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受けた傷の分だけ

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第一章

                受けた傷の分だけ
 谷崎彩は道の片隅にあるものを見て母の敦子に言った。
「お母さん、あそこに」
「あっ、猫ちゃんが」  
 見れば背中や脚、頭の上は黒に近い灰色で腹や口や喉は白い。顔の灰色と白の分かれ目が三角になっている。
 母はその猫を見てぱっちりとした大きな目で黒髪をおかっぱにしているまだ小学三年生の娘に言った。
「いるけれど」
「動かないよ」
「死んでるのかしら」
「死んでたら」
 彩は心配する顔で言った。
「どうしようかしら」
「ちゃんと弔ってあげないといけないわ」
 その時はとだ、母は娘に話した。
「ちゃんと弔ってあげないと」
「そうよね」
「だからね」
「生きていても死んでいても」
「ちゃんとしてあげましょう」
「死んでいたら弔って」
 それでとだ、母は娘にさらに話した。
「生きていたらね」
「どうするの?」
「どちらにしても放っておけないから」
 だからだというのだ。
「病院に連れて行ってあげましょう」
「それでうちで飼うの?」
「そうね」 
 このことは娘に言われてだった、母ははっとした顔になって応えた。
「そうしてあげましょう」
「それじゃあね」
 彩は猫のところに行って持った、すると猫は傷付いていて随分と痩せていて毛もボロボロになっているがまだ生きていた。それでだった。
 二人で猫を病院に連れて行った、すると獣医は二人に話した。
「あと少し遅れていたら」
「危なかったですか」
「かなり餓えていて衰弱していて」
 獣医は彩の隣にいる彼女の母に話した。
「本当にです」
「あと少し遅れていたら」
「手遅れになっていました」
「そうでしたか」
「はい、ただ」
「それでもですか」
「何とか助かりました、ただこの子は重くはないですが目と脚に傷害を持っています」
 獣医は診察の結果を話した。
「それで目が見えにくくて歩きにくくなっています」
「どうしてそうなったのでしょうか」
「外部から受けた傷ですね、多分人にやられたのでしょう」
「猫ちゃんにそんなことする人がいるなんて」
 彩はその話を聞いて悲しい顔になって言った。
「酷いわ」
「そうね、前は飼われていて捨てられたのかしら」
「酷い飼い主もいますから」 
 獣医は母娘に彼も悲しい顔になって話した。
「ですから」
「そうですか」
「ですがこの子は貴女達に助けられました」
 獣医はこうも言った。
「それでこれからですが」
「助かるんですね」
「はい」
 獣医は彩の問いに答えた。
「大丈夫です、少し休養が必要ですが」
「それでもですか」
「もう命の心配はありません」
「そうですか」
「じゃあ飼ってあげよう」
 彩は母に獣医の言葉を受けて言った。 
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