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ヘドロ

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第七章

「嫌になる位に」
「そうした場所だったってことはな」
「覚えておいていいですね」
「ああ、だからまずな」
「徹底的に掃除しますか」
「ヘドロをすくってな、そしてな」
「それからですね」
「マンションを解体してな」
 そしてというのだ。
「もう後はな」
「何も残さないんですね」
「腐った場所なんかな」
 達也は今度は忌々し気に言った。
「そうするに限るさ」
「跡形もなくですか」
「最初から何もなかったみたいにな」
「そこにいた連中もですね」
「ああ、屑は反面教師にはなるがな」
「それでもですね」
「そんな連中がいたってこともな」
 そのこともというのだ。
「もう最初からな」
「なかったことにですか」
「してしまえばいいんだよ」
「そういうものなんですね」
「さもないとな」
 それこそというのだ。
「腹が立つだけだしな」
「そうした連中がいたって思うだけで」
「だからな、あのマンションもな」
「そうするんですね」
「そうだよ、けれどこれでわかったな」 
 達也は今度は穏やかだがしっかりとした顔と声になった、そのうえで唯和に対してこうも言うのだった。
「腐った連中はな」
「どんどん腐ってですね」
「他には誰も寄り付かなくなってな」
「腐り果ててですね」
「誰もいなくなるんだ」
「そういうことですね」
「とことんまで腐るとそうなるんだ」
 こう唯和に話すのだった。
「人も場所もな」
「ヘドロですね」
「ああ、本当にヘドロだよ」
「腐ったらどんどん腐って」
「最後には誰もいなくなるんだ」
「そうなっていくんですね」
「そのことは覚えておけよ」
 達也に語った、そして実際にだった。
 マンションは内部を徹底的に掃除された後でそのうえで解体された、後にまたマンションが建ち公園も出来た、だが前にあったマンションのことはもう誰も語らずやがて忘れられていった。腐りきったその場所のことは。


ヘドロ   完


                   2019・6・16 
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