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葉限の魚

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第一章

               葉限の魚
 春秋時代の越の話である、この国に呉洞という有力な士大夫がいて彼には二人の妻がいてそれぞれの間に娘がいた。
 一人の妻の間には葉限という非常に美しく聡明な娘がいて黒い髪と琥珀色の切れ長の瞳を持っていた。もう一人の妻の間には華限という娘がいた。こちらは非常に優しく穏やかな娘で小柄で丸く澄んだ瞳を持っていた。
 姉妹の仲はよかったが母親同士はそうではなくやがて葉限の母が死ぬと華限の母は自分が家を仕切る様になり葉限を邪険にしはじめた、だがそんな母から華限はしきりに腹違いとはいえ妹にあたる彼女を穏やかながらも守っていた。
 それは自分がいつも妹といることでそうしていた、これは家の使用人の一人に言われたことがだが華限もそれならと思いそうしていた。
 そんな中でだ、姉は妹に言うのだった。
「私だけじゃ貴女を守り切れないかも知れないわね」
「だからなの」
「ええ、どなたかね」 
 自分よりずっと背の高い妹に言うのだった。
「もう一人頼りになる方がおられたら」
「そうは言っても」
「お父様もおられて家の使用人達も味方してくれているけれど」
 それでもと言う華限だった。
「お母様はもう家のことを完全に取り仕切っておられるから」
「お父様の知らないところで」
「使用人達も逆らえないし」
 二人に同情して陰ながら助けてくれてもというのだ。
「困ったわね」
「どなたかなのね」
「私以外に貴女を助けてくれたら」
 姉はこう思っていた、だが彼女以外に葉限をいつも守ってくれる人はなく葉限は継母に辛くあたられ続けていた。
 その中でいつも通り二人で一緒にいて屋敷の外の池のほとりで二人で花を観ているとだった。
 葉限はふと池の方を見て華限に言った。
「姉さん、奇麗なお魚がいたわ」
「お魚?」
「ほら、見て」
 こう言って池の方を指差して姉に指し示すとだった。
 そこに一匹に赤い鰭に金色の目をした魚がいた、葉限はその魚を指差しつつ華限に言った。
「あのお魚奇麗よね」
「変わったお魚ね」
 華限もその魚を見て述べた。
「赤い鰭で目は金色で」
「そうよね」
「じゃああのお魚を捕まえて」
 それでとだ、姉は妹に提案した。
「私達で飼いましょう」
「そうして育てるのね」
「そうしたらどうかしら」
「ええ、それじゃあね」
 妹は姉のその言葉に頷いてだ、そうしてだった。
 妹は家から盆を持ってきてだった、そこに魚をすくって入れて家に持って行って二人で飼いはじめた。
 魚は二人を見ると姿を見せるがそれでもだった。
 二人以外だと姿を見せない、そしてだった。 
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