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戦闘携帯のラストリゾート

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快刀乱麻を断つ

ポケモンカードによるレンタルポケモン。技は四つに制限されているからわたしやアローラのポケモンよりは弱いかと思ったらとんでもない。
 バトル中に条件を満たすことで一度だけ使えるというGX技、ジュカインの【ジャングルヒールGX】の効果により手持ちすべてを回復させるなんてとんでもない効果。

「こんな状況くらい、切り開ける・・・・・・それが、わたしがここに来た理由だから」

 幸い、今対面しているのは虫・鋼タイプのハッサムと草タイプのジュカイン。わたしのハッサムの方が有利だし、まだ控えもいる。

「交代だトロピウス!」
「その隙に『剣の舞』!」

 だから、サフィールの交代は読めてる。その間に攻撃力を上げて・・・・・・メガシンカも、ここで切る!

「『バレットパンチ』!」
「『エアスラッシュ』!」

ハッサムの体がより大きく堅く、全身を鋼の弾丸にしたみたいにトロピウスに突っ込む。先制技は威力が高くないけどそこは特性『テクニシャン』で威力が上がるから問題ない。
 風の刃がそれでも体力の削れたハッサムを攻撃する。でも能力の大きく上がったこの状態なら、こっちの打ち込みの方が早い!

「・・・・・・ルンパッパ!」
「『連続斬り』!」

 倒れたトロピウスと交代したルンパッパに、今度は虫タイプの攻撃をする。『連続斬り』は威力が低いけど、『テクニシャン』でさっき同様威力はあがる。

「まさかバトン要因がメガシンカなんて・・・・・・ええい『地球投げ』だ!」

 ちょっと焦ったようなサフィールの声。でもその判断は的確だ。メガシンカしても体力は変わらない。そして『地球投げ』は相手の防御力などに関係なくダメージを与える技。
 切り込んだハッサムの腕をルンパッパががっちりと捕まえて、陽気な顔のまま大ジャンプ。
 ハッサムの頭を下に持ち替えて落下に、そのまま地面に激突した。

「・・・・・・ありがとう、ハッサムが最初に頑張ってくれたおかげで勝てそう」
 
 バトルフィールドから戻したハッサムに直接お礼を言った後、ポリゴンZをフィールドに出す。
 もうほとんど体力は残っていない。大技なら一発だって耐えられないだろう。それはサフィールも承知のはずだ。だから──

「『ハイドロポンプ』で終わりだ!」
「ポリゴンZ・・・・・・『破壊光線』」
「えっ・・・・・・」

 勝負を決めようとした大技を、それ以上の最大火力で押し返す。ポリゴンZの特殊攻撃力が放つ身の丈を遙かに超える光線は。ルンパッパの生み出した激流を蛇口にスプーンを押し当てたように軽々と飛散させ、相手の体を打ち抜いた。
 これで二体を倒しきり、残るはジュカインだけ。
 最後のジュカインを繰り出したサフィールは・・・・・・笑った。

「まさか体力が全快した二体を倒すとは思わなかったけど・・・・・・とんだプレイングミスだったね」
「どういう意味?」
「『破壊光線』は強力だけど、その後反動で動けなくなるデメリットがある。そしてポリゴンZの体力はわずか・・・・・・これで決まりだ、『リーフブレード』!」

 サフィールの言葉通り、動けないポリゴンZをジュカインが一閃する。当然持ちこたえる体力なんてないから、赤と青のからだがネジの止まったゼンマイ人形みたいに倒れた。
 
「さあ、これで緒戦はオレの勝ちだね。GX技自体知らなかったんだから無理もないけど、次はお互い万全でミスなく──」

 ・・・・・・少し安心する。バトルが終わったサフィールは始まる前の彼と同じ、気さくな男の人だ。負けた相手をバカにしたり、弱いことに腹を立てる人じゃない。
 だけどわたしは、怪盗としてそう簡単に負けるわけにはいかないから・・・・・・できるだけ冷静を保ったまま、こう言う。
  
「それはどうかしら?」
「何言ってるのさ、君のポケモンはもう全員戦闘不能になったじゃないか」
「まだわたしのポケモンは、残ってる!出てきてグソクムシャ!」
「なっ!?」
 

 ボールをタッチするとフィールドにグソクムシャが現れる。特性『新緑』によって威力の上がった『リーフストーム』に吹き飛ばされて体力はほとんどない。でもまだ戦う力は残ってる。

「さっきはごめん、ハンデみたいに思われるなら一撃で決める!『であいがしら』!」
「させない、『こらえる』!」

 グソクムシャの場に出たときだけ使える先制の強烈な突進、それをジュカインは同じく相手の行動の先をとれ、わずかに体力を残して耐える技で応える。


「もうイバンの実はない! だから・・・・・・『アクアジェット』で終わりよ!」

 
 先制に継ぐ先制攻撃。わたしの最も得意な戦法で、ジュカインの体力を削りきった。倒れたジュカインが自動的に消え、決着がつく。
 
「どうして・・・・・・」 
「『きあいのタスキ』を持たせてた。『吸血』でグソクムシャの体力は全回復してたから、その効果は発揮できる」
「でも、あのときは普通の交代とは違った。ポケモンが自分から・・・・・・」
「グソクムシャの特性は『危機回避』。体力が半分以下になったとき、瀕死になったのと同じように自分からボールに戻って交代する」
「・・・・・・!」

 直接表情は見えないけれど、敗因を追求するサフィールの声はやっぱりとても真剣だ。 バトルの前や勝ったと思った後の彼の気楽さ、ちょっと抜けた雰囲気とは、別人みたい。

「・・・・・・・・・・・・うん、オレの負けだよ。知らないGX技を見ればもう少し同様するかと思ったけど、クールな怪盗の噂に偽りはなかったみたいだね」

 でも、本番は負けないよ。必ず君をシャトレーヌを出し抜いて捕まえてみせる。わたしが答える前に、そう力強い声が部屋に響く。
 それと同時に『対戦を終了します』というアナウンス。
 サフィールは、軽い気持ちでわたしを捕まえようとしてるんじゃない。シャトレーヌが捕まえられないような怪盗を自分で捕まえたいんだ・・・・・・と思う。

(絶対、シャトレーヌに捕まらずに盗みださないとね)

  草原の島を映し出していたディスプレイが消え、暗闇に戻る。・・・・・・映像が綺麗なのとバトルに集中してたから忘れそうだったけど、ここは小さな部屋の中。
 緊張の糸が切れたわたしは、大きく息をついて後ろを振り返った。

「勝ったよレイ。見張りありがとう」

 ■■☆■■
 ■☆☆☆■
 ☆・☆・☆
☆☆☆☆☆☆☆
 ■■☆■■
 ■■☆■■

まるでクリスマスツリーみたいに、☆の模様が赤と青にピカピカ光る。初めての表情だけど、言いたいことはよくわかる。お祝いしてくれてるんだ。ちょっとまぶしいけど・・・・・・それくらいレイも、勝ったのを嬉しいと思ってくれてる。
 わたしはピカピカ光る石のような肌をゆっくり撫でて、その気持ちに応えた。触られた部分のレイの目が、くすぐったそうに閉じたりして、自分も撫でてと言いたげに他の体(ツンデツンデはたくさんの同じ生き物が集まって一つのポケモンとして扱われてる)がよってきてクリスマスツリーは崩れる。それが微笑ましくて、つい笑ってしまった。

【その様子だと、無事勝利を収めたみたいですね】
「うん、ちょっと追い詰められたけどなんとかね・・・・・・ってスズ」

 突然スマホから聞こえるスズの声に反応してレイがボールに戻る。

【バトルが始まる前に調べきるつもりでしたが、思ったより時間がかかりましてね】
「・・・・・・スズが?」

 スズの立場はアローラのポケモンバトルの全権を握る管理者で、他の地方の管理者ともコンタクトが取れる。それはつまりポケモンに関することならほとんどすべての情報を集められるということで。トレーナー一人の素性を調べるなんて簡単のはず。

【彼に気をつけろ、と言ったのはスズですし、狙われる当事者なので伝える義務があると思いますから隠しはしませんが・・・・・・彼について話す上で、一つ約束して欲しいことがあります】

 基本ふざけ通しのスズがまるでバトルのアナウンスのような機械的な声で言う。

「・・・・・・話されたことをサフィールに直接言わない、とか?」
 わたしも他人にあまり触れられたくない過去がある。情報としてスズに聞いたからと言って、本人にそのことを話すような真似はしないつもりだ。
そこはむしろ、あなたの判断でご自由に。そう流してスズは言った。
 
【──サフィール・キュービック。彼が何を言おうと、一切の同情をせずただ宝を盗む上での障害として認識をしてください】

 聞き覚えのあるフルネーム。聞いたこともない冷たい言葉が。わたしからバトルに勝った心地よさを吹き飛ばした。
 
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