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魔法少女リリカルなのは~とある4人の転生者~

作者:通行人B
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第9話 幻想卿

「勘弁してくれよ」

と、目の前の仮面に向かって黒鍵を構えながらため息混じりに呟く。だがその返答は言葉によって示されることはなく。

『…』

閃光が迸る。

「ッ!!」

それに対して体を反らして回避しつつ黒鍵を投擲する。

「チィッ!」

仮面が今閃光を放ったとは逆の手を構えて黒鍵に向かって再び閃光を走らせる。その閃光は黒鍵を一瞬にして飲み込みその延長線上にいた俺に向かってまっすぐに飛来してくる。だが、初撃の回避で万全な体勢でなかった俺に先程のように余裕を持って回避することは出来ない。

「南無三!」

閃光に飲み込まれる寸前に地面についていた脚の脚力を用いて全力で後方に飛ぶことで何とか回避するが体勢を崩してしまう。

「やっぱダメか…やるっきゃないか」

とは言ったものの閃光による遠距離攻撃に対してこっちは黒鍵こそあるもののほぼ接近戦という選択肢しか存在していない。しかもこの距離ではさっきのように黒鍵は避けられる可能性が高い。となると、あの鬼みたいな速さの閃光を回避して仮面にたどり着かなくてはならないのだが…

再び閃光が迸る。

「こいつ、俺と戦うのかコイツらと戦うのかハッキリして欲しいんだが」

といいつつも。へたり込んでいる自分の横を通過していった閃光が後方に迫っていた食屍鬼の一団を焼き尽くしたのには振り返らない。今分かっているのは仮面の標的は俺だけではなく食屍鬼も含まれていると言うこと。それも優先順位としては食屍鬼達への攻撃のほうが高い模様。ならば…

「そこに付け込めばなんとか仕留められるか?」

欲を言えば仮面を使って食屍鬼の数を減らせれば尚のこといいのだが、途中でこちらに狙いを変更してくる可能性もある。ならば、食屍鬼を優先させている今しかチャンスはない。幸いにして先程の攻撃で後方の食屍鬼は排除された今なら挟み撃ちに遭う可能性もない。問題は、

「いかに早く相手の間合いに踏み込むかだな」

仮面が自分の両側に陣取っている食屍鬼に攻撃を放つタイミングで仮面と自身の間にある数十メートルの間合いをつめる必要がある。少しでも遅れれば自分も食屍鬼達と同じく消し炭だ。

「そしてその上で一撃で戦闘不能に出来なければ、今度はゼロ距離であの閃光を食らうわけで…避けられずに死亡というわけだ」

だが、あいにくとただ殴っただけで沈められるとは思えない。ならば…

「まだ八割がたしか完成してないけど使うしかないか」

来るべきその瞬間に備えて魔力による肉体強化を付与し、左手に黒鍵を再度展開。そして、右手を広げ魔力を集め始める。これで後は相手が動くのを待つのみ。動いたその瞬間に勝負をかける。だから、ただ今はそのときが来るまで精神を研ぎ澄ませる。

そして、その瞬間はやってくる。

「ッ!!」

仮面が自身の殺傷圏内に入った食屍鬼に向かって両手を向けた瞬間に全身の筋力をフルに解放して高速で相手に迫りつつ、左手の黒鍵をそれぞれ投擲して仮面の両側、食屍鬼のいる方向から仮面に向かうルートに乗せる。これによって仮面は食屍鬼と黒鍵の迎撃のために絶対に両方向に向けて閃光を放たなければならなくなった。

『…』

それでもなお、仮面に動揺の様子は見られない。自身にまっすぐ向かってくる俺が目に入っているというのに。仮面は両サイドに向かって閃光を放ち、黒鍵と食屍鬼を沈黙させる。

「(決める!)」

仮面が閃光を放つのを確認すると同時にさらに加速をかける。仮面の放った閃光が対象を焼き尽くし、光を放つ両の手は目の前と言えるほどの距離になった正面にいる俺に向けられる。だが、この距離まで来れば…

「もう遅い!」

仮面の閃光が強大になり放たれようとしたその刹那、この一挙手一投足の間合いで稼いだ時間で十分なほどになった右手(・・)の光る球体…螺旋丸が仮面に向けて放たれる!

『…』

そのまま腹部に直撃を受けた仮面は地面に叩きつけられるがそれでもなお閃光を放とうとする。

「さ、せるかぁああああああ!」

それに対抗して球体にさらに魔力を練りこんでいく。その余波で周囲に大規模な衝撃波が発生し、粉塵がまう。

『!』

仮面も閃光を放たんとしているが先程よりも光が弱まりつつある。もう少しだ。あと、少し…

「うぉおおおおおおおおおお!」

そして…

『!?』

仮面の手から光が消えた。それと同時に右手の球体も消えていった。

「危なかった…まさか食らってる間も撃とうとするとは思わなかった。なんとか押し合いに勝ったから良かったものの普通の螺旋丸だったらアレで打たれて終わってたな」

先程の攻撃…ただの螺旋丸ではなく、ハルの助言を得てその場しのぎで作った偽・螺旋丸ともいえる技。通常の螺旋丸とは違って圧縮と回転を同時に行いフレキシブルな威力調整を可能とした方式に変更し、尚且つ最後の段階である留めるという過程を行わないことでぶつけた後も魔力をこめることが出来、結果として当てた後の打ち合いで押し切ることが出来た。もっとも、距離や時間を計り間違えると相手にぶつける前に霧散してしまうというのが難点だが。

「でも、魔力使いすぎたかもしれねぇ。気が、遠く、なってきた…一応、使っておくか」

先程の押し合いで魔力を大量に消費したせいかだんだんと意識が遠のいていく感じがする。このまま気絶するのはまずいのでレオ神父から預かっている発煙筒を焚いて、救難信号を上げる。多分しばらくすればちぃさんたちが回収に来てくれるだろう。そろそろ意識が途切れそうになってきたが、その前に…

「さて、その面、拝ませてもらいますか」

と仮面が完全に沈黙しているのを確認してその仮面を剥がそうと手をかけた瞬間、

『汝…我、担手也』

「ッ!?」

反応する間もなく仮面が呟きと共に発した黄金の閃光が俺の体を貫き、今度こそ完全に俺の意識を刈り取った。

………

……



「…クヤ、朔也!」

聞き覚えのある女性の声が俺を呼んでいるのが聞こえてきて、俺の意識は再び浮上する。

「ちぃさん?」

目を開けると先程の声の主である女性…東堂千秋が心配そうに俺のことを覗き込んでいた。

「はぁ、無事で良かったわ。いきなり救難信号があがるから急いできたら朔也が倒れててビックリしたのよ?」

「確かに出来る限り使うなとは言ったがそんなに追い詰められるまで耐える必要はなかったのだぞ?」

「スイマセン。ちぃさん、レオ神父」

だいぶ2人に心配をかけていたようだ。レオ神父のアレも冗談だったのだろう。俺が真に受けてしまっていたことに申し訳なさそうにしている。

「それにしてもこの辺りのこの惨状は何事だ?朔也、何か知っていないか?」

レオ神父が回りを見渡して俺に聞いてくる。暗に俺がやったのかという意味だろう。2人ともここには俺と食屍鬼以外いないと思っている。

「いえ、矢鱈めったに光線撃ってくる仮面をつけた奴が食屍鬼殺しまくってて多分そいつがやったことじゃないかと…」

「…幻想卿」

「なに?」

俺の説明にちぃさんが小さな呟きを返す。レオ神父もその呟きに反応する。

「幻想卿?」

「…朔也、正直に応えて。その仮面の奴はどうしたの?」

ちぃさんの口にした聞き覚えのないワードを聞き返すと不意にちぃさんが血相を変えて俺に詰め寄ってきた。…何かにあせっているのか?

「いや、普通に戦って倒し…」

と言った辺りでようやく自分が倒れる寸前の出来事を思い出した。あの時確かに仮面が放った黄金の光に体を貫かれたはず…なのに何故俺は生きている?

「ッ!!」

「どうしたの!?」

言葉を途中で区切って、いきなり俺の顔色が変わったことに気づいたちぃさんの問いかけにも答えずカソックを脱いでいく。そして、

「え…」

「なんだと!?」

「やはり、そうなのね…」

困惑、驚愕、悲嘆…俺の体に刻まれていた『モノ』に三者三様それぞれが反応を示す。そこには…

「なんだよこれ…」

胸に赤く血で描かれたような刺青が刻まれていた。 
 

 
後書き
タイトルにもあったキーワードですが結局今回ではあまり触れられませんでしたが次回で朔也に刻まれたあの刻印とともに語られます 
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