が得られるものがあると」
「言われましたか」
「その得られるものとは」
「狐のことはご存知でしょうか」
 親父は微笑み本間に答えた。
「この生きもののことは」
「狐ですか」
「狐は妖力を持っていますね」
「それで人を化かしますね」
「化かす為にも使いますが」 
 その妖力をというのだ。
「それだけではないのです」
「妖力は」
「そうです、妖力を備えれば」
 狐がというのだ。 
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