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漢の意地

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第四章

「あの者はあくまで宋の為に戦っているな」
「左様です」
「宋の為に決死の覚悟で戦っています」
「その志は間違いありません」
「そこに私はありません」
「悪事は一切せず」
「己のことなぞ構っていません」
 まさに全てを捨ててとだ、元の将軍達もそこは確かだと言った。
「何もかも」
「寝食を忘れる程です」
「贅沢もせず」
「ただひたすら宋のことを想っています」
「そこまでの心の者だ」
 だからだというのだ。
「若し朕に仕えたならだ」
「元に無私で仕え」
「大いに働いてくれますか」
「だからですか」
「万歳老はあの者が欲しいですか」
「元の為に」
「そうしたい」
 こう言って文天祥をさらに欲しいと考えた、そうしてだった。
 宋をさらに攻めさせた、宋は要地の襄陽も失い遂に都の臨安も攻め落とされた。
 その間も文天祥は戦っていた、だが彼は勝つことはなく敗北に敗北を重ねて遂にだった。
 捕らわれた、そうして大都に送られたが。
 何があろうと、誰に言われようとも彼は降ろうとしなかった。獄中でこう言うばかりだった。
「私は宋の臣だ」
「だからか」
「そうだ、決してだ」
 それこそというのだった、降る様に勧めてきた者に。
「私は降らぬ」
「そう言うがもう臨安は我等のものとなり」
 元の者は文天祥に語った。獄中にいる彼に。
「そしてだ」
「宋もか」
「日増しに追い詰められてだ」 
 そうしてというのだ。
「後は幼い皇帝が広州の方に逃れている」
「そのことは聞いている」
 文天祥は毅然として答えた。
「私もな」
「それならわかるだろう」
 元の者は彼にこうも言った。
「もうだ」
「宋は滅びるか」
「それは避けられない」
 文天祥に対して強い声で告げた。
「最早な」
「だからか」
「滅びる国に忠義を尽くして何になる」
「それ故にか」
「降るのだ」
 まさにというのだった。
「元にな、そして」
「フビライ殿にか」
「臣従してだ」
「仕えよというのだな」
「そうだ、そしてだ」
 そのうえでと言うのだった。 
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